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第23話 ガチムチ乙女?

 カトリーヌさんのお店を出て、アクセサリー探しを再開したのだが、さすがに追い出された店には入りたくないので別の店に入る。


「いらっしゃいませぇ」


「……すいません間違えました……」


 ちょっとヤバいものを見てしまったので、急いで店の外に出ようとする。


 しかし回り込まれてしまった!


「あら可愛い坊や、何を間違えたのかしら? 多分間違ってないと思うわよ」


「いえ、アクセサリーを探しにきたのですが、このお店はちょっと僕には敷居が高いみたいなのでそれでは」


 そう言って店を出ようとするが、今度はがっちり肩をつかまれてしまい、逃げ出すのを失敗する……。


「うちはリーズナブルなものあるから大丈夫よん。()()()()()()()


 最後の『見ていきなさい』はずいぶんと野太い声だった。

 

「分かりました……」

 

 魔王からは逃げられないという噂は本当らしい。ガチムチ乙女はマジで怖い。


 しかもよりによって、ピンクの髪の角刈りマッチョって、ここは魔界か地獄なのか!


 まさかの最初の町に魔王がいるパターンだったとは、この世界の平和は大丈夫!?


 こうなったらもう適当に何か買ってさっさと逃げ出そうと思い店内を見渡すが、最初に追い出された店よりも明らかに品物が良いから非常に困る。


「……」


「良い品ばっかりでしょ?」


「はい……」


「坊や見る目があるのね、気に入ったわ。プレゼントにピッタリの物を探してア・ゲ・ル」


 ぞわぞわと鳥肌が立つが、どうせ魔王からは逃げられないと自分に言い聞かせて覚悟を決める。


「ありがとうございます。ここのアクセサリーはお姉さんが作ったのですか?」


「お姉さんって、坊や、分かってるじゃない。モチロン、すべて私が作ったものよ」


「へー凄いですね、細工が繊細で綺麗です。表通りの店と雲泥の差ですね」


 この筋肉から、どうやったらこんな繊細なものが……。


「あら、表通りの店も行ったのね、気に入ったのがなかったのかしら?」


「いえ、詳しく見る前に追い出されちゃったんですよ、比べる必要もないぐらいのレベル差ですね」


「坊や、目が肥えてるのね、何処かの貴族のご子息かしら?」


「貴族? 全然違いますよ。この町の孤児院育ちですよ。あっ、でもちゃんとお金は持ってきてるので安心してください」


「孤児院? 全然見えないわね? それに坊やの青みがかったアイスシルバーの髪に、アイスブルーの瞳ってどこかで見た記憶があるんだけど、思い出せないわ」


「見えないですか? だったらこの服は成功したみたいですね。この町にいるので、見たことあるんじゃないですか? ところで、薄い青色の宝石のついた指輪かネックレスってありますか?」


「薄い青色ね。ちょうど坊やの瞳の色みたいなのがあるから出してあげるわ」


 そう言うと、鍵のかかった引き出しを引っ張り出し、僕の前に置いた。その中には薄い青色の宝石のついたアクセサリーが並べられていた。

 

「アクアマリンみたいな宝石だな……」

 

「あら、坊や博識ね。坊やの瞳の色に一番近いアクアマリンよ」

 

「さっきも言ってましたけど、僕の瞳ってこんな色なんですか?」

 

「えっ、もしかして知らなかったのかしら?」

 

「そうですね、孤児院に鏡なんてないですからね。水面に映った顔ぐらいしか見たことないですよ」

 

「ごめんなさい。てっきり坊やの瞳の色に近いのを探してるのかと思ったから」

 

「それはないですよー プレゼントしたい人が好きな色らしいんですよ」

 

「あらそうなのね、それでどうかしら?」


 箱の中を見回すと、あるリングに目が留まった。

 細部まで綺麗に装飾された銀色のリングの中央には、丸く磨かれたアクアマリンが埋まっている。


「このリングが気になりますね」

 

「……坊やはどの辺が気になるの?」

 

「そうですね、うまく言えないですけど、なんだか不思議な力を感じますね」

 

「凄いわ、石の声が聞こえるのね」

 

「石の声ですか?」

 

「そうよ、坊やにとってプレゼントを贈る人はとても大切で守りたい存在なのね。石が坊やの想いに訴えかけてるのよ」

 

「へぇ、凄いやこのリングが力を貸してくれるんですね」

 

「あら、坊やは今の話信じるの?」

 

「えっ、冗談なんですか?」

 

「本当のことなんだけど、信じてくれる人はなかなかいないわね」

 

「そうなんですか? 宝石って気の遠くなるような歳月をかけてできる物だから、そういう力があっても不思議ではないと思うんですけどね。精霊に近い感じというか、もしかしたら精霊に話しかける道具みたいな感じなのかもしれませんね」

 

「ぼ、坊やそれよ!」

 

「それって?」

 

「その精霊に話しかける道具よ! なんで今まで思いつかなかったのかしら? 坊やのその表現がしっくりくるわ」


 なにやら興奮しているガチムチ乙女はかなり怖い。早く帰りたい。

 

「坊や試しにそのリングを持って、守りたいって想いを込めてみてくれるかしら?」

 

「え、まだ金額を聞いてないので買うか決めてないんですけど」

 

「そうね、もし成功したらそのリングはプレゼントするわ。ジュエリー職人として是非とも見てみたいのよ」

 

「そういうことなら頑張ってみます」


 リングを手に取って握りしめて祈る。これをプレゼントする、メグ姉をあらゆる悪意から守ってほしいと。


 しばらくするとリングは熱を発し暖かくなり、宝石を中心に大きな光を放ち、眩しく輝いた。


「「――‼」」


 そして光が収まっていき、元の宝石にもどる。


「成功したのでしょうか?」


 そういって見上げると、ガチムチ乙女が号泣していた……コワイ。


「坊や感動したわ、ブラボーよ! ジュエリーの更なる飛躍よ!」

 

 ……怖い。しかし魔王からは逃げられない。


 とにかく、ガチムチ乙女の興奮が冷めるのをひたすら待ったし願った。


「坊や、良いものを見せてもらったわ。約束通り、それは坊やにアゲルわ」

 

「本当にいいんですか?」

 

「モチロン、乙女に二言はないわ」

 

「では、遠慮なく貰いますね」

 

「リングも喜ぶから、それでいいわ。今日はもう店じまいよ、ジュエリー職人としての血が騒ぐわ!」

 

「では帰りますね、ありがとうございました」


 そう言って帰ろうとすると。


「あっ、そうだわ。坊や名前はなんていうの? もう坊やでは失礼ね」

 

「えっ? あぁ、エディといいます」

 

「そう、覚えたわ。エディ、またキ・テ・ネ!」

 

「……はい、また機会がありましたらお邪魔します」

 

「そうだわ。私はマーウォっていうから覚えといてねー」


 外に出て扉を閉める瞬間、とんでもない名前が聞こえたせいで、しばらく道で呆然としていた。


 魔王マーウォって……うーん、この街の職人って変わった人が多いのか?


 再起動した僕はメグ姉と食事をするため、孤児院に帰るのでした。

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