第224話 Sideエリー嬢 ローダウェイクにて(下)
ノワールとエリーはぬいぐるみを購入して店を出ると急いで滞在しているホテルに帰りました。
最後の隠し玉です! アレがノワールとエリーが感じた危険信号なのです!
急いで2人でエリーの部屋へ入ると。
「やはりこれは他の令嬢には渡して良いものではありませんでしたね……」
『着せ替えの出来るエディ様だったとは驚きです。エディ様はコレの販売を知っているのでしょうか?』
「おそらく知らないのでしょうね……コレがセリーヌ氏の遺作とならなければいいのですけど……」
『エディ様はそこまでしませんよ』
「エドワード様はお優しいが、今回のは明らかに暴走していると思うのよ。最悪エドワード様の周りの人に殺されるケースも考えられるわ」
『エリーとノワールのぬいぐるみも作ってもらって並べて置きたかったのにとても残念です』
「――! エリーそれ凄く良いアイディアよ!」
失言してしまいました。ノワールからピンクや赤色が溢れています! 普段冷静で無表情なノワールのピンクモードは見ていて飽きませんが今回はちょっと赤色が多めですね。
『とりあえず箱から出してみましょう』
「そうね……私のは部屋に戻ってからにするわ」
『それでは開けますね?』
箱の蓋を外すと『エディ君』が出てきましたエリーのは002とナンバリングされています。3体しか作らなかったのに最初のゼロ2つは必要なのでしょうか?
『ノワール?』
「はっ! 作りの良さに見惚れてしまったようです」
今のノワールは乙女がして良い顔ではありませんでしたよ? ノワールはエディ様が絡むとかなりポンコツなんですの……最近はポンコツぶりに磨きがかかってきましたね。
箱からエディ君を出してあげます。
「ちょっとエリー!?」
『――!』
ノワールの前なのに思わずぬいぐるみを抱きしめてしまいました。これは危険なぬいぐるみです!
『ぬいぐるみなので感触を確かめていました……』
「そうなのね……確かにぬいぐるみだから抱き心地は大切よね……」
なんだか自分に言い聞かせているように聞こえます……。
『この箱の奥に入っているのが青の商人モードの服なんですね? スヴェートの町でお会いした時に着ていた服です!』
「本当ね! あのカッコいいお姿は商人として活動なさっている証だったとは、それを聞けただけでもセリーヌ氏には感謝ね」
『それではノワール、着替えさせてみますね?』
「大丈夫よ?」
何が大丈夫なんでしょうか? ノワールの目が泳いで挙動不審ですわ。
エリーはエディ君の服を脱がせ始めますがノワールの目がちょっと怖いです。
服を脱がせ終わると、セリーヌさんが言っていた下着が目に入りましたがそのまま青の服を着せようとすると。
「エリーはその封印を外さないの?」
なんてことでしょう! ノワールは封印を外す気だったようです。
『服を着替えさせるだけなので脱がせませんよ? そんな事をしてはエディ様が悲しみます』
「――!」
ノワールは私の言葉にショックを受けたようでガックリと項垂れました、どうやら外す気だったようですね……。
ノワールは置いといてエディ君に服を着せて行きます……これは不思議な感覚ですね……まるでエディ様の妻になったかのように錯覚しそうです。
セリーヌさんは何という危険な物を作ってしまったのでしょうか……ノワールの言う通り消されてもしょうがないですわ。
セリーヌコレクションは毎回楽しみにしていただけに残念です。
エディ君の着替えが終わる頃にはノワールが復活しました。
「その服はエドワード様に似合ってとても素敵ですわね」
『ノワールもですか? エリーもこの服のエディ様が大好きですね』
「そういえば、どうしてエリーはエドワード様のことを、エディ様と呼ぶようになったのかしら?」
『スヴェートの町でお会いした時に、長耳のお姉さんがそう呼んでいるのを聞いて羨ましくなったので、どうせエリーの声は聞こえないから呼んでも大丈夫かなと思って……』
「なるほど、ところがエリーの声がなぜかエドワード様には聞こえるようになってしまったと?」
