第241話 エリー探検隊(中)
カトリーヌさんとセリーヌさんの工房を後にしたエリー探検隊は、宝石を求め次なる地へ向かう。
「ローダウェイクには、お城の中に工房があるのですね?」
「ええ、僕の恩人でもある人たちが僕の側に居られるように、父様が建ててくれたのですよ」
「そうだったのですね」
しばらく歩くと魔王城……ではなく、マーウォさんの工房に到着した。
「この中へ入る前に、二人には説明しておかなければなりませんね。ここの工房主は女性です!」
そう言うと二人が頷く。
「しかし、見た目は男で、しかもマッチョです」
「『?』」
二人は、頭の上にハテナが浮かんでいるような顔で首を傾げる。
「説明が悪かったでしょうか……姿形は少し怖い男の人ですが、女性の心を持った優しい人です。最初は驚くと思いますが、慣れてもらえると嬉しいです」
「エドワード様がそう仰るのなら、私たちは大丈夫です。エリーもそうでしょ?」
『大丈夫なのです』
二人を連れて工房に入る。
「マーウォさん、居ますか?」
「あら、エディちゃんどうしたの? 可愛いお客様も一緒なのね」
奥から現れたマーウォさんに、二人は驚き僕にしがみついてきた。
「ええ、セリーヌに二人のぬいぐるみを作ってもらうことになったのですが、目に使うピッタリの宝石がないかと思いまして」
「まぁ、そうなのね! そういう事なら、私に任せておきなさい!」
「マーウォさんですね? テネーブル伯爵家次女のノワールです、どうぞよろしくお願いいたします。彼女はリヒト男爵家長女のエリーなのですが、声を出すことが出来ませんので、私が代わりに挨拶させていただきます」
『エリーです。よろしくお願いいたします』
エリー嬢がそう言ってお辞儀する。
「これは丁寧にありがとうございます。モイライ商会でジュエリー職人をやっているマーウォよ! 私がピッタリの宝石を見つけてア・ゲ・ルッ!」
マーウォさん。折角二人が勇気を振り絞って挨拶したのに、怖がらせてどうするんですか!
「それで、エディちゃん。どっちの子から探すのかしら?」
「まずは僕のイメージも固まっている、ノワールの方から行きましょう」
「あらもう固まっているの? なるほど綺麗なアメシスト色の瞳ね? 分かったわよ、ちょっと待ってなさい」
マーウォさんは部屋の奥に行くと、箱を1つ持って来た。
「この辺りがピッタリのアメシストじゃないかしら?」
「この宝石を、私のぬいぐるみの目にですか?」
「そうよ、この中からピッタリのを選んでアゲルわ」
マーウォさんは沢山のアメシストの中から、ノワール嬢の瞳の色に近い物を候補としてピックアップしていく。
そして、ノワール嬢の顔の横に並べる。
「エディちゃん、これなんてどうかしら?」
「凄くいいですね! これも、捨てがたい色じゃないですか?」
「それもいいわね。目は2つあるから、同じ色が2つあるものを優先しましょう」
「確かにそうですね」
組み分けした結果、3組の候補が残った。
「うーん、どれも捨てがたいわね?」
「そうですね、どれもノワールのイメージに合うと思うのですが……そうだ! エリーはこの3つの組み合わせだったら、どれがいいとかありますか?」
『これがキラキラして、ノワールにピッタリです!』
「そうなんですね? じゃあマーウォさんこれにしましょう」
「エディちゃん。リーちゃんの言う事が分かるの?」
リーちゃんってなんだ? エリーでも十分短いと思うのだが。
「ええ、最近分かるようになりまして。このアメシストがキラキラしてノワールにピッタリだと言ってますね」
「キラキラ? 私には分からないけど、エディちゃんは分かる?」
「僕にも分かりませんが、エリーがそう感じるのなら、間違いないと思います」
「あら随分とリーちゃんを信じているのね?」
「ええ、実はさっきこんな事がありまして……」
セリーヌさんに起きた出来事を説明した。
「セリリンを浄化したですって!? 凄いわっ!」
マーウォさん、エリー嬢が脅えますので興奮しないでください。
「そんなわけで、エリーが選んだのなら間違いないはずです」
