第22話 メグ姉の欲しいもの
体調が回復して動けるようになったので、早速出かけることにした。
メグ姉の提案は『私のために、私の好きそうな物を買ってきてプレゼントしてね』という僕にとっては実にハードルの高い内容なのだ。
「うーん、分からないな……メグ姉の好きな物ってなんだろう? 考えてみれば、いつも僕を優先してくれてたから、メグ姉の好みが分からないな。メグ姉が冒険者をやってたことすら知らなかったもんな……」
とりあえず女性が好きそうな物を探そうと商店街を歩く。
前世の記憶を頼りにすると、まず候補に上げられるのはアクセサリー類ではないだろうか。服やブランド品のバッグという案も出てきたが、服は修道服姿しか見たことないので即却下とした。
バッグについては、この世界にブランド品と呼ばれる物があるのかも知らないので保留だな。あと思いつくところでは花、コスメ、スイーツなどがあげられる。
取りあえずネックレスや指輪を見ようとお店に入るも直ぐに追い出されてしまった。
言われてみれば、今の僕は7歳の孤児に過ぎない。お金を持っているとはいえ、今の格好は孤児院で着ている服なので、確かに見すぼらしい。一応商人だから、見栄えも気にしないとダメだな。
「よし、まずはカトリーヌさんのお店に行って服を買おう! ついでにメグ姉の好きそうなものを聞ければ一石二鳥だ」
カトリーヌさんのお店へ走って行くと、裏口に回り扉を叩く。
「カトリーヌさん、エディです!」
そう言った瞬間、扉が勢いよく開いてカトリーヌさんが出てくる。
「エディ君、くるのが遅い!」
なぜか怒られてしまった。
「何かありました?」
「『何かありました?』じゃないわよ! 布をお願いしようと思ったら帰っちゃっていないし、なんで待っててくれないのよ!」
「いや、メグ姉がカトリーヌさんは考え始めると長いから、考えが纏まったころに行った方がいいって言うから、そのまま商人ギルドに向かいましたよ」
「ぐぬぬぬぬ、メグのやつめ」
「ほら、ぐぬぬぬ言ってないで、リストができたのなら渡してください」
カトリーヌさんからリストを受け取ると、結構数が多かったのでビックリする。
「これ、かなり数が多いですけど、優先順位とかあります? さすがにこの量は時間かかると思いますよ?」
「あら? そんなに多かった……確かに多いわね。ちょっと貸して、これとこれと……マルつけたのを優先してくれると助かるわ」
「了解しました。マルついたのができたら一度持ってきますね」
「お願いするわ。ところで今日はリストを取りに来た訳じゃなさそうね」
「そうなんですよ、実は……」
僕は商人ギルドに登録してから、アクセサリーショップを追い出されるまでの話をした。ジャイアントスパイダーの件は除いてだけど。
「へえ、モイライ商会ねー、何か意味のある名前なの?」
「え? 意味ですか、なんとなく浮かんだ名前です」
さすがにステータスの加護に書かれてるからとは言えない。
「ふーん、まぁ、いいっか。取りあえず服が欲しいのね、何かリクエストとかある?」
「そうですね、戦える商人を目指しているので、動きやすいのがいいですね。あと鎧がコバルトツリーリザードの皮で作られた綺麗なブルーなので、一緒に着ても変じゃない感じがいいですね」
「コバルトツリーリザードの皮か、結構いい鎧を買ったのね。分かったわ、ちょっと見てくるから少し待ってね?」
そう言うと、カトリーヌさんは店の奥へ服を探しに行った。
商会名に引っかかっていたみたいだけど、誰にでもポンポン話してよい内容でもないのでしょうがないだろう。
しばらく待っていると、カトリーヌさんが帰って来る。
「これなんかどうかしら? ちょっと着てみてちょうだい」
カトリーヌさんが持ってきた服に着替えてみると、丈はピッタリでまるで僕のために作ったようなサイズ感だった。この世界では基本的に子供服というものは存在せず、大きな服を調整したり、紐で縛って子供サイズに合わせることが一般的なのだ。ただし、貴族の場合は体に合わせてオーダーメイドされるため、子供サイズに合わせれば子供服となるのだが、デザイン自体は大人の服と全く同じものが使われるという話だ。
「うーん、可愛いけど、ちょっとしっくりこないわね。次はこっちね」
繰り返すこと5回、いい加減疲れてきたなと思っていると。
「これよ! 完璧だわ! エディ君、髪も青みがかったアイスシルバーで、瞳も薄いアイスブルーだからピッタリよ」
そう言ったカトリーヌさんのコーディネートは、青系統で統一されていたのだ。
「ちょっと青過ぎませんか?」
「あら旅の商人なんだから、目立つのも必要よ。有名になったらきっと青の商人とか呼ばれるわよ! 実際に可愛い青の商人だけどね」
「それは少し恥ずかしくないですか? あと最後の方聞き取れなかったんですけど?」
「気にしなくて大丈夫よ、それに普段からその色で目立っておけば、隠れたいときは普通の格好してればバレないからいいと思うわよ? 一番可愛いんだからそれにして」
最後の方のボソボソ言っているのが聞き取りにくいけど、まあいいか。
「そういう使い分けもあるんですね。だったらこれでお願いします。いくらになりますか?」
「金貨2枚でいいわよ」
金額を言うのにガッツポーズは必要なのだろうか?
「はい、金貨2枚です。それでプレゼントのことなんですけど?」
「メグの好みだったわね? うーん、エディ君以外に好きなものあったかしら……」
またボソボソ何か言っている。それにしても、腕組みして考え込んでいるのだが、お胸様が腕に乗って凄いことに……。
「そうです、何でもいいんでヒントとかないですか?」
「そうね、エディ君からのプレゼントならなんでも喜びそうだけど、強いて言えばアクセサリーなら薄い青色ね!」
「へーそうだったんですね、探してみます」
「そうだわ、プレゼントを渡すのなら、ちょっと高級な店で食事でもするっていうのはどうかしら?」
「高級な店ですか? 孤児なので、そういうのは全く詳しくないんですけど」
「クリーターってお店の個室を予約しておいてあげるから、そこに行きなさい。場所はメグが知ってるから大丈夫よ」
「ありがとうございます。カトリーヌさんにも今度何かお礼しますね」
「私にも? だったら、私もエディ君と二人でお食事したいわ」
「そんなのでいいんですか? お安い御用なんで、今度行きましょう」
「いいの? 約束したからね」
「分かりました。また今度来ますね」
カトリーヌさんのお店を出た僕は、メグ姉へのプレゼント探しを再開するのだった。