第25話 糸の操作
メグ姉と食事に行ってから数日が経った。
カトリーヌさんに依頼された布を一生懸命に作っていたのだけど、かなりの量になってしまったから、どうやって運ぼうかメグ姉に相談したところ、リングのお礼だと言って渡されたのは収納リングだった。冒険者時代の余りものらしいけど、どう考えてもこっちの方が高価なのではないだろうか。
作りは目立たないように、シンプルなデザインとなっている。所有者しか使えないようになっているから所有者登録も変更済だ。
どのくらい入るのかは覚えていないらしいから検証は必要だけど、カモフラージュにバッグを買うように言われたから、やっぱり稀少価値は高いのかもしれない。
作った布を入れてカトリーヌさんの店へ向かう。
「カトリーヌさん、エディです」
「エディ君、いらっしゃい」
「依頼された布を持ってきました」
「本当に!? こっちに置いてもらえるかしら?」
大量の布をリングから出して置くと。
「ちょ、ちょっとどれだけ出すの!?」
「どれだけ出すのって、カトリーヌさんの依頼通りですけど」
「そ、それはそうなんだけど、まさか一度に全部持ってくるなんて思わないじゃない?」
「リストの物は全部作っちゃったんですけど、ダメでした?」
「私が依頼したんだから、駄目じゃないんだけど、優先したものを先に持って来るって言ってたからビックリしたわ。確認するから、ちょっと待ってね」
「分かりました。待ってる間にショップの方を覗いても大丈夫ですか?」
「いいわよ。ちょっと時間がかかりそうだから、そうしてもらった方が助かるわ」
ショップの商品を見て回る。外套を買うように言われていたけど、僕の身長に合うのは置いていなかった。
他に何かないかと見ていると、頭陀袋をみつけた。カモフラージュ用のバッグにちょうどいいので、買おうと手に持つと。
「エディ君、確認が終わったから来てもらえるかしら?」
「分かりました」
「はい、これが内訳ね。合計すると金貨352枚と大銀貨12枚になるわ」
「そんなになるんですか?」
「もちろんよ。エディ君の能力で作った布は、どれも最高品質で色ムラもないし完璧よ!」
「ありがとうございます」
「それで支払いなんだけど、ギルドカードでいいかしら? さすがに今こんなに現金で持ってないわ」
「大丈夫です。実はギルドカードでの支払いってまだやったことないので気になってました」
「あら、そうなの? じゃあやって見せるからカードを貸してね」
カードをカトリーヌさんに渡すと、カードを重ねて画面を操作している。
「はい、完了したわ。確認してね」
確かカードの裏面のギルドマークを10秒タッチしてパスワードを入力だったな。
【商会名】モイライ商会
【会頭】エディ
【ランク】F
【残高】金貨352枚、大銀貨12枚
「確認しました。問題ないです」
「これで色々な服が作れるから楽しみよ。ところでエディ君の能力って糸なのよね?」
「そうですよ」
「実はね、商人ギルドの方にジャイアントスパイダーの糸が入ってきてるんだけど、誰も巻き取れなくて困っているらしいのよ。エディ君の能力でなんとかならない?」
「どうして糸の巻き取りができないんですか?」
「ジャイアントスパイダーの糸は凄く貴重だから、ギルドとしてはできるだけ傷つけないように巻き取りたいから手荒なことはできない。だけど普通の人では解くことすらできないらしいの。調べてみて分かったのだけど、通常はシルク職人数人で何日もかけてやるらしいのだけど、この町にシルク職人はいないから困っているらしいのよ」
「なるほど、能力で取り込めば糸は消えますけど、そういうことじゃないんですよね?」
「糸や布を作り出せる能力なんて隠しておいた方がいいに決まってるわ。ジャイアントスパイダーの布は欲しいのだけどね」
「ジャイアントスパイダーの糸はもう取り込んでいるので、いつでも作れますよ」
「なんですって⁉ どうして作れるのよ?」
カトリーヌさんに先日あったことを説明した。
「なるほど、ジャイアントスパイダーを商人ギルドに持ち込んだのがエディ君なのね? 納得したわ」
「正確にはメグ姉なんですけど」
「でも事情は分かったわ、糸を取り込むのはダメね。自由に作り出せると分かったら、貴族に目をつけられるし困ったわね。糸に包まっている遺体も取り出してあげたいし……」
カトリーヌさんはしばらく考え込むと。
「やっぱり糸の能力なんだから自由に糸を操ることができるんじゃないかしら? 操れれば能力のカモフラージュになるし、ちょっとやってみない?」
「今からですか?」
「もちろんよ」
取りあえずジャイアントスパイダーの糸を3メートルぐらい出してみる。
「本当にジャイアントスパイダーの糸が出せるのね……」
まず今出した糸を動かしてみようとイメージしてみるが、全く動かせなかった。そういえば糸を取り込むときは必ず触っているなと思い、今度は糸の端をつまんで動くイメージしてみると。
糸は蛇のように動き出す。自由自在に動かせることができたのだ!
「カトリーヌさん、できました!」
「エディ君やったじゃない。これでギルドの方も解決できそうね、私が上手く説明するから今からいきましょう」
「今からですか? 分かりましたいきましょう。その前にこの頭陀袋買いたいんですが」
「そんなのあげるから、すぐに行くわよ!」
二人で商人ギルドへ向かうことになったのだった。




