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第222話 お仕置き

 シュトゥルムヴェヒターのお披露目の後、城の廊下を歩いていると、カトリーヌさんが手招きしているので近くへ行った。


「カトリーヌさん、どうしました?」


「シュトゥルムヴェヒターのお披露目は終わったのかな?」


「ええ、今ちょうど終わって帰ってきたところです」


「そうなのね、ちょっと会ってもらいたい人がいるんだけど」


「僕にですか?」


「そうなの、この部屋の中にいるのよ……」


「この部屋にですか?」


「ええ、どうぞ」


 カトリーヌさんは部屋の扉をノックすると、中の人へ話しかける。


「姉さん、エディ君が来たわよ」


 どうやらこの部屋はセリーヌさんの部屋のようだ。カトリーヌさんが扉を開ける。


 中にはすでに土下座しているセリーヌさんがいた。


 セリーヌさんの部屋は、おびただしい数のぬいぐるみに溢れていて、意外と少女趣味なようだ。


「エドワード様、申し訳ございませんでした!」


 土下座の人物はいきなり謝りだす。


「セリーヌさん、何か謝らければならないような事をしたのですか?」


「えっ!? それは……」


「姉さん!」


「ぬいぐるみの『エディ君』に関してです……」


「ああ、セリーヌコレクションとか言う、謎のぬいぐるみシリーズがあるらしいですね?」


「それは私が作ったぬいぐるみを不定期で売っていたら、いつの間にかそんな名前になってしまいまして……」


「それで、最後のエディ君はどこにあるんですか?」


「えっ!? 売った3体は即完売したので……」


「おかしいですね。マーウォさんからセリーヌさんに渡したブルートパーズの数は8個、つまりもう1体分あるはずなんですけど? 部屋にこれだけのぬいぐるみがあるのです、セリーヌさんなら、手元に残しても不思議ではないのじゃないですか?」


 母様とマーウォさんの工房へ行ったときに聞いておいたのだ。


「残りのブルートパーズはコレです!」


 セリーヌさんはブルートパーズを2つ僕に見せる。


「へぇー、証拠隠滅を図った訳ですか!?」


「ギクッ! 証拠隠滅って何のことでしょうか?」


「まだしらを切るつもりですか?」


「申し訳ございません! 解体してしまいました!」


「そうなんですね? それでエディ君にどんな仕掛けを施したのですか? そもそも着せ替えは、ウルスのぬいぐるみでする予定でしたよね?」


「そうなんですけど、お得意様からリクエストがございまして」


「お得意様?」


「……はい、テネーブル伯爵家のノワール様とリヒト男爵家のエリー様からです」


「その2人がパンツを脱げるようにしろと?」


「それは私がサービスで」


「貴族の令嬢になんてサービスをしているのですか!?」


「申し訳ございません! 深く反省しています!」


「実は夢の中で『数ヶ月ずっと穴掘って埋めるだけの仕事をさせろ』という言葉を聞きましてね」


「穴を掘って埋める? 何のためにでしょうか?」


「ただの罰ですね。マーウォさんみたいに筋肉がついて、ぬいぐるみ製作が捗るかもしれませんよ?」


「いやーっ! 筋肉なんかついたらお嫁に行けなくなるわ!」


 まだ嫁に行くつもりあったんだ……。


「まあそれは冗談ですが、ちょうど手伝って欲しい仕事ができたので、それをやってもらおうかと」


「やりますっ! やらせてくださいっ!」


「それは助かりますね」


「エディ君、その姉さんに手伝って欲しい仕事って何かしら?」


「デーキンソン侯爵領で、母様が毒キノコを食べた少年を助けたのは覚えていますか?」


「もちろんよ、あの時のソフィア様って凄くカッコよかったわ」


「ええ、僕はアレを見て思ったのですが、毒キノコをあらかじめ浄化すると食べられるのかってことなんです! 興味ありませんか? 最終的には僕が出したワンダリングデススパイダーの毒までどうかと思っているのです!」


「エディ君、私の役目って……」


「もちろん、浄化された毒キノコを食べる事です! 安心して下さい、症状の比較的軽いキノコから試しますので! 万が一失敗してもすぐに浄化しますから安全ですよ?」


「……」


 セリーヌさんは突然立ち上がると、逃げ出そうとするので糸で拘束した。


「カティ、助けて! エディ君に殺されちゃう!」


「……姉さん、アレを作った罪をエディ君の料理を食べる事で許して貰えるのよ? 私も今回の旅でキノコを食べたけど、とても美味しかったわよ?」


「何言ってるの!? それは毒の入ってないキノコでしょ! カティ、あなたエディ君の味方なの!?」


「味方も何も、悪いのは姉さんでしょうが」


「キノコがダメなら、新しく追加された毒の実験にしようかな?」


「それロヴンが言ってたやつじゃない! 大体新しいって何よ!?」


「いやー、能力で毒キノコを登録しまくったら、色んな種類の毒が登録されましてね。効果的な分量が分からないので、実験してみたかったんですよ!」


「実験してみたかったんですよって可愛く言ってもダメに決まってるじゃない! 色んな種類の毒って意味が分からないわ!」


「下痢に錯乱、脱毛など変わったのがあるんですよ。死なないから大丈夫だと思いませんか?」


「何よそれ!? 死なないかもしれないけど、特に最後の脱毛って、髪が抜けちゃったら生えてくるの?」


「いいところに気がつきましたね! それが分からないから、試してみたいんです」


「わかっ……危ない! 可愛く言うから返事しそうになっちゃったわ、生えてこなかったら一生ハゲじゃない!」


「まあ、死ぬわけじゃないから、いいじゃないですか?」


「本当にごめんなさい! もうしないから許して!」


「セリーヌさんって時間が経つとすぐに忘れちゃうタイプでしょ?」


「そ、そんなことないわよ?」


 カトリーヌさんが頷いているから間違いなさそうだ。


「まあ、今回はキノコを食べるか、ハゲになるかどちらかを選んでください」


「もう、ハゲが決定してるじゃないの! キノコを食べるわよ! 食べればいいんでしょ!?」


「それでは今回の『()()()()』の件は、キノコの実験が終了した時点で許しますね」


「えっと、エディ君の件はってどういう事かしら?」


「残念ながら、セリーヌコレクションでどんなぬいぐるみを売ったのか知りませんからね。コレで許すのはエディ君の件のみですが、大丈夫ですか?」


「……大丈夫よ」


「それと今後、セリーヌコレクションを売るときには、最低限エミリアの許可は取ってください」


「分かりました……」


「それでは今度、美味しそうなキノコを取ってくるので、その時はお願いしますね」


 そう言うとセリーヌさんの部屋を後にしたのだった。

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