第24話 メグ姉とディナー
メグ姉がちょうど掃除をしていたので、声をかける。
「メグ姉ただいま。ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
メグ姉が振り返ると。
「ちょっと、エディ、その格好どうしたの!? 凄く可愛いじゃない!」
僕の周りって、すぐに興奮する人ばかりのような気がするのだが……。
「買い物するのにしっかりとした服装が必要だったから、カトリーヌさんのお店で買ってきたんだ」
「そうだったのね。カティめ、きっとエディを着せ替えて堪能したんだわ」
途中から小声で何か言ってたけど、まあいいや。
「それでさ、カトリーヌさんにクリーターってお店を予約してもらったんだけど、食べにいかない?」
「あら最近できた高級店じゃない? 一度行ってみたかったのよ。カティがビックリするぐらい食べてあげましょうね」
「なに言ってるの? 行くのはメグ姉と僕だけだよ。メグ姉への感謝のひとつだよ」
「ふっ、ふっ、二人きりってこと⁉」
「もちろんそうだよ。それと行く前にこれ渡しておくね。約束のプレゼントだよ」
リングの入った箱をメグ姉に渡すと。メグ姉が珍しく挙動不審になる。
「あ、開けてもいいのかしら?」
「メグ姉のプレゼントなんだから、いいに決まってるよ」
箱を開いて中のリングを見ると一瞬目を見開く。その瞳には瞬く間に涙が溢れ一筋の涙が頬を滑り落ちる。
そのままメグ姉は僕を抱きしめて泣いたのでした。
メグ姉が落ち着いたタイミングを見計らって。
「メグ姉、大丈夫?」
「突然ごめんね。エディの贈り物が嬉しすぎて涙が出ちゃったわ」
「気に入ってもらえたのなら、僕も嬉しいよ」
「エディ、はめてもらえるかしら」
「いいよ」
メグ姉が差し出した指にリングをはめる。そういえば指輪のサイズって考えてなかったけど、凄くピッタリだ。
あれっ? 言われるがままに、はめたんだけど左手の薬指って……世界が違うんだから別に特別な意味なんかないよね? 今更怖くて聞けないな。
メグ姉はリングを見てウットリしている。
「エディったら精霊の加護までつけちゃって心配性ね。お姉ちゃん、そこそこ強いの知ってるでしょ?」
「そりゃ知ってるけど、って精霊の加護ってどういうこと?」
「あら知らなかったの? 私の周りにエディのお願いを聞いたっていう精霊がいっぱい集まってきてるわよ」
「メグ姉って精霊が見えるの?」
「ハーフとはいえエルフだから見えるわよ」
初耳である。
「声も聞こえたりするの?」
「はっきりと聞こえるわけじゃないんだけどね。意志みたいなものが感じられるわ」
「それってエルフならみんなできたりするのかな?」
「さぁ? エルフってお母さん以外知らないから、他のエルフのことは知らないわね」
「そうなんだ」
魔王じゃなかった、マーウォさんエルフに聞けば、色々分かったんじゃないだろうか……。
「ふふっ、エディのプレゼントなら何でも嬉しかったんだけど、これは最高だわ。宝石もエディの瞳みたいで綺麗ね」
「それじゃあお腹も空いてきたことだし、そろそろお店に行こうか。お店の場所は知ってる?」
「分かるわよ。行きましょう」
メグ姉に連れられてカトリーヌさんから紹介されたクリーターに向かうのだったが、メグ姉がくっつきすぎて非常に歩きにくかったとだけ言っておこう。
お店についたので、店員みたいな人に聞いてみる。
「すみません。カトリーヌさんから予約が入っていると思うのですが」
「はい。カトリーヌ様から個室のご予約を承っております。エディ様でございますね?」
「そうです」
「ではこちらにどうぞ」
店員の後をついて行き個室へ入ると、メグ姉を座らせてから僕も座る。
「カトリーヌ様からコースのご予約をいただいておりますので、始めさせていただきますね」
「分かりました。お願いします」
そういえば、この世界でお店に入って料理を食べるのは初めてだなと思いながら待っていると、飲み物のワインが運ばれてきた。
さすがは高級店。この世界での一般的な飲み物はエール、蜂蜜酒、林檎酒となっていてワインは高級品である。
かなり薄めてあって、美味しくはないのだが、メグ姉が美味しそうに飲んでいるので、一般的にはこれが美味しいのだろう。
年齢制限なんてものはないので、孤児院でもかなり薄いエールが普通に出てきたりする。水は煮沸しないと飲めないので、基本は保存の効くお酒が一般的な飲み物になる。魔術で作った水は飲めるので、貴族やお金持ちの中には、水の魔術が使える人を専用で雇う人もいるらしい。
次に食べ物の番だが、孤児院では黒パンかふかし芋ぐらいしか出てこないので、ちょっと楽しみだったりする。記憶が混ざってからまだ数日だというのに、食べ物に関してはかなり切実な問題となっている。
孤児院では最低限の食べ物しか食べさせない決まりとなっている。これには理由があって、孤児院の方が世間より良い食べ物が出ていると、卒業しても戻ってきたくなる子が出るからだそうだ。
一度でも上の生活に触れてしまうと、なかなか元の生活には戻りたくないのが、人の性なのである。
飲み物を飲んでいると料理が運ばれてきた。
肉料理だ。焼いた肉の匂いが空腹を刺激する。孤児院では偶に魔物をそのままもらうことがあり、その時は肉を食べる事ができる。子供たちで解体するのであまり上手には解体できないけど、孤児院では最上級のご馳走だ。そういえば最後に肉を食べたのはいつだろうと考えながら一口かぶりつく。
塩をふって焼いただけの肉がとても美味しく感じる。腹ペコ少年なのでなんでも美味しく感じるのだろうか、まぁいいか、今はとにかく食べよう。
最後にスイーツが運ばれてきた。リンゴのタルトだ。タルトといっても小麦粉で作った生地の器に季節の果物や牛乳、卵を入れて焼いただけのシンプルなものだけどね。
砂糖も入ってなく、果物の甘さ頼りなのではっきり言って甘くはない。果物の栽培技術なんて無いに等しいため、酸味が強かったり渋かったりするのが基本なのだ。
メグ姉が終始ご機嫌なので、予約してもらったカトリーヌさんには感謝しないとな。
この世界初のレストランで、肉とスイーツを食べた僕は食事事情の改善を誓うのだった。




