第251話 ヴァーヘイレム王国
隠し部屋や日記を手に入れたはいいが、一人でいることが少ないので調べるのは思いのほか進まない。流石にジョセフィーナやアスィミを連れて行く訳にもいかないからね。
そこで視点を変えて、ヴァーヘイレム王国のことを勉強するついでに調べてみることにした。これなら誰が側にいても問題ないはずだ。
現在はヴァルハーレン家の普通の書庫で勉強している。
日記に出てくるヴァルという人物が、ヴァーヘイレム王国初代国王である、ヴァレリー・ヴァーヘイレムの可能性が高い。
第二代がベルティル・ヴァーヘイレム、第三代がフェリクス・ヴァーヘイレムで、第四代が現国王のルイス・ヴァーヘイレムになる。
それに対し日記の人物がヴァルハーレン家の初代当主なら、ヴォルフガング・ヴァルハーレンという事になり。
二代目がヴァーリック・ヴァルハーレン、三代目がファビアン・ヴァルハーレン、四代目がアルバン・ヴァルハーレンでおじい様なんだが、本来はおばあ様の兄であるシュテファン・ヴァルハーレンが四代目になるはずだったのだ。
レイナードさんの話では、おじい様は陛下の反対を押し切って、おばあ様と結婚したと聞いた。しかし、その反対した張本人である三代目国王フェリクスは、おじい様が結婚した後に急死して四代目国王である現在の陛下に変わったと……。
この辺りについて書物では、国王の急死よりもトゥールス奪還についてを大きく取り扱っているというか、国王の代替わりについては殆ど書いてないくらいだ。
陛下との関係が現状悪いわけではないので、あまりこの辺りを深掘りしようとは思わないが、謎が多すぎるのも事実である。
初代国王の話に戻そうと思うが、こちらもあまり詳しく書いてある書物ってないんだよね。
まずドルズベール王国を滅ぼしたメンバーだが、ヴァレリー・ヴァーヘイレム、ヴォルフガング・ヴァルハーレン、マイヤ・ヴァッセル、アゴーニ・バーンシュタイン、エレツ・ハットフィールドの5人だ。
滅ぼしたといっても、実際どのように滅ぼしたのかは書いてない。そもそも家名自体も、最初から持っていた家名なのか、ヴァーヘイレム王国を造った時に付けた名前なのかも不明な上に、5人の関係性も分からない。ヴァレリーとヴォルフガングについては分かるのか。
少なくともヴォルフガング・ヴァルハーレンは冒険者だったので、軍勢を率いるという事はないはず。おばあ様の戦い方を見ても分かるが、単騎で乗り込んだという方がしっくりくる。
そもそも滅ぼされたドルズベール王国とはいったいどんな国だったのだろうか? 滅ぼされるという事は何か問題があったという事だと思うのだが、実際にどんな国だったのかを記述された書物はない。
「ジョセフィーナはドルズベール王国について、何か知っている事はあるかな?」
「悪政により滅ぼされた国家ですね」
思いのほか即答で答えた。何か言い伝えとかあるのかな?
