第254話 ニルヴァ王国からの訪問(下)
ニルヴァ王国から来た貴族グリージョ・スレーティーは、エディ親衛隊にダンジョンから出てくる魔物を討伐させようとしていたのだが、母様によって全ての目論見を潰されてしまったのだった。
グリージョは少し考えると母様に話しかける。
「エドワード様を陛下に会わせないのでしょうか?」
僕を動かせば親衛隊も動くと考えたのだろうか? まあ母様の父様である、おじい様に会ってみたいと少しは思うけど。
「面倒な事になりたくないので会わせません。スレーティー家はストラールの子を、次の王にしたいのだったかしら? 余裕がない所を見ると、まだ王族になれそうな子は生まれていないようね」
「……」
グリージョは返事をしない。つまりスレーティー家から王を出したいのだな。それにしても面倒な事ってなんだろう?
「エドワード、出てきなさい」
「はい、母様」
呼ばれたので母様の隣に行くと。
「そのお姿は!」
グリージョは僕を見て凄く驚いている。
「見ての通りスレーティー家には都合が悪いでしょ? 諦めてさっさと帰りなさい」
「……貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました」
グリージョは肩を落として帰って行ったのだった。
「母様、随分と粘ってた割には、僕を見た途端あっさりと帰って行ったのですが?」
「そうね、一度みんなに話しておいた方が良さそうね。ハリーが戻ったら状況を説明するから、アザリエとそれぞれのリーダーも一緒に聞いて、隊のみんなに説明しなさい」
『畏まりました』
◆
昼過ぎに父様が帰ってきたので、ニルヴァ王国についての話が始まる。
「親衛隊を連れ戻しに来たけど、断ったってことでいいんだね?」
「ええ、そうよ」
グリージョの話を聞いた父様が話をまとめ、母様が答えた。
「それではニルヴァ王国の事について、みんなも知らない事が多いと思うから、1つずつクリアにして行こうか?」
父様が言うとみんな頷く。
「親衛隊のみんなは、ニルヴァ王国ではダンジョンに入っていたのかな?」
「そうですね、ニルヴァ王国にはダンジョンがありましたので、鍛えるには丁度いいということで、活動拠点にしていました」
アザリエが代表して答える。
「エディ様が毛皮を探していると聞いてからは、魔の森に入ったりもしてましたわ。あそこには良い毛皮の魔物が多いので」
守り隊リーダーのヴィオラさんが補足した。
「ヴァーヘイレム王国にはダンジョンがないから、僕も詳しくは知らないのだけど、どんな感じなのかな?」
父様、ナイスな質問です! 僕も気になってました。
「ニルヴァ王国のダンジョンは地下へ潜るタイプの迷宮で、噂によると100階以上はあるようですが、私たちの最高到達階は43階ですね」
アザリエが答えてくれた。100階以上ってかなり深いダンジョンなんだな。
「王家に残された資料では、まだ誰も到達したことはないみたいだけど、108階まであるらしいわよ」
母様の追加情報というか、誰も行ったことがないのに、どうして詳しく分かるのだろう?
「なるほどね、次にダンジョンから魔物が出てくるというのは、どういった状況なのかな?」
「そうですね……少し前からダンジョン内の魔物が急に強くなり、数も異常に増えたせいで、ダンジョンに入るのが難しくなったのです。それからしばらくして、ダンジョンの外まで出てくるようになってしまいまして……」
父様の質問にアザリエが答える。スタンピードみたいなものなのかな? と考えていると母様が話し出す。
「なるほど、そういう事だったのね。言い伝えによるとニルヴァ王国のダンジョンはその昔、厳しい環境で暮らす人のために、神鳥エーデルオラケルが作ったとされています。近隣の魔の森で魔物の発生を減らす代わり、ダンジョン内に魔物が発生するという仕組みらしいのです。おそらく魔の森で起こったスタンピードの影響を受けているのではないかしら?」
エーデルオラケルって、そんな凄いことが出来るの!?
