第264話 カラーヤ侯爵
風呂でのブラッシングの話はみんなに聞かれていたようで、結局全員ブラッシングすることになった。
おばあ様から順番にブラッシングしていく。母様、メグ姉、カトリーヌさんの3人はよくやっているが、おばあ様をするのは初めてだな。
「ソフィアの髪をよくブラッシングしているが、これは確かに癖になりそうな心地よさだね」
「そうですか? おばあ様の髪は元々綺麗なので、そこまでの変化はないと思いますよ?」
「それにしても、孫に体を洗ってもらったり、ブラッシングしてもらうっていうのは、言葉にすると介護してもらっているみたいに聞こえるわ」
「確かに言葉にすると、そう聞こえますね」
まあ、おばあ様と呼ぶこと自体が違和感の塊なんだけど。
おばあ様のブラッシングが終わり、順番にブラッシングしていく。失神したり、息遣いの荒い変態が混ざっていたが、気にしないでおこう。
騎士団のみんなはミラブールとブラッシングは初めてなせいか、髪はパサパサとした手触りで、切れ毛や枝毛が目立ったが。特製ブラシでブラッシングする事により、髪のダメージは無くなり艶やかで美しい髪へと変化する。
そして最後のリーリエというか、約束したのはリーリエなのに一番最後がいいんだな。
「エディ様、お願いいたします」
「分かったよ、任せておいて」
リーリエの髪をドライヤーの魔法で乾かしながらブラッシングしていく。
傷んだ髪は特性ブラシで修復して髪本来の美しさを取り戻していくのだが、やはり完全な白ではないな。光を当てると様々な色に見える、まるでホログラムみたいな色だな。真珠も光を当てると様々な色に見えるから、基本パールホワイトということになるのだろうか。
「リーリエの髪、ただの白じゃなくて、真珠みたいにキラキラして前よりも綺麗な色になったね」
「前よりも綺麗!?」
髪のことだよ? まあ、とても嬉しそうなので、このままにしておくか。
◆
次の日になり、カラーヤ侯爵がやってきた。
「カラーヤ侯爵、久しぶりですね」
「フィレール侯爵、会議以来ですな。何やら色々とご活躍されたそうで、アルバン様にクロエ様もお元気そうで何よりです」
「ベルベルトに会うのは久しぶりだな。元気そうでよかったわい」
「話は大体聞いているから、エドワードに任せておけば大丈夫だろう。ファニータも今回は出てきたんだね?」
今回はドレスを作る。セレーナさんだけじゃなく、カラーヤ侯爵夫人のファニータさんも来ているようだ。
「クロエ様、ご無沙汰して申し訳ございません。それにしても、変わってないどころか、以前お会いした時より、お綺麗になられたように感じるのですが?」
「ふふっ、気になるか? 後で色々教えてあげよう」
「ありがたき幸せでございます。セレーナも挨拶しなさい」
「畏まりました。エドワード様にアルバン様とクロエ様。この度は当家のために、お手間を取らせて申し訳ございません」
「セレーナ嬢も久しぶりです。結婚の儀が決まってよかったですね」
「エドワード様、ありがとうございます」
「それでは、早速本題に入りましょう。セレーナ嬢のウエディングドレスに、ブライズメイドのドレスという事でしたが、事前に連絡してあった通り、ブライズメイドについては4人の体格を見て判断したいと思います」
「心得ております。4人は前へ」
セレーナさんが4人を呼ぶと4人は前に出てくる。
「リュミエール侯爵家次女のシーン・リュミエールでございます。エドワード様にお会いするのは、パーティー以来でございますね」
シーン(12歳)は、僕のパーティでフォーントゥナーを分ける際に、手伝ってくれていた子だな。
「ヴェングラー伯爵家長女のタチアナ・ヴェングラーでございます。私もパーティー以来になります」
タチアナ(13歳)は、パーティーには来ていたが、挨拶した程度だ。
「ルージュ伯爵家長女のローザ・ルージュでございます。ファンティーヌ以来になりますね。今でも討伐されたワタツミを見た事が昨日のことのように、目にしっかり焼き付いておりますわ」
ローザ(10歳)には僕を睨む赤鬼の兄弟がいる。ワタツミの名前を出すからみんなに注目されてしまった。
「アルジャン子爵家長女のグレース・アルジャンでございます。パーティーには妹のクレアが参加しておりましたので、エドワード様には初めてお目にかかります」
グレース(16歳)はホワイトブロンドの髪に銀色の瞳をしている。今回のブライズメイドでは最年長になるが、花嫁のセレーナさんが18歳なので問題はない。王太子殿下の結婚の儀とあって、ブライズメイドはすべて貴族の令嬢で構成されているようだ。
大きさ的にはグレースだけは全く別のサイズで、シーンとタチアナは同じぐらいのサイズ、ローザもシーンとそこまで差が無いように見える。
「カトリーヌ、4人を見てどうですか?」
「実際に測ってみましょう。セレーナ様もこのまま測りますので、一緒に別室までお願いできますでしょうか?」
「よろしくお願いします」
カトリーヌさんは5人を連れて、部屋を後にした。
「よし、ファニータ。あたしたちも久しぶりに話でもしようか?」
「畏まりました。お供いたします」
そう言って、おばあ様とファニータさんも部屋から出て行くと、カラーヤ侯爵が口を開く。
「ところで、アルバン様。気になっていたのですが、控えている騎士たちはもしかして?」
「うむ、フィレール侯爵騎士団の者たちだ」
「やはりそうでしたか! 見たこともない装備だったので、ずっと気になっていたのです。ふむ……ミスリルが飾りとはエドワード様の能力は底が見えませぬな」
分かっちゃうの!?
「さすがベルベルト、目が肥えておる。そういえばエドワードの攻撃を見たことがあったのだったな」
「それだけではございません。我が領の悩みの種だった大木をあっさり切ったり、スパイダーシルクで出来たメイド服を量産したり。極めつけは先程話が出た、シュトゥルムヴェヒターでしたかな、聞けばファンティーヌの港を覆い尽くすほどの大きさだったとか」
「うむ、儂も実物を見せてもらったが、血液が沸騰しそうなぐらいの大きさだったぞ」
おじい様、沸騰したら死んでしまいます。
「やはり、それほどですか! 実はその話が聞きたかったのです。ルイドとマルシュからは、ドレスは断られてもその話は詳しく聞いてこいと言われておるのです」
ベルベルトさん、優先順位が逆です。花嫁のドレスが最優先だと思いますよ?
「その話なら、儂に任せろ。クロエから数え切れないぐらい聞いておるからスラスラ言えるぞ」
「ほう、それは楽しみですな」
数え切れないぐらいって……おばあ様、そんなに話しまくってるのですか?
「……」
おじい様が僕のシュトゥルムヴェヒター討伐の話をしているのだが。おばあ様とおじい様、どっちが脚色したのかは分からないが話盛りすぎてない?
一緒に聞いている騎士団のみんなもウットリ聞かない!
この話を色々な所でされてると思うと、恥ずかしくて外歩けないじゃん!