「悪政っていうのはどんな事をしたの?」
「どんな事? ……そういえば実際に何があったのかは知りませんね」
「やっぱりそうなんだ」
「ヴァーヘイレム王国の創始者たちが滅ぼしたのですから、重税など様々な悪政を行っていたのではないでしょうか?」
「なるほどね」
確かにその可能性が高いが、実際に何も記録がないというのは意味が分からない。捏造でもいいから、書いておいた方が怪しまれないのに。
そういえばセラータの町が滅びたのは、百年以上も前の話だから、ちょうどドルズベール王国の時代ぐらいじゃないだろうか。
魔の森にとって良くない事が起こると、魔の森全体でスタンピードが起こる。つまりセラータの町が森に飲み込まれたという事は、その他の町でもスタンピードが起こったはずだ。
セラータの町を治めていた領主みたいなのが、たくさんいるのだとしたら、あまり良くない国と言えるだろう。
他にはスタンピード後の事後処理が良くなかった可能性も考えられるか。
それにしても歴史書を見てみると、イグルス帝国は高確率でスタンピードの前後に進軍しているように見えるが、偶々なんだろうか……。
スタンピードで疲弊しているところを狙うのはありかもしれないが、スタンピード前に狙うのは意味がなさそうだ。
「エドワード様は一生懸命、何について学ばれているのでしょうか?」
「ああ、一応侯爵になったから、王国の歴史を学んでおいたほうがいいかなと思ってね」
「なるほど、学ばれるのは良いことですが、エドワード様が侯爵なのは当然の結果ですので」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、知識が全然伴ってないからさ」
「それでしたら、王子として一通りの教育を受けていらっしゃる、アルバン様に学ばれるのが一番よろしいかと」
「やっぱりそうなるんだよね、出かけてるみたいでいなかったんだよ」
「そうでございましたか」
歴史書を読んでいると気になる記述を見つける。
「マーリシャス共和国って昔はマーリシャス王国だったんだ」
「そうですね、確か国王が二代目の頃までは、かなり頻繫に戦争をしていたそうです」
「二代目の時に王制じゃなくなったってこと?」
「はい、当時のハットフィールド公爵はかなり強かったようで、ハットフィールド公爵領から西側や南方の海に面した地域は、元々マーリシャス王国の領地だったようですね」
「強かったという事は、ハットフィールド公爵が攻め落としたってこと?」
「そうですね、西側はハットフィールド公爵が、南方はヴァッセル公爵が攻め落とし。現在のマーリシャス共和国の大きさになったところで、王制を廃止する形で落ち着いたらしいです」
「へー、そうなんだね。でもどうして攻め滅ぼさなかったんだろう?」
「確かにエドワード様の言う通り、落としてしまえば戦争が起こることもなくなりますね」
ジョセフィーナと話をしていると扉の方から答えが来た。
「それ以上領地を増やしても、治める者がいなかったからだな」
「おじい様!」
おじい様がやって来たみたいだ。
「歴史の勉強をしているのか? 儂を呼ばぬとは寂しいではないか」
「今朝、探したんですが、ちょうど外出されていたので、自分で調べてみることにしたのです」
「それはすまんことをしたな。それにしても、自分で調べたり考えたりするところはエドワードの良いところだな。儂がエドワードぐらいの時は勉強が嫌で逃げ回っていたぞ」
それは想像つきそうです!
「先ほどの話に戻すと、まだヴァーヘイレム王国に代わって間もないということで国内が安定してなかったそうだ。イグルス帝国やマーリシャス王国は、それをチャンスとみて頻繁に攻め入ってきたらしい。また領を任せることをできる人材も不足しとったようだな」
「人材不足が理由だったのですね!?」
「まあ、ハットフィールド公爵とヴァッセル公爵の攻撃にビビって、マーリシャス国王やその一族を捕らえて差し出してきたことにより戦争は終結したらしい」
「えっ! 国王を捕らえたのですか⁉」
「うむ、有力な貴族をことごとく討ち取られ、王家に力が無くなったところでマーリシャス王国の商人たちが動いたのだ」
「商人が国王や一族を?」
「そうだ。マーリシャス共和国は今もそうだが、海の商人の力が強い国だ。首相も商会の元会頭という場合が多い」
「それではマーリシャス共和国に、貴族はもういないのでしょうか?」
「いくつかの貴族は残っているぞ。海の商人にとって水や風を扱う魔術を使える者は貴重だからな」
「なるほど、娘を貴族に嫁がせるのですね」
「いや、商家の娘を嫁がせると血が薄まるので、貴族は貴族同士で結婚させていて、魔術を使える者を確保するため、定期的に女を送り込んで子供を産ませているようだな」
どうやらマーリシャス共和国に残された貴族は、種馬みたいな扱いを受けているようだ。