「だとしたら、今ニルヴァ王国は、かなり危険な状況なんじゃないのかな?」
「ハリー、親衛隊の応援を得られないのだから、さすがに他の貴族に助けを求めるんじゃないかしら?」
「スレーティー家と言ったかな? ニルヴァ王国にはどのくらいの貴族がいるのかな?」
「そうね、その辺りも説明するわね。ニルヴァ王国には国王の下に王族がいてその下にスレーティー家、ヴェルデ家、ウルスブラン家、タランドス家と言った4つの貴族がいるわ」
「4つしかないのかい?」
「実際にはもう少し複雑なんだけど、貴族になるためには四家に属する以外の方法はないわね」
「母様、僕見て驚いたり、諦めたりしていたのはどうしてなんでしょうか?」
「やっぱり気になるわよね? さっき国王の下に王族がいるって話をしたけど、王族になるためには条件が必要なのよ。要するに私やエドワードと同じ髪色に瞳の色ね。その特徴を持っている者だけが王族と認められるのよ。当然血統も必要だけどね、そういう意味では、私とエドワードはニルヴァ王国においては今でも王族になるわ!」
爆弾発言だった。
「フィアやエドワードを見ているせいか、珍しく感じないな。ところで、違う髪色だったりすると兄弟でも王族じゃなくなるのかな?」
「ええ、ハリーその通りよ。私には兄と姉がいるのだけど、兄は髪色が違うから王族ではないわ」
――!
母様の発言にみんな驚く。色が違うだけで王族じゃなくなるって……。
「王族じゃなくなると、どうなるのだ?」
おじい様が質問する。おじい様も元王族だから、気になるのかもしれないな。
「7歳になると四家のどこかに臣籍降下することになります。兄の場合は、スレーティー家の娘の婿となりました」
髪か瞳の色が違うだけで王族じゃなくなるなんて、ニルヴァ王国は結構ハードな国のようだ。
「なぜそのような事になっているのか理由はあるのか?」
「真偽のほどは分かりませんが、私の使える【聖】属性はエーデルオラケルから授けられ、その際にこの髪色と瞳の色になったと言われているのです。その後、エーデルオラケルに不義を働いた王族が違う色になったことから、それ以降は同じ髪色と瞳の色をしていない者を王族とは認めなくなったという話です」
「エドワードが【聖】属性を使える理由にはなっているが、違う色で使えるヤツはいないのかい?」
おばあ様が尋ねた。
「今までに使える者はいないそうです。実際兄も使えませんし、不義を働いた者は、色と一緒に属性も失ったとの話です」
エーデルオラケルってエンシェントウルフと同じような存在だと思っていたのだが、もしかしてそれ以上の存在なのかも。
「フィア、訪ねてきたスレーティー家の人間は、一族から王を出そうとしているんだよね、それは何か具体的な方法があるのかな?」
「方法なんてないわ。兄はブロンドの髪に青い瞳の色をしているの。それに対し妻のラヴィーナは銀色の髪にグレーの瞳をしているから、子供をたくさん作れれば、そのうち生まれるかもって感じじゃないのかしら?」
思った以上に無計画だった!
「母様、アスィミも銀色の髪に青い瞳だと思うのですが?」
僕がそう言うとみんな一斉にアスィミを見る。
「私って王族だったのですか!?」
「そんなわけないじゃない。アスィミの銀色は青みがかってないでしょ? ただ銀色ならいいって訳じゃないのよ。さっき話に出てきたラヴィーナも違う銀色よ、だからラヴィーナの銀色の髪で青い瞳の子が生まれても王族にはなれないわ」
「つまりスレーティー家から次の王候補がまだ生まれてないのに、ヴァーヘイレム王国で王候補になってしまう王族を見つけてしまった訳だ。しかし、フィアのニルヴァ王国に連れて行くつもりがないという言葉を聞き、これ以上フィアの機嫌を損ねて気が変わらないうちに帰ったわけだね?」
ブラボー! さすが父様、上手くまとまっていて、分かりやすかったです!




