第227話 エディを守りたい
昨晩、商人ギルドのアリアナさんから僕に用事があるので、明日伺いたいと連絡が来たので、毒キノコを探しに行くのを後日にして、アリアナさんが来るのを待っている。
メイドがアリアナさんの来訪を告げたので、応接室へ向かった。
「アリアナと会うのは久しぶりですね?」
「ご無沙汰しております。エドワード様、この度は時間を取っていただいてありがとうございます。ヴァッセル公爵領では随分とご活躍されたようですね?」
「……その情報はどこからですか?」
「商人ギルド経由ですね。港を覆い尽くすような魔物を倒されたと、伺っていますが本当なんでしょうか?」
港を覆い尽くす? ……やはり少しずつ話が大きくなっているような気がするな。
「港を覆い尽くすというのはかなり誇張されてますね、200メートルぐらいの大きさでしたよ」
「200メートル! 全く誇張されてないではないですか!? 私の想像では100メートルぐらいだと思っていました」
アレっ、逆に小さくなった?
「エドワード様、おそらくアリアナはファンティーヌの港の大きさを知らないのだと思われます。私もファンティーヌの港の大きさにはビックリいたしましたので、アリアナの気持ちは分かります」
なるほど。ジョセフィーナやアリアナさんのように、ファンティーヌの港の大きさを知らない人にとっては、自分の知っている港の大きさに変換されて想像するので、実際よりかなり小さくなってしまう場合もあるのかもしれない。
「それで今日はどんな話なんでしょうか?」
「そうでした! 実はこの毛皮が手に入ったのですが……」
そう言ってアリアナさんは毛皮を1枚僕に渡す。
「――! この毛皮は凄いですね!」
この肌触りはアングリーラビットの毛と同等、もしくはそれ以上かも。アングリーラビットより艶っぽく真っ白な毛が綺麗だ。
「その毛皮はカシーミャゴートという魔物の毛皮らしいのです。私も初めて見ましたので、詳しいことは知りませんが、調べたところニルヴァ王国の奥から魔の森へ入った高山地帯のみに生息する魔物のようです」
カシーミャゴート……カシーミャ山羊、つまりカシミヤの事なんだろうか……。カシミヤの語源はカシミール地方らしいのだが、カシーミャの語源はなんだろう?
「珍しい毛皮を集めていたので、これを見つけてくれたのですね。ありがとうございます」
「それがエドワード様、その毛皮を譲るには条件がございまして……条件さえ飲んでもらえれば、他にも譲ってもよい物があると先方から言われています」
条件は気になるが、この機会にカシミヤは手に入れておきたいな。
「手に入れたい素材なので、僕にできることなら条件を飲みたいと思うのですが、どういった内容でしょうか?」
「説明する前に、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「……」
アリアナさんは深呼吸して、少しだけ頬を赤く染めると話し出す。
「エ、エディ君を守りたいというのはご存知でしょうか?」
――!? 僕を守りたいってどういう事?
「いえ、初めて知りました」
「そうですか……それでは、エディ君を抱きしめたいというのはどうでしょうか?」
抱きしめたいって、頬を染めて言われると回答に困る。
「それも今初めて聞きましたね……」
応接室が変な空気に包まれたその時。
「アリアナ、あなた少し説明が足りないのじゃない?」
メグ姉がアリアナさんに話しかけた。説明ってどういう事だ?
「説明でございましょうか?」
「このままじゃ、アリアナがエディを守ったり、抱きしめたりしたいってことになるわよ?」
違うの!?
