第219話 ローダウェイクへ帰還
翌朝、デーキンソン侯爵領グロッタの町を出発した僕たちは、馬車で順調に進み、王都へ到着する。
王都では既に通信用の兵士が滞在しており、父様にもうすぐ帰還する連絡を入れることができた。その後も問題なく進み、無事ローダウェイクへ帰還することが出来たのだった。
ローダウェイクの城へ入ると、父様やおじい様が出迎えてくれる。
「みんなお帰り」
「エドワードォー! 会いたかったぞ!」
「僕も会いたかったです!」
レーゲンさんと前バーンシュタイン公爵の葬儀に参加したせいか、相変わらずのおじい様を見て嬉しくなって、抱きついてしまった。
「わっはっは! クロエ見たか!? エドワードも寂しかったみたいだぞ!」
「はいはい、良かったわね」
「それじゃあ、早速報告を聞こうか?」
父様とおじい様に今回の結果報告をすると。
「ふむ、さすがはエドワードというか、普通に納品して帰ってくるという訳には、行かなかったみたいだね」
「申し訳ありません」
「謝る必要はないよ、母様やソフィアが止めなかったのなら、エドワードがとった行動は、間違っていないってことだからね」
「それにしても、盛りだくさん過ぎてビックリするな」
「まず順番に片づけていこうか? 一番の目的であるメイド服の納品は無事に終わった訳だけど、これについて何かあるかな?」
「ちょっといいかしら?」
「カトリーヌは何かあるんだね?」
「ええ、スパイダーシルクのメイド服については普通の人では手直し出来ないから、私や姉がサイズ調整に行くわけだけど。サイズ調整の手間や今後の事を考えると、大きいサイズと小さいサイズを、もう1サイズ追加した方がいいと感じたわ」
「なるほど、確かに最初に作る手間とエドワードが登録する手間はかかるけど、後で追加発注があった時のことなども考えると、今後はそうした方が良さそうだね。エドワードはどうだい?」
「魔力が有るときに登録すればよいだけなので、問題ありません」
「それでは今後、メイド服は5サイズ用意することにしよう。既に作ってある、うちのメイド服と王家のメイド服も、時間がある時に作っておいてもらえるかな?」
「了解よ」
「それで次の話は、前バーンシュタイン公爵の葬儀の件だね。これについては、大公家を代表して、エドワードと母様が参列してくれて良かったよ」
「問題はありませんでしたか?」
「派閥が違うことで仲が良かった訳ではないが、王国に尽くしてくれた貴族には変わりないからね。それに、バーンシュタイン公爵家は正式に貴族派から抜けることが決定しているので、今後の良好な関係を築く上でも、参列してくれて助かったよ」
「それなら良かったです」
派閥の話があったので、多少怒られる事を覚悟していたのだけど、ホッとした。
「そして次は、国宝級の真珠の件かな……」
「これです」
父様に真珠を見せる。
「僕のイメージしていた真珠と全然違うんだね? 僕が見ても分からないが、フィアが言うのなら間違いないんだろうね」
「間違いなく国宝級よ。ねえハリー? エドワードが、私のネックレスにしたらどうかって言ってくれているのだけど、どう思うかしら?」
「エドワードが引き当てた物だから、エドワードがそれで良いのなら、いいんじゃないかな」
「よかったわ、ヴァルハーレン家の家宝にしようと決めていたのよ」
「ヴァルハーレン家の家宝に? ネックレスについては、後からマーウォに任せればいいんじゃないかな?」
「そうね、もちろんそうするつもりよ」
「そして、シュトゥルムヴェヒターと言う名前で合ってたかな?」
「そうですね、合ってます」
「簡単に言うと、海神を倒して、新しい海神にエドワードがなってしまったと……」
「なった訳ではなく、勝手に呼ばれているだけですからね」
