第215話 エディ君再び
真珠ガチャの話が、思わぬところから洩れたみたいだな。
「結局、エドワード様の名前を騙ってないということでよいのだろうか?」
ルージュ伯爵が確認する。
「確かに嘘ではないのですが、こういった場合どうなるのでしょうか? ファンティーヌのことなので、レーゲンさんの判断で構わないと思います」
「直接エドワード様の名前を出さないところも巧妙な手口でございますが、これで取り締まるのは少し難しいですかな、結果だけをみれば、店主は大損してますし」
「てっきり僕が大当たりを出したので、真面目に自分で開けるかと思ったんですが、スタイルを変えてないとは思ってなかったです」
「自分で開ければ、殆どがただのゴミだが、客に開けさせればお金に変わるから、ある意味考えられている」
「エドワード様がもう一度チャレンジすれば、また当たりを出すのではないでしょうか?」
ロゼ嬢が期待のこもった目で見てくる。
「初めてだったので、偶々当たっただけだと思うのでもうやらないですよ。恐らく本来アレは、一度当たった人の方が嵌るのではないでしょうか?」
「そうなのでしょうか?」
「うむ、ロゼよアレは初めてやった時に当たった人ほど、全財産をつぎ込む傾向がある。一度でも楽して儲かると、人間はその方法から抜け出せなくなる生き物なのだ。あれだけの当たりを引いてもうやらないと言い切れるエドワード様は、並大抵の精神力ではないだろう」
「そうなのですね? エドワード様凄いです!」
能力でメイド服を作った方が楽だからとは言いづらいな……まあ言えないんだけどね。
レーゲンさんが僕を褒めるから、ヴェルメリオ君の顔が凄いことになってるよ! ラーヴァ君がそこまでじゃないということは、ロゼ嬢狙いではないのかもしれないな。
そもそも、公爵家が伯爵家から迎えることはあっても、伯爵家へ嫁に出すケースは少ないと思うよ! なんてことは絶対に言えないけど、貴族経験の浅い僕でも知ってるんだから気づいて欲しいというか、周りの人は教えてあげないのだろうか? 人の話を聞かないタイプなのかもしれないな。僕のパーティーの時に起きなかった決闘イベントがここへきて起きるのだろうか……。
夕食までの談笑タイムなのだが、ルージュ伯爵も一緒に食べていくみたいだ。レーゲンさんがシュトゥルムヴェヒターの肉を食べたことを自慢したためそうなったらしい。ちなみに、ルージュ伯爵はファンティーヌに別邸があるらしいので、泊まってはいかないとのことだった。
ルージュ伯爵家の長女ローザ嬢(10歳)とロゼ嬢がぬいぐるみの話で盛り上がっている。
「ロゼ、私もついにエディベアを手に入れることができましたわ」
やはり貴族の令嬢は、みんな持ってそうな感じだな。
「それは良かったですね! 今までにあったぬいぐるみとは全然違いますでしょ?」
「本当にそうですわ、思わず抱きしめたくなる肌触りで、眠る時もついつい抱きしめて寝てしまいますの」
「分かります。そうですわ! なかなか手に入れるのが難しかったセリーヌコレクションをついに手に入れましたの!」
「噂でしか聞いたことのなかった、セリーヌコレクションをですか!? ぜひ見てみたいです!」
「少しお待ちになってくださいね」
ロゼ嬢がセリーヌコレクション(エディ君)を取りに行ったようだ。それにしても、セリーヌコレクションは貴族の令嬢で噂になっているのか? エディ君を見た後なので、他の作品が気になるじゃないか……。
ロゼ嬢がエディ君とエディベアを抱きかかえて戻って来る。今日のエディ君は青の商人スタイルのようだ。この世界にはまだ綺麗に映る鏡はないので自分の全身の姿を見る事はないのだが、青の商人スタイルって凄く派手だな……あれで爆買いしてたら目立つので目をつけられてもしょうがないような気がする。
「これが、今回発売されたセリーヌコレクション、私の騎士ケイトが限定3体という狭き門を通って購入してきましたの!」
ロゼ嬢、騎士の使う方向性が間違ってると思うよ。
「こ、これは! エドワード様!?」
「その通りです。幻のセリーヌコレクション最新作は、エドワード様を模して作ったぬいぐるみ、その名も『エディ君』です!」
全くひねりのないネーミングはともかく、そのエディ君本人を目の前にして、そんなに力いっぱい話さないで欲しい。
「これは見たこともないクオリティーのぬいぐるみですわ! それにしても、この青い衣装は見たこともない素敵な衣装ですね?」
「さすがローザ、目の付け所が良いですね。その衣装はエドワード様がモイライ商会として活動なされる時に着用する服で、当家のメイド服も製作なさった、あちらにいらっしゃるカトリーヌ氏のデザインを忠実に再現なされたようです。エドワード様が当家にいらした当日は、この衣装でした!」
「モイライ商会として活動される時、限定の衣装なのですね!? 今着ている衣装も素敵ですが、実際にこの衣装を着ているエドワード様も見てみたかったですわ」
「確かに私も、もう一度よく見てみたいですわね……」
2人にジーっと見つめられる……これは着替えないとダメなパターンなんだろうか?
