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第239話 エリーとノワール

 シュトゥルムヴェヒターの研究施設の内装工事については、レギンさんがやっておいてくれるそうなので、任せておいた。


 毒の実験をしようかと考えていたら、ノワール嬢とエリー嬢が来たとの報せを受けて、応接室へ向かう。

 

「ノワールにエリー、久しぶりですね」


「エドワード様、ご無沙汰しております。異形から救っていただいたお礼をしたかったのですが、なかなかタイミングが合わずに申し訳ございませんでした」


『エディ様、助けてくれてありがとうございました』


 二人は僕が部屋に入ると立ち上がり挨拶する。エリー嬢が抱えていたのはエディ君じゃなく、僕が作ったヴァイスぬいぐるみだったのでホッとした。どうでもいいことだが、ヴァイスぬいぐるみって言いにくいからヴァイス君でいいか、ウルスぬいぐるみはエディベアで広がってしまってるので、もう止める事は出来ないけどね。


「二人とも気にしなくていいのに、それに二人の家からお礼の品と書状が届いていましたよ」


「それは知っていましたが、やはり直接お礼を言いたかったので」


「そうなんですね、今日は二人だけで?」


『はい、遊びに来ました!』


「ちょっと、エリーッ!」


「遊びに!?」


「ご挨拶にというか、遊びにというか……」


『今、エリーとノワールはローダウェイクにいるのです!』


「僕と会っていますからそうなりますね」


「エリー、それじゃ分からないわよ? 大公様に拠点となる屋敷を紹介していただいて、スヴェートとローダウェイクを行ったり来たりしているのです」


「父様からですか? それは知らなかったです」


「前回紹介していただいた時はエドワード様がヴァッセル公爵領へ行っている時でした」


「そうだったんですね! つまりご近所さんなので遊びに来たと?」


『その通りなのです!』


 そういえば、貴族になってから友達と遊ぶなんてことは無かったな……そもそも貴族の子供って何して遊ぶんだ? お茶会をしているイメージしかないな。


「二人はいつもどんなことして遊んでいるのかな?」


『ままごとです!』


「なるほど」


 ままごとね、確かにぬいぐるみが流行るんだから、そういうのがあっても不思議ではない。


「エドワード様はいつもどのような事をして遊んでいるのでしょうか?」


「僕ですか?」


 遊ぶ? いつも何してたっけ? 最近は毒の研究……なんて言えるわけないな!


「そういえば、色々と忙しかったので遊んでないですね。貴族になって友達が訪ねてくるというのは今回が初めてです」


「初めてですか!?」


 ノワール嬢は凄く嬉しそうだ。


『探検に行くのです!』


「どこへ?」


『お城の中です!』


 なるほど、お城の中を案内しろということだな!


「ノワールもそれでいいですか?」


「えっと、よろしいのですか?」


「ええ、入っては駄目な所もありますが、僕が案内しますよ」


「それではお願いします」


 案内しようと思ったのだが、それでは探検にならないらしく、基本エリー嬢が探検し、入っては駄目な所だけ僕が言う形となった。


 そして、エリー嬢の後をついていって最初にたどり着いたのは僕の部屋だった……。


 僕が戸惑っていると、ノワール嬢が尋ねる。


「エドワード様、入ってはまずいのでしたら別の部屋に行きましょうか?」


「ごめんね、僕の部屋だったのでビックリしただけです、入りましょう」


「エドワード様のお部屋なのですか!?」


『エディ様の匂いがしたのです!』


 僕の臭いって、加齢臭がするような歳ではないのだが……取りあえず部屋に入るか。


「特に何も無い……」


 しまった! 練習で作ってたぬいぐるみが多数置いてあるじゃん。


『エリーとお揃いです!』


 エリー嬢はヴァイスのぬいぐるみに駆け寄った。このヴァイス君は、ブラッシングしたヴァイスの毛が貯まったので作ることができた二号である。


「すみません。練習で作ってたぬいぐるみが散乱してましたね」


「練習でですか!? 練習にしては随分と精巧な……!」


 ノワール嬢はハンモックに乗せてある特大ぬいぐるみ、シュトゥルムヴェヒター君1号を見つけて駆けていく。


「エドワード様! この大きなぬいぐるみは何ですか!?」


『凄い大きさです! ノワール隊員の大発見です! エリーより大きなぬいぐるみちゃんです!』


 エリー嬢は大きなぬいぐるみに目を輝かせて興奮しているようだ。


「それはシュトゥルムヴェヒターという魔物のぬいぐるみですね」


「あの、ヴァッセル公爵領で倒されたという巨大な魔物の事ですね!?」


 何で知ってるんだ!?


「ノワールはその話を、どこで聞いたのですか?」


「お父様からですね」


 なるほど、テネーブル伯爵なら知っていてもおかしくない……はずだと思う。


「なんでも、海にまつわる伝説を解き明かしたと言って、お父様が珍しく興奮していましたわ」


『エリーのところも騒いでました』


「エリーのところはエリーが『興奮するお父様キモい』って言うから、ジークハルト様がヘコんでいたじゃない」


 ノワール嬢が翻訳しなければ、伝わることが無かったのではないだろうか?


