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第207話 主都シャルール

 バーンシュタイン公爵領、主都シャルールの町に到着した。御者はレーゲンさんが連れて来た人に交代し、僕とおばあ様も馬車の中へ入る。


 バーンシュタイン公爵領は全体的に山岳地帯で、アップダウンが激しい上、道幅は狭いところが多く、馬車での移動は大変だった。


 地図で見ると、イグルス帝国と隣接しているように見えるが、その国境には深さや幅が数キロもある大峡谷があり、渡ることは不可能なんだそうだ。


 シャルール城は岩山の頂上に雄大にそびえ立っており、その姿はイギリスのスコットランドにある、エディンバラ城を思わせるような姿だった。


「あの山の頂上にあるのが、シャルール城なんですね」


「なかなかの城だろ?」


「おばあ様は来たことがあるのですか?」


「昔、イーリス街道を整備するのを手伝いに来たことがあるわ」


 道幅の広いイーリス街道の整備に、おじい様とおばあ様が関わっているという話だった。


「イーリス街道の整備にクロエ様が関わっていたとは初めて聞きました」


「ヴァッセル公爵領までは、元々それなりに整備されていたから道幅を広げるだけですんだみたいだから、あたしは行ってないわよ。それに比べてバーンシュタイン公爵領は大変でね、いくつもの山を削るのは本当に大変だったわ」


 山を削るという発想が凄い。レーゲンさんの話によれば、バーンシュタイン公爵領へ続くイーリス街道には、不自然に削り取られた山が何箇所かあるという話だ。機会があれば見てみたいと思っている。


 城へ向かいながら町を眺めていると、道に跪き、お城の方へ向かってお祈りをしている人をたくさん見かけた。


「どうやら間に合ったようだね」


「レーゲンさん、どういう事ですか?」


「まだお祈りをしている人がいるという事はまだ葬儀が終わってないという事だ。城から煙が上がっているだろ? 今まさに火葬の最中なんだろう。それにしても以前見た貴族派の葬儀では誰一人として祈りを捧げているものがいなかったが、これだけの平民がお祈りを捧げているとは、貴族派にもかかわらず随分と民に慕われているようだ」


 この国の葬儀は、この世界においてはわりと一般的な方法だ。貴族と平民によって異なるのだが、どちらにも共通するのは火葬する点だろう。


 火葬することによって、死体がゾンビやスケルトンなどの魔物になるのを防ぐのが目的の1つだ。死体にスペクター(悪霊)が憑りつくことによって魔物になるという説もあるようだが、解明はされていない。


 貴族が死ぬと火葬し、その遺灰を城などの高い所から撒くらしい。撒いた灰が風に乗って女神様の下へ届き昇天できると言われている。


 そして遺灰を撒いた際に、虹が現れると女神イーリス様が迎えに来たということで、故人にとっては最も喜ばしいこととされている。但し、今まで葬儀の際に虹が出たという記録はないようだ。


 火葬は野外に祭壇を作り丸一日かけて燃やし灰にする。途中で雨に降られ燃え残るのは不吉とされていることから、火葬は晴れの日を選ぶので、当然虹は出ないだろう。雨期や雪などで晴れの日がなかなかない時期は、竈を作って行うのだとか。


 平民の場合は燃やして、遺灰は川に流すか土に埋めるか放置するかのいずれかなんだが、実は燃やしてもらえる人は幸せな方で、酷い場合は森に捨てて魔物に食べさせるケースもあるらしい。


 国によっては魔物に食べさせるのが普通の国もあるということだ。


 ◆


 馬車が城へ到着すると、バーンシュタイン公爵のイグニスさんがやってきた。


 ヴァッセル公爵の馬車だったため、中から出てくるのがレーゲンさんだと思っていたのか、僕とおばあ様を見て驚いている。


「なぜ……いや、クロエ様、エドワード様、ヴァッセル公爵、父の葬儀へ来てくれたという事でいいのかな?」


 僕たちが頷くと。


「そうか、遠いところをわざわざありがとう。父も喜んでいることだろう、クロエ様にはお初にお目にかかります。バーンシュタイン公爵のイグニス・バーンシュタインでございます」


「初めてではないんだよ、だけどさすがに4歳ぐらいの出来事は覚えていないか」


「4歳!? それはさすがに覚えておりません! 取りあえず中へどうぞ」


 イグニスさんに案内されて中へ入ると、先に来ていた貴族たちがいる。


 王族代表としてアルバート・ヴァーヘイレム王太子殿下。


 貴族派のベルティーユ侯爵、シュタイン伯爵、バルモア子爵、ブラン男爵。


 その他の貴族は、バーンシュタイン公爵領と隣接しているリュミエール侯爵とルージュ伯爵だ。


 一同はおばあ様の登場に驚きザワついてる。それだけおばあ様をヴァルハーレン領以外で見ることが少ないということだろう。


 一通り挨拶を済ませた所で、イグニスさんが代表しておばあ様に尋ねてくる。


「それでクロエ様とエドワード様はどうしてヴァッセル公爵と共に?」


「簡単なことだよ、モイライ商会として偶々ヴァッセル公爵家へ訪れていただけで、エドワードがどうしても葬儀に参列したいって言うから、一緒について来ただけだよ。要するにあたしはエドワードの護衛だね」


「そうですか、エドワード様が父の葬儀に参列したいと……」


「まあ、そういう訳だから、あたしの事は構わないでいいよ」


「ちょうど良かったというか、ひとつエドワード様にお願いがあるのですが……」


「僕にですか?」


「実は娘のフラムが塞ぎこんでしまって、部屋から出てこないのです。もう少しで最後のお別れになるので、部屋から出てもらいたいのですが、私たち家族ではどうにもならないようで」


「それって、僕ではもっとダメじゃないのでしょうか?」


「姉のプラーミアの呼びかけにも応じないというか、プラーミアの方もかなりショックを受けてまして」


「2人共、レイナードさんの事が大好きでしたからね……僕もおじい様やおばあ様の事が大好きなので、気持ちは分かります」


「ダメ元で試してみてはもらえないだろうか? 出来れば無理やり連れ出すのではなく、自分から出てきてほしいのだよ」


「エドワード、ダメ元なんだ試してみたらどうだい? レイナードも最後は孫たちに見送られたいだろうから協力してやりな」


「……分かりました。試してみます」


「ありがとう、感謝する」


 ダメ元でフラム嬢に呼びかけてみることになったのだった。

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