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第267話 シン・パンケーキ

 部屋へ戻ると夕食の準備が出来たということで、食堂に移動することになった。カラーヤ侯爵は、妻のファニータさんが艷やかになったことを凄く驚いていた。


 全員着席すると料理が運ばれてくる。


「まずはワインと希少肉の食べ比べでございます。左からギアラタウルス、キングタウルス、マスプロマンショ、ロートコメートマンショ、シュトゥルムヴェヒターとなっております」


 最初は肉の盛り合わせなどの酒に合うメニューとなっている。


「キングタウルスに、シュトゥルムヴェヒターだと!」


 料理人が説明するとカラーヤ侯爵が驚く。


「ロートコメートマンショは来る時に仕留めたやつだね。あたしは食べるのが初めてだけど、アルバンはあるかい?」


「儂も初めてだな、儂にぶつかったヤツは、見た目で食べられる状態じゃなかったからな」


 おじい様とおばあ様、魔物をミンチに変えるの得意ですからね。


 それにしてもペンギンは美味しくないと聞いたことがあるのだけど、どうなんだろうか。


 取りあえず初めて食べるマスプロマンショからだ。


 ナイフで切ってみると、肉汁が溢れ出し、美味しそうな匂いが食欲をそそる。


 一口分を切り取り、口に運ぶ。思ったより肉は柔らかくジューシーだ、鶏肉というより豚肉に近く、とても美味しい肉だった。


「マスプロマンショって美味しいんですね」


「あたしも食べるのは初めてだけど、普通のオーク肉よりはこっちの方が好きね」


 おばあ様も気に入ったようだな。次はロートコメートマンショの肉を食べてみよう。


 見るからにマスプロマンショの肉とは全く違う肉質で、焼いてあるにもかかわらず真っ赤な肉だ、オークキングに近いのだろうか。


 先程と同じように一口分を切り取り、口に運ぶ。


「――!」


 美味しい! なんだこの肉は、食べ比べ用のステーキは塩コショウしかしてないはずなのに、スパイスが効いてるかのごとくピリリと辛い、その辛さがさらに食欲を誘いあっという間に、無くなってしまった。


「ロートコメートマンショも初めてだが、酒にピッタリの肉だな。帰りも捕りたくなるぐらいの美味しさだな」


「アルバン様、とても酒が進みますな」


 おじい様とカラーヤ侯爵はロートコメートマンショをかなり気に入ったようだ。


「カラーヤ侯爵領を苦しめていたキングタウルスとは、ここまで美味しい肉なのですね」


「そうですね、見た目はピンク色で食欲が湧きませんが、口の中で溶けてしまうような感覚ですわ」


 セレーナさんとファニータさんが、キングタウルスを食べた感想を言っている。スタンピードの元凶の肉はやはり気になるようだ。


 シュトゥルムヴェヒターの肉やリゾットなども好評で、最後にデザートが運ばれてくる。


「新作のパンケーキでございます。シロップや生クリーム、アイスクリームやフルーツなどと一緒にお召し上がり下さい」


 現れたパンケーキは3段重ねになっており1枚の厚さは3センチぐらいあるので、見栄えもかなりボリュームがある。


「エドワード? 3段になっているのは凄いが、いつものパンケーキと違うのかい?」


「作り方が若干違うので、食感が変わっていると思います」


「そいつは楽しみだね」


 みんなは一斉に、パンケーキにナイフを入れる。


『――!』


「なんて柔らかさなんでしょうか!?」


 パンケーキ自体が初めてのセレーナさんがふわふわに驚き、ファニータさんが頷く。


 おばあ様はまず何も付けずに一口食べる。


「――! 見た目は似ているけど、いつものパンケーキとは全然違うわ。ふんわりとした生地は口の中でとろけるように溶けていき、もちもちとした食感は噛むたびに幸せな気持ちが溢れて、いつものシュワっと口の中でなくなるのもいいけど、パンケーキそのものの味はこっちの方が美味しいわね」


