第216話 Sideそのころのセリーヌ
「エディ君、今頃何しているかしらね?」
「小僧のことじゃ、何か美味しい物でも作っているのではないか?」
レギンさんの意見は、正解っぽくてつまんないわ。
「私の真珠は見つかったかしら?」
「小僧のことだ、とびっきりのヤツを手に入れてくるに決まっとるわい」
マーウォは相変わらず宝石以外に興味がないのね。
「さすエド!」
「お姉ちゃんはエドワード様が、みんなに崇められているって言ってます」
どうやったら、あの4文字が長文に変わるのかしら?
「それにしても、あなたたちがお酒をガバガバ飲んでいる姿は異様ね」
「ん、ドワーフ」
「お姉ちゃんの言う通り、ドワーフなのでこれくらいは水と一緒です」
エディ君の周りには、変わった生き物が多いわね……。
「そう言えば、セリリンこの間のブルートパーズは何に使ったのかしら?」
「ああ、アレね。ぬいぐるみの目に使ったのよ」
「ぬいぐるみの目に宝石を?」
「説明するより、見せた方が早いわね」
私は収納リングから『試作型エディ君』を取り出して見せる。
『――!』
「ほう、小僧のぬいぐるみか。なかなかよく出来てるではないか」
「さすーヌ!」
「セリーヌさん、凄いです! いい年してぬいぐるみ作っている、痛い人じゃなかったんですね!」
グサッ! このドワーフ姉妹は何気にエグってくるわね……。
「あら、エディちゃんの目にするなら、アクアマリンの方が近いのに」
「1体にアクアマリン2つも使ったら、さすがにコストがかかり過ぎだわ」
「意外とそう言う所も考えているのね」
「一応、王都で店をやってたんだから、貴族が手を出せるボーダーラインは考えているわよ?」
「ぬいぐるみの服はお主じゃないだろう?」
「凄い、レギンさん分かるの?」
「うむ、カトリーヌの作った服にはオーラがあるから分かるぞ」
「あら、私もセリリンの作った服は分かるわよ」
「えっ、私の作った服にはオーラを感じないってこと?」
「もちろんじゃ」
「もちろんよ」
前言撤回よ! ここにいるメンバー全員エグってくるわ! 服を作る才能で負けているのは知っているわよ!
「……さすエド」
「セリーヌさん! 大変です! エドワード様が裸になっちゃいました!」
「あら気がついたの? そのぬいぐるみエディ君は着せ替えが出来るのよ」
これは試作品だから一切の妥協無しバージョンよ。ロヴンたら赤くなって可愛いわね。
リュングの方は顔が真っ青!?
「リュングどうしちゃったの、顔が真っ青だけど刺激が強すぎたかしら? でも、あなたたちもエディ君に洗ってもらってるんでしょ?」
リュングはゆっくり私の方を向くと。
「死リーヌ」
なんて言ったの? 意味が分からないわ。
「わっ、本当だ! お姉ちゃんの言う通り、セリーヌさんに死相が見えます!」
「えっ!?」
「確かに見えるな」
「本当ね……セリリン。遺灰は撒いてあげるわよ」
「えっ!? 本当に見えるの?」
みんなが頷いた……。
「ちょっと待ちなさい。ほら、これで自分の顔を見てみなさい」
マーウォが鏡を貸してくれたので、自分の顔を映す。
……やっべぇ……マヂで私にも見えるわ……私、死ぬの?
「どうして急に……」
私が呟くとみんな、ぬいぐるみエディ君を見つめる。
「セリーヌ、お主これを誰に売ったのじゃ?」
「えっ、これは不定期で開催しているセリーヌコレクションの新作ぬいぐるみとして、三体売ったわ」
「セリリン、さすがに、パンツまで脱がせられるのはどうかと思うのだけど」
「遊び心があっていいと思わない?」
みんな首を振った……。
「販売したやつのパンツは仮縫いして、そのままでは脱げないようにしてあるわよ?」
「仮縫いか……解けば脱げることを言ってないのじゃな?」
「いえ、購入者三人を個室に呼んで、説明してしまいました……」
「いったい誰に売ったのかしら?」
「テネーブル伯爵家のノワール様と、リヒト男爵家のエリー様でしょ、あとは……よく店にくる女騎士ね」
「女騎士?」
「ええ、こんな感じの紋章がついてたわ」
私は女騎士の服についていた紋章を描く。確か船みたいのが描いてあったかしら?