「まあ、状況が状況だけに仕方がないんだけど、200メートルの魚っていうのには興味があるね。パーティーの時に出したフォーントゥナーでも、十分にビックリする大きさだったからね。200メートルの魚なんて、全く想像がつかないよ」
クジラなのに魚と呼ばれるのには若干抵抗があるが、クジラ自体見るのが初めての人たちなのでしょうがないだろう。地球上でもクジラが哺乳類と認知されたのは、近年になってからの話だし。
「うむ、儂も見てみたいのだが、残念ながら、ローダウェイクにはそれだけの大きさの物を置く場所はないな」
「それでは父様、明日にでもプレジール湖を渡った先の開けた所で、一度見てみましょうか?」
「それが良いな、カタストロフィプシケ以上となると、その成虫のカタストロフィモス並の可能性も考えられる。そうなってくると、天災級の魔物と言うことになってしまうからの」
「エドワード、カタストロフィプシケで思い出したけど、魔石はなかったのかい?」
「ウルスが解体しているのでありますよ。僕もまだ見てないのですが、ここに出してみましょうか?」
「そうしてもらえるかな」
空間収納庫から、シュトゥルムヴェヒターの魔石を出してみた。
『……』
みんな無言だ、それもそのはず、カタストロフィプシケの魔石が1メートルぐらいだったのだが、シュトゥルムヴェヒターの魔石はその倍ぐらいの大きさ2メートルぐらいは余裕でありそうだ。
「父様、ここまで大きいとやはり天災級というのは間違いなさそうですね?」
「うむ、ハリーよ。この魔石は混乱が生じるので、公表するわけにはいかんな」
「エドワード、この魔石は能力で取り込めるのかな?」
「試してみますね」
シュトゥルムヴェヒターの魔石を取り込もうとした瞬間。
『エドワード、ちょっと待った!』
「えっ!?」
「エドワード、どうしたのだ?」
おじい様が聞いてきた。
「いえ、ウルスが取り込むのに、待ったをかけたので」
『ウルス、空間収納庫から出したほうがいい?』
『エドワードだけに相談したいので、このままで大丈夫です』
『僕だけに?』
『その魔石を半分欲しいのです』
『ウルスが魔石を?』
『まさかこれほど質の高い魔石が存在するとは思わなくて、出来れば半分欲しいです』
『よくわからないけど、ウルスにとって必要ってことなんだよね?』
『あると助かります』
『分かったよ。おそらく糸とは関係ないから、そのままでは取り込めないと思うんだ。ウルスが使ってくれていいよ』
『エドワード、ありがとう』
「父様、この魔石なんですが、ウルスが半分欲しいそうなので、そのままあげようと思います」
「ウルスが半分を? エドワードが決めたことなら問題ないよ」
「ありがとうございます」
「それでは、シュトゥルムヴェヒターについてはこんなところかな?」
「そうですね、後はデーキンソン侯爵から、定期的にキノコを買うことにしたのでよろしくお願いします」
「キノコを買うって、何にするのかな?」
「もちろん、食べるに決まってるじゃないですか」
「……エドワードはキノコを食べるのかい?」
さすがの父様もキノコは苦手みたいだな。
「ハリー、デーキンソン侯爵家で食用として採取されるキノコは、とても美味しいのよ」
「フィアも食べたのかい!? っていうかヴァッセル公爵領へ向かったみんなは、もう食べているってことでいいのかな?」
みんな頷く。
「なるほど、母様まで食べているのなら問題なさそうだね。エドワードがそこまで美味しいというキノコは、とても楽しみだよ」
「それは儂も食べないと駄目かな?」
おじい様も拒否反応を示してるな。
「エドワードが美味しいと買ってきたキノコを食べたくないのなら、あんたは別メニューでもいいんじゃないかい?」
「何を言ってるのだクロエは、エドワードが買ってきた物なら、たとえ毒でも食べて見せよう!」
「おじい様、毒は食べないでください」
父様の了解も取れたので、とりあえず厨房へ向かうことにしたのだった。




