第234話 エディ親衛隊(下)
エディ親衛隊の人たちは、今まで僕のために、各地で冒険者活動をしていたようなのだが、僕に何か出来ることはないのだろうか……。
「お聞きしたいのですが、現在師匠は、エディく……いえ、エドワード様と一緒にいるのですか?」
アザリエさんがメグ姉に質問した。
「そうね、このお城に住まわせてもらっているわ」
「そうなんですか……」
「私から、質問と提案があるのだけど、いいかしら?」
突然母様が話に入ってきた。
「質問だけではなく、提案でしょうか?」
「エドワードのパレードを見たと言ってましたが、どうしてパレードを行ったのか知っているかしら?」
「フィレール侯爵になったお祝いだと、聞いています」
「そうなのよ、知っていてよかったわ。その侯爵になった件で1つ困った事があって、侯爵になったエドワード専用の騎士団が必要になってね、現在募集しているのだけど、あまりいい人材が集まらなくて困ってたのよ」
「もしかして、その騎士団に私たちをという事でしょうか?」
「ええ、いい案だと思わない?」
「しかし、私たちは孤児で、騎士になれるような身分ではありません。礼儀や作法も全くなので、逆にご迷惑をかけてしまいますが?」
「その辺りは、後から学べばいいのだから大丈夫よ! 騎士団長をする予定のアキラという人も、アシハラ国の人間だから、この国の作法なんて目下勉強中よ。エドワード自身、ついこの間まで孤児院にいて、礼儀もまだ駄目だからちょうどいいと思うのだけど、メグはどう思うかしら?」
「そうね……アザリエ、一度みんなで話し合ったらどうかしら? エディの騎士団に必要なのは、エディに対する思いよ。皆んなの中には、あの時のままの気持ちじゃなく、冒険者として普通にやりたい子がいても、不思議じゃないもの」
「そうですね。ソフィア様にお尋ねしますが、たとえば極端な話、この中で1人だけ騎士団に入れて欲しいと言っても、それは可能なんでしょうか?」
「もちろん、1人でも全員でも同じように歓迎するわ。結論が出るまで、ゆっくりしてくれていいわよ。最初にお義母様が言ったように、皆さんに部屋を用意してあります。それと、この会議室も空けておくので、話し合いに使ってちょうだい」
母様が答えた。
「そこまでしていただく訳には……」
「赤子だったエドワードは、本来見捨てられるはずだったのだ。それを、マルグリットが孤児院に無理を言って救ってくれて、カトリーヌ殿や君たちも世話をしてくれたというのなら、君たちも恩人という事になる。冒険者を続けるにしても、ヴァルハーレン家としてバックアップするつもりでいるので、希望などがあれば忌憚なく言って欲しい」
父様……。
「ありがとうございます。それでは、皆で一度話し合いたいと思います」
「ゆっくり話すといいよ。食事はうちの料理長が、腕に縒りをかけるから楽しみにしていてくれ。何か用事等があれば、廊下に待機しているメイドに言ってもらえれば対応してくれるからね。それじゃあ、エドワードとマルグリットは置いて行くから、まずは旧交を温めるところから始めるといい」
そう言うと、父様たちは僕とメグ姉を残して会議室から出て行く。すると、みんなの視線は僕に注がれた。
「それでは、先程も言いましたが、3歳ぐらいと小さすぎたせいか、皆さんの記憶がなくて申し訳ありません」
「それは仕方のないことよ。私たちのことは師匠から聞いてなかったのね?」
「今回初めて知りました」
「それについては謝るわ。私もあれから色々あったせいで、すっかりあなたたちの事を忘れてたわ」
「忘れてたって先生酷くない?」
ブルーのマッシュショートが特徴的な、エディ親衛隊のニジェルさんが答えた。彼女はメグ姉の事を、先生と呼んでいるようだ。
「確かあなたたちには、定期的に顔を出しなさいって、言ってあったと思うのだけど?」
「うっ、それについてはごめんなさい」
「師匠、私たちニルヴァ王国で少し有名になってしまったら、身動きが取りづらくなってしまいまして」
「今回は全員で来て、大丈夫なのかしら?」
