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第218話 帰還

 翌朝になり、ついにローダウェイクへ向けて出発することになる。


「エドワード様、今回はメイド服だけではなく色々ありがとう。特にシュトゥルムヴェヒターを倒してくれた件は、我が領にとって非常に大きなプラスだった!」


「そう言ってもらえると、来た甲斐がありました。僕も色々と、ローダウェイクでは買えない物を買うことが出来たので、良かったです」


「エドワード様が強いのは分かっているのですが、それでも、気を付けてお帰りください」


「ありがとうございます。ロゼもお元気で」


「はい、ありがとうございます」



「よし、それじゃ出発するよ」


「はい、おばあ様!」


 おばあ様が御者席に座るので、僕も隣に座ろうとすると、コレットさんとジョセフィーナがやって来る。


「クロエ様とエドワード様は、ファンティーヌを出るまでは馬車の中でお願いします。どうやら、我々が帰るという情報が出回っているらしく、既に人だかりが出来ているようです」


「コレット、エドワードだけで大丈夫なんじゃないかい?」


「いえ、それが、クロエ様の信者も混ざっているようなのです」


「私の掴んだ情報では、エドワード様と一緒にいたという情報が出回っているみたいですね」


「まあ、ずっとエドワードとぶらぶらしていたから、しょうがないのかしら? まあ、冬前に帰れば問題ないから大丈夫だろう」


 コレットさんとジョセフィーナが御者席に座り、僕とおばあ様が中へ入ると、馬車は走り出す。


 馬車の外にはコレットさんが言っていたように、馬車を拝む人や、歓声を送る人などたくさんいた。


 ファンティーヌの町を出たところで御者を交代し、おばあ様指導の下、僕が(ぎょ)する。


 スピードを出せば、今日中にデーキンソン侯爵領のグロッタの町も越えることが出来るのだが、そうもいかない貴族って面倒だなと思う。


 重力の制御も色々試しているせいか、段々と慣れてきて分かった事もある。


 今、馬車を軽くして走っているように、物体を軽くしたり重くしたりというのは楽なのに対して、浮かせようとすると途端に難しくなる。軽い物を浮かせようとしても、凄く魔力を消費してしまうのだ。


 なんとしても空を飛びたいのだが、今のままでは、飛んでいる最中に落下してしまうのは確実なんだよね。


 軽くするまでは今のやり方でよいが、浮かせるためには、別の方法を考えなければいけないのかもしれないな。


 例えば、空を飛んでいる飛行船が浮くのは『物体が液体や気体に浸かっている場合、その物体にかかる浮力は、その物体の体積と液体や気体の密度に比例する』というアルキメデスの原理に基づいている。


 飛行船は、軽い気体の水素やヘリウムを入れたガスバッグで、船体を支持し浮かせている。ガスバッグに入った気体が周囲の空気よりも密度が低いため、アルキメデスの原理によって浮力が生じ、飛行船を浮上させているのだ。


 飛行船自体は作れそうだが、穴などを開けられたらおしまいだ、結局のところ、空にいる魔物が問題なんだよね。


 今馬車を軽くしている方法では、周囲の空気よりも密度が低くならないので、浮力が生じないことになる。


 いや、少し難しく考えすぎているだけだな。空間収納庫のような、現実的にはあり得ないようなことが実現しているんだ、原理がどうのとか考えている段階で間違っているような気がしてきた。


 物を軽くしたり重くしたりするのも、練習することによってスムーズに出来るようになってきたのだから、物を浮かせるのも練習することによって、上達する可能性も残っている。しばらくは練習しつつ、別の方法も模索することにしよう。



 ◆

 


 デーキンソン侯爵領のグロッタの町が見えてきたので、御者はコレットさんの提案に従って交代した。


 前回はそのまま入ったのだが、出発の際に、町の人が集まり大変だった事を考慮したのだ。


 なんとかデーキンソン侯爵家の屋敷へ到着すると、中へ案内される。

 