「……セリーヌよ。その紋章はヴァッセル公爵家の紋章じゃな」
「エディちゃんって今、ヴァッセル公爵家に行ってるわね」
「……死リーヌ」
「セリーヌさん、短い間でしたけど、ありがとうございました」
「えっ? 私って死んじゃうの?」
みんな一斉に視線を逸らす。
「やだなー、エディ君がそんなことすると思うの?」
「あら、セリリン知らないの? エディちゃんと敵対すると、みんな死んじゃうか不幸な目に遭うのよ。きっとあれだけ精霊に愛されていると、本人が手を下さなくてもそうなっちゃうのかしら?」
「セリーヌは見ていないから知らんと思うが、小僧が本気で怒ったら、城の1つや2つは一瞬で破壊するぞ」
「そういえば、メグリンを助けるために要塞を粉々に破壊してたわね」
どうしよう……今頃になって怖くなってきたわ。
「取りあえず、そのぬいぐるみは隠しておけ。コウサキの娘に見せるでないぞ」
「コウサキの娘ってツムギちゃんじゃない。私は王都でツムギちゃんの面倒を見てたのよ! ツムギちゃんが、私を傷つける訳ないじゃない」
「自信があるなら、見せてみるがいい」
「そういえば、エディちゃんと敵対するやつを暗殺するって言ってたわね」
「セリーヌさん。こんなことを言ってはなんですが、ツムギちゃんがエドワード様とセリーヌさんどっちを選びますか?」
「それはもちろん! ……絶対にエディ君を取るわね」
まずいわ! 私死んじゃう!
「どどどど、どうしましょう!?」
「どうしようも、今更回収できるわけなかろうが」
「だから相談してるんでしょう!?」
「国外逃亡」
「リュングは短く纏めないで!」
「でも国外に逃亡するのは、いい案じゃないかしら?」
「私ってもう犯罪者なわけ?」
だからみんな視線をそらさないで!
「セリーヌさん、こういうのはどうでしょうか? エドワード様が帰って来るまでは殺されないように身を潜めて、帰って来たら全力で謝って。何かエドワード様が喜びそうなものをプレゼントするとか?」
ロヴンの案が一番まともそうだけど……。
「私ってもう身を潜めないと危ないの?」
だからみんな視線をそらさないで!
「全力で謝るって、どうやるのかしら?」
「全裸土下座」
リュングの言葉が短いのは変わらないけど、1文字増えてるわ!
「なるほど、エディ君も男の子だから、私が全裸で謝れば許してくれそうね」
「プッ」
ちょっと今、リュングが笑ったわよ! 初めて笑う所を見たのに、私の胸を見て笑うってどういう事!? 私より大きいからって、バカにしないで!
「じゃあ、プレゼントって何をあげたら喜ぶかしら?」
「それはもちろん、見たこともない【糸】に決まっとるじゃろ。小僧は珍しい素材に目がないぞ」
「そんなもの買えないじゃない!」
リュングが私を指さす。
「えっ、私がプレゼントってこと?」
リュングが頷いた。エディ君ったら私を欲してたのね!
「お姉ちゃんそれはいい案ですね! そういえば、エドワード様が毒の実験をしたいって言ってましたよ」
「死亡確定じゃない!」
グッ! って親指立てるんじゃないわ!
「私ってどうやっても殺されちゃうの?」
「そんな訳なかろうが」
「そうよ、エディちゃんはこんなことで殺したりしないわよ」
「エドワード様は優しいですよ」
みんな私で遊んでただけなの?
「まあ精々、砂を1万粒集めてくるとかじゃないのか?」
「1万粒って何かに必要なの!?」
「いや、ただの嫌がらせじゃ」
「分かったわ! 1週間メグリンが作った氷のベッドで眠るってのはどうかしら?」
「どうかしら? ってそのまま永遠に眠っちゃうじゃない!」
コイツら絶対に真剣に考える気ないな、他人事だと思って!
「こうなったら、エディ君が好きな物をプレゼントするしかないわね」
コイツら私にそんなもの用意できるの? って顔してるわ!
「エディ君が喜ぶといったら、マルグリットぬいぐるみとカティぬいぐるみよ!」
ふふっ、みんなビックリしてるわね。私にしか出来ない技術よ!
「エディ君が喜ぶように、カティの胸を増しましにすれば喜ぶこと間違いなしよ!」
「セリリン、本当にそれで許してもらえると思ってるの?」
「違うの?」
「死リーヌ」
「セリーヌさん、そんな火に油を注いで許してもらえると本当に思っているのですか? それやったら、お姉ちゃんの言う通り死んでもおかしくないですよ?」
ちょっとどういう事? 会心の案だと思ったのよ!?
結局何が正解か分からなくなった私は、取りあえず試作品を闇へ葬り去ることにしました。




