第253話 ニルヴァ王国からの訪問(上)
温室の運用については父様に丸投げだが、温室に興味を示し現地まで見に行ってきた母様が、お茶会を開催できるスペースを作って欲しいと言い出したのだ。
冬や寒い季節でもお茶会ができるようにという事で、城内の庭の一角に、お茶会用の温室を作った。今後は花なども植えて、雪と花を見ながらお茶会を開催できるように、仕上げると意気込んでいた。
◆
雪が降り積もる中、北の隣国、ニルヴァ王国から貴族が訪ねてきたらしく、父様は温室の件で動き回っているため不在という事で、ニルヴァ王国の王族である母様が対応する事になった。
話の内容がエディ親衛隊絡みらしく、僕も話を聞くと言ったのだが、顔を出さずに隠れて見ているように言われたのだ。
謁見の間で母様と親衛隊の5隊長が、ニルヴァ王国の貴族を受け入れる準備をし、それが完了すると貴族が連れてこられる。
「ニルヴァ王国スレーティー家当主、グリージョ・スレーティーでございます。ソフィア様、大変お久しぶりでございますな。お姿を拝見できて、この上ない喜びでございます。体調を崩されたとお聞きしておりましたが、お元気そうで何よりでございます」
現れた男はグリージョ・スレーティーといって、歳は30代ぐらいで、銀色髪にグレーの瞳を持った人物だ。
「グリージョに会うのは本当に久しぶりね。わざわざニルヴァ王国を出て、何用ですか?」
「そこに控える冒険者クラン、エディ親衛隊を迎えに参ったのです」
――! 迎えに来たってどういう事だ!?
母様がクランリーダーだった、アザリエに合図をすると、話し始める。
「スレーティー様はおかしな事を言いますのね、依頼の契約はすでに完了していますし、延長も受け付けない事になっていますわ」
「それは分かっておる。しかしながら当家にとって、そなたたちの存在は必要不可欠。報酬も弾むし、以前よりも良い拠点を用意してやるから戻ってくるのだ」
「私たちは、ある志のために結成されたクランです。その一番大切な志を邪魔をしたスレーティー家に、私たちがこれ以上協力することは、一生ございません」
「その件については、私も悪かったと思っている。その誠意を見せるために、当主である私自らが迎えに来てやったのだ。今後契約違反をすることは絶対にないから、安心して戻ってくるがよい」
この貴族は人の話を聞かない、ダメなタイプの貴族だな。ニルヴァ王国は、こんなタイプの貴族が多いのだろうか?
「グリージョ、あなたは相変わらず、人の話を聞かないのね」
母様が話に入ると、グリージョが答える。
「これはソフィア様、人聞きの悪いことを。今はアザリエと交渉しているのですから、邪魔はしないでもらいたいですな」
グリージョがそう言った瞬間、母様が纏う空気が冷たい物に変わり。
「グリージョ、それは誰が誰に向かって、言っているのですか?」
母様が小さな声でそう言うと、グリージョは突然震えだし、額を地面に擦りつけ謝りだす。
「申し訳ございません! 王族の方に対する言葉遣いでは、ございませんでした。どうかお許しくださいっ!」
あんなに脅えるぐらいなら、最初から気を付ければいいのに。それにしても嫁いだ母様にまで、脅える必要があるのだろうか?