「えっ!? ……あっ!」
何かに気がついたアリアナさんの顔は、茹でだこのように真っ赤になった。
「もっ、申し訳ございません! 私が抱きしめたいという訳ではなくて! いやっ、抱きしめてみたいのですが、今回のはそれと関係ないというか……」
アリアナさんは絶賛混乱中のようだ。
アリアナさんの心の声が次々と漏れているなか、落ち着くのを待っている。漏れた心の声は聞かなかったことにして、華麗にスルーしておくのが大人な対応だ……まだ子供だけど。
「お見苦しいところを見せてしまって、申し訳ございません」
普段仕事の出来る美女が慌てる姿はプライスレス。
「いえ、大丈夫です。それで説明に何が足りなかったのでしょうか?」
「そのカシーミャゴートの毛皮を持ち込んだ冒険者なんですが、パーティー名が『エディ君を守り隊』なんです。それでエドワード様と何か関係があるのかと思いまして、お聞きしたかったのです」
なんだその変なパーティー名は!?。
「という事はもう1つの方も?」
「はい、『エディ君を抱きしめ隊』というパーティー名ですね」
「そんなパーティー名の冒険者がいるんですね、初めて聞きますし、知らなかったです」
「やはりそうなんですか……彼女たちはクラン『エディ親衛隊』の冒険者たちなんですが、そのカシーミャゴートの毛皮を譲る代わりに要求しているのが、エドワード様との面会なんです」
いったいエディって誰なんだ!? クラン『エディ親衛隊』に『エディ君を守り隊』、『エディ君を抱きしめ隊』ってエディの大渋滞じゃないか!
「そもそも冒険者に知り合いはいませんし、僕とは関係ないエディだと思うのですが、僕に面会したいというのは気になりますね」
「知り合いでないのなら断りましょうか? 気になって調べたのですが、そのクランには他にも『エディ君とハグし隊』『エディ君に撫でられ隊』があり『エディ親衛隊』自体もパーティーとして存在しているので、5パーティーが所属するそこそこ大きなクランみたいです。最近までニルヴァ王国で活動していたようですね」
……どのパーティーも凄く欲望丸出しのパーティー名だな。どうやらニルヴァ王国にはエディという名前のハーレム野郎が存在するらしい。
僕に面会を求めているということは、同じ名前であるエディの存在を許さないとか、イカれた理由で命を狙っているのだろうか?
「そこまでエディという名が入っているパーティーが存在するとは思わなかったです。僕の命を狙っているのでしょうか?」
「確かにその可能性も……」
「大丈夫よ!」
メグ姉が間に入ってきた?
「メグ姉、今何て?」
「そのクランは安全よ、エディに危害を加えることは絶対にないわ」
「マルグリット様は、何かクランについてご存知なんでしょうか?」
「そうね、みんなエディと面識のある子たちよ。だってコラビの孤児院の卒業生たちだから」
『――!』
「メグ姉、そんなの初めて聞いたんだけど?」
「ええ、私だってすっかり忘れてたわ。エディが孤児院に来て最初の3年間は孤児院の子供たちの人数も多くて経営が苦しかった時期なのよ。それで私がどうしても冒険者活動をしなくてはならなくて、冒険者活動をしている間は、カティやその子たちに面倒を見てもらっていたのよ」
「マルグリット様、そのエドワード様の面倒を見ていた子たちが、クラン『エディ親衛隊』の冒険者たちだと?」
「そうよ」
「しかし、マルグリット様。いくらなんでも面倒をみたぐらいで孤児院を卒業した子が、そのようなパーティー名で冒険者活動をしているとは思えないのですが、何か根拠でもあるのでしょうか?」
「根拠なんて必要ないわ、天使のようなエディの面倒を見ていたのよ? そうなって当然だわ! あの頃は私もどうかしていたのね、ついついあの子たちの情熱に負けて冒険者の訓練をしてあげたのも原因の一つね」
「なるほど、氷華と呼ばれるマルグリット様が冒険者の手ほどきをしたと……」
「ところでパーティー名の名付けにメグ姉は関わっているの?」
「もちろん一緒に考えてあげたわ! いい名前でしょ?」
どうやら、エディという名前のハーレム野郎は僕のことだったようだ……。