 エリー嬢が一生懸命ハンモックに乗ろうとしているので、手伝ってあげる。


『エディ様、ありがとうございます』


 エリー嬢はハンモックに乗るとシュトゥルムヴェヒター君1号に抱きつく。


『このアミアミは何?』


「それはハンモックといって、簡易的なベッドになるのかな?」


『ノワール、これは恐ろしい魔道具です! 瞼が下がって目が開かなく……』


「エリー! 大丈夫!? って寝てるじゃない!」


 ノワール嬢によってエリー嬢がハンモックから降ろされた。


『あら、ノワール。おはようございます』


「魔道具って言うから、ビックリしたじゃない!」


『ノワールこれは絶対に魔道具です! ちょっと寝て揺られれば分かります!』


「そうなの? それでは私も試してみても?」


「もちろんいいですよ」


 ノワール嬢もハンモックを試してみるようだ。


「へぇ、ロープだけなのに意外と心地よいのね、このシュトゥルムヴェヒター君1号もフワフワで気持ち良い抱き心地……」


 あれっ? シュトゥルムヴェヒター君1号って名前で説明したっけ?


『ほら、ノワールも寝ました! やっぱりこれは眠くなる魔道具なんです!』


 全然魔道具じゃないからね? スヤスヤ寝ているノワール嬢を起こすと、顔を真っ赤にして謝ってくる。


「申し訳ございません!」


「大丈夫ですよ。降りられますか?」


「はい、大丈夫……あっ!」


 ハンモックから降りようとしたノワール嬢がハンモックに引っ掛かって、僕に覆いかぶさるように倒れた。


『ノワール、凄く赤色です……』


 赤色?


「エドワード様、すみません! 申し訳ございませんでした!」


「大丈夫ですよ、怪我は無かったですか?」


「はい、大丈夫です」


 顔が真っ赤になっているのが赤色かな?


『ノワールどうでした? エリーの言った通りでしょ?』


「そうね……確かに凄い()()()だったわ」


 何がなんでも魔道具にしておきたいようだ。


『エドワード様のベッドは、私たちが使っている物とは全然違うクッションです……』


「エ、エリーッ! エドワード様のベッドに入り込むなんてズル……はしたないわよ!」


『ノワール……このベッド……やっぱり……変です……』


「エリー! 大丈夫!? ってまた寝てるじゃない!」


 ノワール嬢は僕の方を見ると。


「エドワード様、申し訳ございませんがエリーを起こしてきますので、少しだけ後ろを向いていただけますでしょうか?」


「後ろをですか?」


「はい、エリーはお構いなしに行きましたが、やはり殿方の見ている前でベッドに上がるというのは恥ずかしいので……」


 今更のような気もするが、頬を赤く染めて言われると従うしかないな。


「分かりましたよ。扉の方を向いていますね」


「申し訳ございません」


 僕が扉の方を向くと、ノワール嬢がベッドに上がり、エリー嬢を起こしに行く。上がらなくても起こせるのになんて言わないのが、空気を読める男なのだ。


「エリー、起きなさい。エドワード様のベッドに潜り込むなんてはしたないわよ……」


 そのノワール嬢の言葉を聞いたのが最後に、ノワール嬢の声は聞こえなくなったのだが、これはアレなんだろうな。


「ノワール、エリーは起こせましたか?」


 返事はない、屍ではないのだが、眠っているんだろうな……スライムベッドだし。


 ベッドの方を向くと、二人ともしっかり眠っていた……ノワール嬢は本当に起こす気あったのだろうか?


 しょうがないので、スヤスヤ寝ている二人を起こす。


「エリー、ノワール。起きてください」


 全く起きる気配がないな。完全にマジ寝してるよ。


 エリー嬢の頬をツンツンしてみると、非常にプニプニして柔らかい。


「エリー、起きてください」


『はっ! また寝てしまいました!』


「エリー。すみませんが、隣で寝ているノワールを起こしてもらえますか?」


『ノワールをですか?』


 エリー嬢が隣を見るとノワール嬢がスヤスヤ寝ている。


『ノワール、起きてください! あっ、エディ様、駄目です。寝ているノワールにエリーの声は届きません』


「そうなんですか?」


『そうなんです。エリーが揺するので、エディ様が声をかけてください』


「分かりましたよ。ノワール、起きてください!」


「ふぇっ!?」


 ノワール嬢はキョロキョロ見回して、ベッドからそそくさと降りた。


「エリー、早く起きてください。ここは危険なので次に行きましょう」


 ノワール嬢は強引に無かったことに持っていこうとするが、ちょっとそのリッコみたいに真っ赤な顔では無理があるなと思ったのだった。

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