「次はありませんよ?」
「お優しきお心遣いに、心よりお礼申し上げます!」
「まあ、いいでしょう。グリージョ、あなたは大きな勘違いをしています」
「私がでしょうか?」
「ええ、彼女たちのクラン名を答えなさい」
「『エディ親衛隊』ですが」
「そうです、ではそのエディとは、誰の事か知っているのですか?」
「ヴァーヘイレム王国南部にある、コラビという小さな町の、孤児院にいる男の子と伺っています」
「そこは知っているのですね。では、なぜ彼女たちは、このローダウェイクにいると思っているのでしょうか?」
「エディという男の子と合流した後、ローダウェイクを拠点にしており。現在はヴァルハーレン家で、雇われていると家臣から聞きました」
大まかには合っているように聞こえるが、事実は違う。
「まず大前提として教えますが、彼女たちは、もう冒険者ではありません」
「そんなばかな!」
「正式に引退しているのよね?」
「ソフィア様のおっしゃる通りでございます」
母様が親衛隊に尋ねるとアザリエが答えた。
「つまり冒険者に依頼するという事は、もうできないという事になります。しかも彼女たちは現在、当家の騎士となりましたので、その彼女たちに直接交渉するという事は、ヴァルハーレン家を敵にするという事になりますわよ?」
「そっ、それではソフィア様にお頼みします! 彼女たちを譲ってはくれませんでしょうか? もちろん満足できる報酬は払います!」
なんだか凄く必死だな……まあ自業自得な上に、アザリエたちは物じゃないんだから、譲るという表現がダメだな。
「残念ながら彼女たちは、自分たちの意思でここにいるのです。それを邪魔する資格は私たちにはありませんわ。話を最初にした、彼女たちのクラン名に戻しますが、グリージョは私の子の名前を知っていますか?」
「ソフィア様のお子の名前でしょうか? ……確かエドワード様……まさかエディというのは⁉」
「その通りです。詳細をあなたに話すつもりはありませんが、私の子エドワードと、彼女たちのエディは同一人物です。ですから彼女たちには望み通り、エドワードの親衛隊として、エドワードの騎士になってもらいましたの」
「そんな偶然が! いや、そんなはずはありません。エディという男の子は、孤児院の子と聞いておりますが?」
「詳細を話すつもりは、ないと言いましたよ? どうしても知りたければ、勝手に調べなさい。国内の者なら知っている者も多いはずです」
「ならばエドワード様に、頼んでいただけないでしょうか⁉ 1年……いや半年でもダンジョンの外へ出てくる魔物の退治を!」
ダンジョンだって⁉ ダンジョンがあるという話は聞いていたが、ニルヴァ王国にあったというのは、知らなかったなと考えていると、母様の雰囲気がまた厳しいものに変化した。
「グリージョ、あなた自分が何を言っているのか、分かっているのかしら?」
「もっ、申し訳ございません!」
「ニルヴァ王国で、ダンジョンの管理は、スレーティー家の役目ではなくて?」
「その通りでございます!」
「ダンジョンの外へ魔物が出てくることなんて、あってはならないはずよ? そのダンジョン内の間引きを、冒険者に任せていたということかしら?」
「それは……」
グリージョが言い淀むと。
「アザリエ、あなた達の受けた依頼は、ダンジョンの魔物の間引きなの?」
「ソフィア様、冒険者が受けた依頼には守秘義務が伴います。冒険者は既に引退しておりますが、ここで申し上げる事はできません」
「それなら仕方ないわね」
「申し訳ございません」
「謝罪は不要よ。あなたのキッチリとした態度を見て、エドワードの騎士にしたのは間違いじゃなかったと確信したわ」
「ありがとうございます」
「さてグリージョ、当主のあなたが魔物の討伐を放ったらかして、冒険者を探し回っていることを国王陛下は知っているのかしら?」
「……」
グリージョは何も答えない、つまりニルヴァ王国の国王には、ナイショということだ。
「確かダンジョンの方は、兄のストラールが執着してたはずね……あなたの妹のラヴィーナはストラールを婿に取ったはずだけど違ったかしら?」
「おっしゃる通りですが、ストラール様はエディ親衛隊がいなくなってしばらくした後に、怪我をなされて今は療養中でございます……」
「療養中とはおかしな事を言いますね、まさかストラールが怪我をしたことも報告していないのですか!?」
「ストラール様に口止めされておりますので」
「まあ、言いたいことはたくさんありますが、私はもうヴァーヘイレム王国の人間ですので、深くは聞かないでおきましょう。アザリエたちは目的を果たしたので、もうエドワードの護衛以外でニルヴァ王国へ行くことはないでしょう。あなたもさっさとニルヴァ王国へ帰って、ダンジョンの管理に戻りなさい」
母様はグリージョに、親衛隊のみんなをニルヴァ王国へ行かせないと、きっぱり言い放ったのだった。