「……分かりました。着替えてきますね」
「「ありがとうございます!」」
結局2人のプレッシャーに負けてしまうのだった。
◆
着替えてくると2人の他に、カトリーヌさんも会話に参加していた。
「あら、エディ君着替えてきたのね」
「ええ、着替えないと終わらない感じだったので」
「とてもカッコいいですわ! エドワード様の髪色にピッタリの衣装ですのね」
ローザさんは服好きなんだろうか?
「ローザ様は服に興味があるのですか?」
「カトリーヌお姉様、私のことはローザとお呼びください! お姉様の作る服はどれも斬新で素敵ですわ!」
「こうして見比べますと、驚くほど精巧に作られているのが分かりますね」
「ああ、そういう事ね。ロゼ様、そのぬいぐるみの服を作ったのは私よ」
「「「えっ!?」」」
「カトリーヌさん、それ本当なんですか?」
「ええ本当よ。でも私が作ったのは、エディベア用の服だったはずなんだけど」
「もしかして!」
ロゼ嬢はエディ君から服を脱がせると、エディベアに着せてみる。エディ君は最後の砦一枚しかはいていない状態で、とても寒そうだ。
「やっぱり、エディベアにも着せる事ができますわ!」
「なるほど、姉さんも考えたわね」
確かに、販売する色々なぬいぐるみに着せ替え可能というアイディアはとても素晴らしいのだが、早くエディ君に何か着せてやってほしい。
「ロゼ様、そのエディ君は服を脱がせることが出来るのですね?」
脱がせるから、ローザ嬢にバレてしまったではないか。
「ええ、このエディ君にはこの商人スタイルの他に、貴族スタイルが用意されていますの」
「エディベアにも着せる事が出来るとは、今後は服の争奪戦にもなりそうですわね」
そんな予言はいらないですが、エディ君の……アレ? 前に見た時、最後の砦はボディに縫い付けてあったはずなのに、なんだか脱がせそうだ。
僕がエディ君を手に取って脱がせようとしてみると、ロゼ嬢は凄い速さで僕から奪い取る。
「エ、エディ君が寒そうなので、今服を着せますからね」
真っ赤な顔をしたロゼ嬢は、そう言ってエディベアから服を取り外しエディ君に着せる。
エディ君は寒くなくなったが、疑問が出来た。
「ロゼ今の……」
ロゼ嬢に尋ねようとすると、カトリーヌさんに止められてしまう。
「エディ君、聞いちゃダメよ」
カトリーヌさんが小声で注意する、どうやらセリーヌさんにはお仕置きが必要らしい。
まさか封印解除可能だとは思わなかった。そう言えば前回、パンツの話になった時、ケイトさんが何か言いたそうな顔をしていたはずだ、あれは封印解除可能な事を知っていた可能性があるな。
セリーヌさんは王都へ移動させるか? いや何するか分からないから、それも危険か。
帰ったら、シュトゥルムヴェヒターの髭をただひたすらバラバラにする仕事でもやらせようか悩むのだった。