 さすが、おばあ様見事な食レポです。厚めのパンケーキが3枚もあったのだが、あっという間にみんな完食したのだった。


「それにしてもエドワード様は多才ですな」


「儂とクロエの孫だから当然だろう」


 カラーヤ侯爵とおじい様が会話をしているのだが、おじい様の自信はどこからくるんだろう。


「確かに2人の子であるハリー様も破格であったが、それにソフィア様の血も加わったせいか、全く底が見えませぬな」


「これでまだ7歳だから、まだまだ成長するぞ」


「ヴァルハーレン領の将来は実に明るいですな?」


「うむ、エドワードがもっと成長するまで、まだまだ死ねんわい」

 

 ……おじい様には長生きしてもらわないと困るな……。


「エドワード様、少しお疲れのようなので、もうお休みになられてはいかがでしょうか?」


「どうしたの?」


 ジョセフィーナが声をかけてきた。どうやらウトウトしていたようだ。


「その方が良いわね。エドワードはもう休みなさい。ジョセフィーナ、エドワードを連れていきなさい」


「畏まりました」


 今日一日、色々あったせいか疲れてしまったようだ、ジョセフィーナに抱きかかえられて運ばれるのだが、部屋に行くまでの間に寝てしまったのだった。



 ◆


 朝になり目覚めたのだが。


 ……寝落ちした所までは覚えているのだが、色々と気になることがあるな。まず寝巻に着替えられていることが1つ、もう1つは体が洗われていることだ。


 今までに何度か寝落ちしたことはあるが、こんなことは初めてである。いや、そういえばメグ姉の時にあったか。着替えはジョセフィーナが手伝うことはあるので、まだセーフなような気もするが、風呂にまで入れるか? 最初、体を拭いただけなのかとも考えたが、この髪のさっぱり感は風呂に入れたのだろうと思う。


 まあ、一旦睡眠に入ると何が起こっても、全く気がつかない僕もどうかとは思うが。


「おはよう、ヴァイス」


『エディ、起きたのか。昨日は疲れが溜まってたようだな』


「そうみたいだね。ところで昨日、僕が寝た後に何があったか知ってる?」


『誰がエディを風呂に入れるかで、決闘してたやつか? なかなかおもしろいイベントであったぞ』


 決闘って、予想の斜め上を行きすぎていた。


「それは、誰が勝ったのか知ってるの?」


『うむ、いつも傍にいる金色と、ヘンタイの白色が勝者となって、エディを洗う権利を獲得しておったな。まあ金色はあの中では圧勝だったが、白色はかなり工夫して勝利をもぎ取っていたぞ、なかなかの見応えのある戦いであった』


 傍にいる金色ってジョセフィーナのことだよな、ヘンタイの白色って白色はリーリエしかいないが、ヘンタイ要素なんてあったっけ?


「それにしても、決闘だなんて、どうしてそんなことに……」


『それは、エディの祖母が『疲れて起きないと思うから洗っておいて』と言ったからだろう』


 おばあ様が原因だったのか! ある意味納得しちゃったよ。


 ヴァイスと会話していると扉が開かれる。

 

「エドワード様、おはようございます」

「「エディ様、おはようございます」」


 昨晩の勝者2人とボクっ娘ノーチェが入ってきた。金色はいつも通り無表情だが、残りの2人は至る所に痣が出来ている上にちょっと顔が赤い。


「リーリエとノーチェ、痣が出来ているけど、どうしたの?」


「昨晩、少し激しめの訓練をいたしましたので」

「体が鈍らないよう、偶にしているのです」


 リーリエとノーチェが食い気味で答える。まるで用意されていたかのような回答だな。


「2人とも、ちょっとこっちに来て?」


 近く2人を魔法で治してあげると、ジョセフィーナが心なしか失敗したって顔をしているように見えた。

 

「エディ様、ありがとうございます……」


 そう言って震えるリーリエ(ヘンタイ)の表情はちょっと怖かった。


「それではエドワード様、着替えて朝食へ行きましょう」


 ジョセフィーナが手伝って着替える。それにしても、騎士団のメンバーにいるヘンタイは数人だと思っていたのだが、認識を改めなければいけないようだ。

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