「私も納得したわ。次はリーちゃんの目ね?」
「そうですね、虹色の宝石は思いつかなかったのですが、良いのはありますか?」
「ちょっと待っていてね」
マーウォさんはまた宝石を探しにいった。
『エリーの目は難しいですか?』
「虹色の宝石というのは、私も知りませんね」
「マーウォさんに任せておけば大丈夫だよ。ノワールの宝石も見つけたでしょ?」
『ノワールにピッタリでした』
「エドワード様にエリー、ありがとうございます」
しばらくすると、マーウォさんが戻ってきた。
「これなんてどうかしら?」
マーウォさんが持って来た宝石は、確かに虹色に輝いている。
「綺麗な宝石ですね? 何という宝石なんですか?」
「ウォーター・オパールと言うのよ。オパールでも虹色なんだけど、こっちの方がリーちゃんにピッタリだと思ったのよ」
「確かにエリーにピッタリかもしれませんね。エリーはどうですか?」
『凄く綺麗です! これをエリーのぬいぐるみの目にするのですか?』
「そうですよ」
「リーちゃんの瞳には敵わないけど、これなら、ぬいぐるみにすればリーちゃんと一目で分かると思うわ!」
『マーちゃん、ありがとう!』
リーちゃんにマーちゃん……。
「凄く喜んでいるみたいですね。ノワールどうしました?」
「……あっ、すみません。こんな宝石があるのですね。エリーの瞳のようにキラキラしているので、思わず見入ってしまいました」
「それでは、エリーのぬいぐるみの目はウォーター・オパールにするとして、エリー、この中から2つ選んでもらえるかな?」
エリー嬢は宝石を見回すと、迷うことなく2つのウォーター・オパールを選ぶ。
『この2つがいいです!』
「それではマーウォさん、この2つでお願いします」
「この2つでいいのね、分かったわ。今、二人が選んだ4つの宝石を目の大きさに加工して、セリリンに渡しておくわね」
「お願いします。それでは二人とも行きましょう。マーウォさんありがとうございました」
「よろしくお願いいたします」
『マーちゃん、またねっ!』
マーウォさんの工房を後にしたエリー探検隊は、次なる目的地を探す事になる。
「次はどこへ行きますか?」
プレジール湖を見ながら、エリー嬢が答える。
『お船に乗ってみたいのです!』
「船にですか?」
「エリー、急に船に乗るのは無理なんじゃないかしら? 準備も必要ですし」
『そうなんですか、ごめんなさいです』
エリー嬢がしょんぼりした。
「大丈夫ですよ。城に船があるので、行ってみましょう。誰も使ってなければ乗れますので」
『いいのですか?』
「僕もよく魚を釣りに乗ってますので、大丈夫ですよ」
しょんぼりしたエリー嬢の顔に笑顔が戻る。余程乗りたかったのか、若干瞳も輝いている。
地下にある船着き場へ向かうのだが、地下へ下りるのがエリー嬢の冒険心をくすぐるみたいで、とても喜んでいた。
船着き場に到着すると、船長がいたので話しかける。
「船長、今から大丈夫ですか?」
「これは、エドワード様。もちろん直ぐにでも出発できます」
「こっちにいるのは、テネーブル伯爵家のノワール嬢と、リヒト男爵家のエリー嬢です。二人とも船は初めてなので、乗ってみたかったそうなんです」
「そうでございましたか! お任せください。私はヴァルハーレン家で船長を任されているジャックと申します」
「えっ!?」
「エドワード様、どうされました?」
「いや、何でもないよ? それではノワールとエリー手を貸しますので乗ってください」
「ありがとうございます」
『エディ様、ありがとう!』
僕たちが船に乗ると、慌ただしく準備を始める。
船長の名前を初めて聞いたのだが、まさか某海賊船の船長の名と同じだったとは……赤いバンダナをプレゼントしたら着けてくれるだろうか?
しかし、ここまでお膳立てされるとファンティーヌで考えていた、なんちゃってガレオン船のハラペッコリ・ヴァイス号を造船しなくてはならないような気がしてきたな。どうでもいいことを考えていると、帆を張った船が進み出したのだった。