「今回の依頼の延長を、契約違反として突き付けて、拠点も手放してきました」
「そうなのね。ニルヴァ王国で名前が売れているのなら、そのまま、ニルヴァ王国で冒険者を続けるという選択肢も、あったんじゃない?」
「師匠、みんなエディ君……エドワード様に会いたい一心で頑張ってきたのに、それは酷いです」
「皆さん、公式の場でなければ、エディと呼んでくれても大丈夫ですよ?」
「エディ君は大きくなっても天使ね……」
今呟いたのは、エディ君とハグし隊のリーダーで、お団子にした赤紫色の髪が特徴的な、シスルさんだな。
「エディ君、私のことを覚えているというのは、本当なの?」
「ええ。今の僕と同じぐらいの歳で、白髪に赤い瞳をした、泣いている女の子が何度か夢に出てきたので、一時期気になっていたことがあったのです」
「泣いていたのね……どうして笑顔じゃないの……」
リーリエさんは、ショックを受けたようだ。
「辛いことがある度に、泣きながらエディ君を抱っこして、散歩してたからじゃないの?」
「なんでそんなこと、ノーチェが知ってるのよ!?」
「そんなのみんな知ってるよ、ボクたちだって似たようなものだし。エディ君はあの頃のボクたちにとって、心の支えだったのよ」
ブラウンのミディアムボブヘアーで、メンバーの中で一番身長の低いノーチェさんが言うと、みんなが頷く。ノーチェさんは、ボクっ娘のようだな。
「そうだわ。先に約束の毛皮を渡しておくわね」
アザリエさんはそう言って、たくさんの毛皮を僕の前に出した。
「約束していたのは、カシーミャゴートだったと思うのですが?」
「あら、エディ君が珍しい毛皮を探しているって聞いて、みんな一生懸命集めたのに、貰ってくれないの?」
アザリエさんが凄く寂しそうに言うので、買い取りますとは、とても言える雰囲気ではなかった。
「……ありがとうございます」
そう言った瞬間、アザリエさんに抱きしめられた!
「大きくなっても、エディ君可愛いわ!」
『アザリエ、ズルい!』
みんなそう言うと、僕を奪い合いしようとみんなが動いたところで、メグ姉が助けてくれる。
「あなたたち、エディが怯えるから止めなさい」
メグ姉がそう言うと、みんな動きを止める、メグ姉凄いな。
『エディ君、ごめんなさい』
みんな僕に謝ってくる。
「いえ、大丈夫ですよ」
「あなたたち、エディを怖がらせるのは駄目よ? 取りあえず今回は、1人1分ずつ抱きしめたら交代しなさい」
えっ!?
結局、残り19人に抱きしめられたのだった。
「師匠、私だけ1分間抱きしめてないわ?」
「先走った罰よ。また今度にしなさい」
赤ん坊の時の記憶は確かに無いはずなのに、かつて同じようなやり取りを、幾度となくしてきたような……。
そして、抱きしめ隊とハグし隊のメンバーは、目的を達成したのではないだろうか?
「それで、あなたたちは、これからどうするつもりなの?」
メグ姉がストレートに質問した。
「本当はローダウェイクを拠点にして、エディ君の依頼を優先して受けようかと、皆で相談していました。騎士団というのは、予想の範囲を超えています」
アザリエさんが答えると、みんな頷く。
「それじゃあ、エディはどっちが良いと思うのかしら?」
メグ姉が僕に振った途端、みんな凄く注目していてちょっと怖い。
「聞き方が悪かったわ、今のは無しね。親衛隊のみんなが、エドワードの騎士団に入ったらエディはどう思うの?」
エディ親衛隊のみんなが、本当の親衛隊にか……孤児院を卒業しても僕のために頑張ってくれていた人たちに、何か恩返しがしたいな。
「もちろん嬉しいですよ!」
僕がそう言った瞬間、何人か倒れた……。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……今の笑顔は反則……いや、なんでもないわ。それでは師匠、今からみんなで話し合いをしようかと思います」
「そうね、じっくり話し合いなさい。どんな選択をしても、あなたたちにとって良い結果になるはずよ」
僕とメグ姉はエディ親衛隊の人たちを残して、会議室を後にしたのだった。




