第265話 追加注文?
カトリーヌさんと共に採寸組が帰ってくると、メイドが呼びに行ったのか、おばあ様たちも戻って来た。
ファニータさんの表情が明るいというか、若返った? おそらく美白液と美容液を使ったのだと思うけど、もしかしてヤバい物を作ってしまったのじゃないだろうか。少しだけ心配になってきたぞ、おばあ様に任せっきりだったけど、ハンナさんとケイティさんが今どんな状態なのか一度確認しないといけないな。
まあ、仮に美白や潤い以外の効果があったとしても、今更禁止にする勇気はないけどね。ただ普通にモイライ商会の商品として売るのは、止めておいた方がいいのかもしれない。
「ドレスの方はどうでしたか?」
カトリーヌさんに尋ねると、カラーヤ侯爵とファニータさんの表情が、緊張した面持ちに変わる。
「そうですね、大丈夫そうなのでお受けしようと思います」
カトリーヌさんがそう言うと、ホッとした表情をした。
「それは良かったです。それではカラーヤ侯爵家からの正式な注文として受けますね?」
「ええ、問題ないわ」
「エドワード様、とても助かりました感謝いたします! 王都に行って準備していたはずの店が無くなっていたのを見た時には、さすがに心臓が止まるかと思いましたぞ」
「ウェチゴーヤ商会と繋がっていたとか?」
「店がもぬけの殻だったので、調べてみたところ裏で繋がっていたようなのです。ジャイアントスパイダーシルクの糸を貴族に売ろうとした元店員が捕まったらしく、そこからウェチゴーヤ商会やブラウとの繋がりが発覚したそうで、かなりの貴族がその店で服の注文をしていたらしく、大変なことになっておりましたぞ」
ジャイアントスパイダーシルクってブラウがオークションで競り落としたやつか、ブラウが亡くなったので、表立って売れないから裏取引きしようとしたのかな?
「そうなんですね、そうなってくるとカラーヤ侯爵のように、うちへ頼みに来る人もいるかもしれないですね。今回の注文の件は内緒でお願いしますね?」
「分かっております。恩を仇で返すような真似はいたしません、まだスタンピードや開拓の恩も返せていないのに申し訳ありませんな」
「気にしないでください。開拓の方は順調に進んでいますか?」
「そうですな、ヒューレーとサルトゥス、どちらも活気に溢れております。エドワード様から作り方を聞いたという、ガレットもとても好評で今では名物となっております。街道の方も整備いたしましたので、スヴェートまでの道のりも以前より楽になり、早く移動することができるようになりました」
「それはよかったです」
ちょうど、話が途切れたところでセレーナさんが質問してくる。
「エドワード様、カトリーヌから結婚の儀のドレスの案を聞いたのですが、とても良い案だと思いましたのでそのままお願いしました。フィレール侯爵騎士団の衣装もエドワード様が案を出されたと聞きましたけど、本当なんでしょうか?」
「案を出したというか、騎士団長がアシハラ国出身で、変わった服装をしていましたのでそこに寄せる形で、いくつか提案しただけなので大した事はしてないですよ? 僕の落書きを物にしたカトリーヌが凄いだけですね」
「提案できる案を想像できるのが重要だと思われますわ。メイド服もエドワード様考案だと聞きましたし。普段着用のドレスなどもぜひ考えていただきたいのですが」
「普段着用のドレスをですか?」
「はい、結婚の儀が終われば、私はそのまま王城で生活する事になります。その際にはアルバート殿下の妻として、恥ずかしい格好をする訳にもいかず出来れば普段着るドレスもお願い出来ればと思うのですが、その際にエドワード様の案が盛り込まれたドレスなら、煌びやかな王城で埋もれる事無く生活出来るのではないかと思いまして」
「エドワード様、私からもお願いいたします。家格で言えば陛下の時のような事が起きる可能性も考えられるため、王城で出来るだけ早く存在をアピールする必要があり、エドワード様の考案されたドレスなら目立つこと間違いなしですな」
カラーヤ侯爵からもお願いされた。確かに陛下の時は侯爵家だったフローレンス様が色々言われたので、仲の良かったヴァッセル公爵家のセレスティア様を第一夫人にしたとか言ってたな。
それにしても、考えるのは一向に構わないのだが、別に目立つために案を出している訳ではないと強く言いたい! この世界にまだない形だから目立つのはしょうがないじゃん。まぁアオザイについては、やり過ぎた感は否めないけど。
実際に作るのは僕ではないので、カトリーヌさんの方を見ると。大丈夫だとサインをくれたのだが、決して奇抜なデザインに興味がある訳じゃないと思いたい。
「分かりました、気に入るかどうかは別ですが、いくつか案を考えてみますね。サイズはカトリーヌが分かっているので、結婚の儀のドレスが出来上がり次第取り掛かれるようにしますね」
「ありがとうございます!」
セレーナさんがお礼を言う。
「よし、上手く纏まったところでエドワード、何か作ってちょうだい。前祝いよ!」
おばあ様、何の前祝いですか? まあ今回はおじい様もいるので頑張りますけど。
◆
厨房へ行くと料理人たちが整列した……何があった?
話を聞いたところ、領内での料理のレベルを上げるためローダウェイクへ勉強に行ったり、ローダウェイクから教えに来たりしているらしい。僕が料理をすることは既に周知の事実となっているとか。料理の神だとかなんとか言ってたのは聞き流しておいた。
問題は何を作るかだが、寒いのでポトフを食べたい気分だ、料理人たちにポトフ、麦を使ったリッコのリゾットなどを指示すると、料理人たちは作り始める。情報や技術が共有されているので領内なら新作以外はどこでも食べられるのは便利だ。
料理はみんなに任せて、デザートの担当者にスフレパンケーキじゃないパンケーキの作り方を説明するが、ベーキングパウダーが入る以外はほぼ一緒だ。フワフワ感は残しておきたいのでベーキングパウダーを混ぜた生地とメレンゲは混ぜて使用する。
ベーキングパウダーは最初、重曹である炭酸水素ナトリウムが登録されたので、重曹でも作れると思ってパンケーキを試しに作ってみたところ、あまり美味しくなかったのだ。ウルスにダメもとで聞いたところ、ベーキングパウダーのレシピが出てきた訳だが。
以前ベーキングパウダーの作り方を聞いた時は分からなかったのに、今回聞いて分かったのはどういう事なんだろうか? 重曹が使えるようになったからなのかは、本人も分からないとの事なので諦めるしかない。
ベーキングパウダーを作るには重曹、クエン酸、米粉があれば作れると言われたのだが、肝心の米粉が無い事に気づく。今度は米粉の代わりを尋ねると、コーンスターチか片栗粉で代用できるということだったが、もちろんコーンスターチは無いので、米粉の代用は片栗粉を使う事になった。
もう1つのクエン酸はレモン汁で代用しようかとも思ったのだが、前から考えていた、酸毒の酸性を弱くした物を試してみたところ、上手くいったので念のため浄化して使用している。
こうしてベーキングパウダーが完成したことにより料理の幅が広がるだろう。まず最初は以前断念したスフレパンケーキじゃないパンケーキからだ。
こうして料理人たちに材料などを渡し、作り方を教え終わったのでみんなの所へ戻るのだった。
最初の頃と違って、作り方を教えるだけで作ってもらえるようになったのは大きな進歩だ。僕が作るよりプロが作った料理の方がより美味しいからね。