「クロエ様にエドワード様、お立ち寄りくださって、ありがとうございます」


 デーキンソン侯爵が挨拶をするが一家で出迎えてくれた。いや、嫡男のシュタルさんとアウルム嬢は不在かなと思ったら、現在はローダウェイクへ色々な物を購入しに行っているらしい。


「前回来た時よりも、町の雰囲気が良くなったようだね?」


「町全体をキノコの町として盛り上げようとしているせいでしょうか? 黒トリュフをアピールしていただいたみたいで、ヴァッセル公爵から早速注文が入ってまして、本当にありがとうございます」


「分かっていると思うけど、その辺りは全てエドワードがやった事だから、感謝はエドワードにしておけばいいよ」


「エドワード様にはどれだけ感謝してもし足りないですが、それでもありがとうございました。ファンティーヌでは随分とご活躍されたとか?」


「活躍ですか?」


「ええ、なんでも新しく海神様になられたと聞きましたが?」


「いや、勝手に呼ばれているだけで、なって無いですよ!?」


「聞いた話では、ファンティーヌの港を埋め尽くすような大きさの魔物を討伐されて、お披露目したのでは?」


 うーむ、噂話はこうやって、どんどん誇張されていくのだろうか……。


「討伐したのは本当ですが、そこまで大きくないですよ」


「そうなのですか?」


「エドワード、200メートルもあるのだから、そう噂と変わんないわよ」


「200メートル! そのような魔物が海にいたとは、私もたまに船に乗りますが、恐ろしい話ですな」


「お肉がとても美味しかったので、今日の食材として提供しますよ」


「よろしいのですか!?」


「おばあ様、いいですよね?」


「エドワードが倒したんだ、好きにしなさい。きっと黒トリュフと合うはずだから、ブルズ頼んだわよ」


「クロエ様、お任せください。あれから色々と研究しておりますので、期待していてください」


 シュトゥルムヴェヒターの肉を渡してくつろいでいると、誰かやって来てデーキンソン侯爵に耳打ちする。


 デーキンソン侯爵は溜息をつくと話し出す。


「ソフィア様、申し訳ございません。町の子が食べてはいけないキノコを食べてしまったらしく、何とかなりませんでしょうか?」


「すぐに案内しなさい!」


 ◆


 デーキンソン侯爵たちと、毒キノコを食べた子の所へ向かうと、痙攣している10歳ぐらいの男の子が寝かされていた。


 母様は男の子の側へ座ると、腹部に手を当て、詠唱を始める。


 手元が光ったように見えると、男の子の痙攣は治まり呼吸が安定した。

 

「これで大丈夫でしょう」


「「ありがとうございます!」」


 心配して見守っていた両親が、涙を流して母様にお礼を言う。


「今回は偶々ソフィア様が滞在されていたので助かったが、通常は助からないのだ。子供にはなんでも自己判断で食べないように、言っておくのだぞ」


「「畏まりました!」」


 ◆


 屋敷へ戻ると母様に尋ねてみる。


「母様、毒キノコの毒は、魔術で治せるものなのですね!?」


「エドワード、普通の魔術師では治せないんだよ。今回は弱い毒性だったから助かったが、通常はほぼ即死に近いからね」


 おばあ様が答えてくれた。


「母様だから、治せるという事なんですか?」


「簡単に言うとそういう事になるね。回復魔術を使える属性は【聖】と【水】の2つだという事は知っているね?」


「もちろんです」


「【聖】の属性なら可能だが、【水】の属性は出来ない。つまり、この国で治せるのは、ソフィアだけということになるわ」


 おばあ様は、お前も使えるんだよって、表情だけで教えてくれた。


 なるほど【聖】の属性を持っているので、毒を浄化できるということか……毒キノコって浄化したら食べられるのだろうか?


 試してみたいが、デーキンソン侯爵領でやるわけにはいかないのだろうな。


 ローダウェイクへ帰ったらやってみるリストに、加えておくことにしたのだった。

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