『そうなのです! まさかそんなことになるとは思ってなかったのでもう、エディ様と呼ぶように癖までついてしまって……』
「そんな理由だったとは、でもエドワード様は何も言ってないんでしょ?」
『言ってないです。……でも本当は嫌がってたらどうしましょう!? アレは長耳のお姉さんの特権かもしれません!』
「それは大丈夫なんじゃない?」
『どうしてそんな事が分かるのですか!?』
「バカね、エドワード様はつい最近までエディと呼ばれていたからどっちでも大丈夫らしいわよ? 長耳というかハーフエルフのお姉さんは赤ん坊のエドワード様をお救いして育てた親みたいな存在なんだから仲が良くて当然よ」
『そうだったのですね……ごめんなさい、エリーは難しい話を聞くと眠たくなる病に侵されているようなのです』
「病は関係ないけど、エドワード様の前で長耳のお姉さんという言葉は絶対に言っちゃ駄目よ?」
『き、気をつけます』
「エドワード様はあの方、マルグリット様をとても大切にしているそうなので変な言い方をすると嫌われちゃうわよ」
『そうなんですね、さすがノワールは色々と物知りで賢いのです』
「まあ今度から気をつければいいのよ」
『分かったのです』
エリーは脱がせたエディ君の服を見て思いつきます。
「エディベアを持ってきてどうするの?」
抱きしめた大きさがちょうどエディベアと同じだったのでもしかしたら……。
『やっぱり!』
「エリー凄いわ! お手柄よ! まさかエディベアとちょうど同じ大きさになっているなんて、セリーヌ氏は天才かしら?」
『天才ですか?』
「そうよ! もし今後エディ君が販売されないとしても、エディベアのサイズで服を依頼すればエディ君に着せることが出来るのよ!」
『でもセリーヌさんは殺されちゃいましたよ?』
「セリーヌさんの妹さんのカトリーヌさんという方が服飾の天才らしいからその方に頼めば大丈夫なはず」
『妹さんがいるのですね? 安心しました。セリーヌさんも安らかに眠ることが出来るでしょう』
「それにしても、今後エディベアの服が出る可能性も出てきたのよね……」
『どうしましょう! さすがにお小遣いが足りません!』
「私もさすがにしばらくは大人しくしておいて、家のお仕事も手伝わないと駄目だわ」
『エリーのせいですね、ごめんなさいです』
「さっきも言ったけどエリーのお陰でエディ君を手に入れる事が出来たのだから、私がお礼を言ってもエリーが謝る必要はないのよ?」
『ノワール、大好き。エリーが大きくなっても傍にいてくれますか?』
「……そうね、ずっと傍にいられるといいわね……」
そう言ってノワールはエリーを抱きしめてくれました。
この後、お母様たちと合流したエリーたちは、レストランパルフェで食事をしますが、その際に拠点が決まった事を教えてもらいます。
なんでもエディ様のお父様である大公様に直接紹介していただいたみたいで、とても良い所だという話でした。
これでエディ様にお会いできる可能性が出来たのですが、お会いした途端ノワールの髪の色が黒からピンクにならないか心配です。
その後部屋に帰ったエリーは日課にしている泡立て器でかき混ぜる練習をします。ボウルの中に入れた水をかき混ぜて練習するのですが、なぜかかき混ぜ終わる頃にはほとんど無くなってしまうのです! エディ様が簡単そうに混ぜていたのでエリーでも出来そうだと思って道具を買って来て始めたのですが意外と上級者向けの作業だったのかもしれません。
ボウルの水を5回空にしたエリーはエディ君とエディベアを抱えて眠りました。
次の日、ノワールからピンク色が溢れていたのですが、時々赤色が出るとさらに変だったのです。アレはきっと封印を解除したに違いありません!
それにしてもローダウェイクにいるとノワールは基本ピンク色を発しているので色の研究が進まないので困ります。時々発する赤色に関しては『エリーがもう少し大きくなったらね』と言って教えてくれないのです。
そうだわ! エディ様に色の話をして研究を手伝ってもらいましょう!
良い案を思いついたエリーはエディ様に会うのが待ち遠しいのでした。




