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第204話 初めての海

 ヴァッセル公爵家の屋敷に戻った僕たちは準備を始める。といっても僕たちはそのままでも行けるのだが。


 あまり時間がない中、目の前ではロゼ嬢が自分も連れて行ってほしいと交渉している。


「異形の時にわたくしも前バーンシュタイン公爵に守っていただきました!」


「ダメだ、今回は嵐になる可能性があると言っているではないか! そんな危険な所へロゼを連れて行くわけにはいかない!」


「それでは、エドワード様を危険な所へ連れて行くのは構わないのですか⁉︎」


「エドワード様は自分の身は自分で守る事ができる。ロゼとは違うのだ、一緒にするではない!」


「お父様なんか大っ嫌いです!」


 そう言うとロゼ嬢は部屋から出て行ってしまい、レーゲンさんはダメージを受けたようだ。


「それでレーゲンいつ出発するのだ?」


「申し訳ございません、ロゼがあそこまで行きたがるとは思いませんでした。それでは参りましょう」


「それではみんな行ってまいります」


「エドワード、お義母様がついているから心配はしていませんが、十分注意するのよ?」


「分かりました」


「エディ、嵐が来たら投げ出されないように糸で固定しなさい」


「メグ姉、分かったよ。カトリーヌさんも任せっきりで申し訳ないですが、残りの調整お願いします」


「任せときなさい!」


「それじゃあ、エドワード行くよ」


「はいっ!」




 馬車に乗り込み港へ向かう。


「来たね、準備は出来てるよ。乗り込んだら出発しようか」


 デッキに乗り込むと。


「錨を上げろ! 帆を張れ! 出発だ!」


 アンさんが指示を出すとアンカーを上げて、帆を張りだす。アンカーはストックアンカーのようだ。3隻の船が動き出した。


 ルブルムには手ぶらでは行かないで、ついでに商品を運ぶ根っからの商人気質らしい。


 船は風の魔術や水の魔術を併用して進んでいるらしく、思った以上に高速で移動するため、あっという間にファンティーヌの港から遠ざかって行く。


 ファンティーヌから離れると次第に青空は消え、どんよりとした雲に覆われて行った。

 

 初めての海なのだがとても楽しむ気分にもなれず、徐々に荒れていく海を眺めていたら次第に気分が悪くなってきたのだ。


「ふむ、エドワードにも弱点があったんだね?」


「そうみたいです……」


 荒れた海で酔ってしまったようだ。大丈夫と思っていただけに地味にショックだ。現在はおばあ様に膝枕をしてもらって休んでいる。


「まあ、これだけの高い波を経験することはあまりないからね。初めてでは仕方ないだろう」


 レーゲンさんはよく船に乗っているらしいので問題なく、おばあ様は海で船に乗るのは初めてなのだが、平気なようだ。


 しばらく、おばあ様の膝で休んでいると、おばあ様が何かに反応する。


「おい、レーゲン。何か来るぞ!」


「アン! 状況は⁉︎ クロエ様が何かを感じたみたいだ!」


「クロエ様が? ……荒れている波と雨しか見えないが……ッ⁉︎ おい3号船が沖に流されすぎだ! もっと陸地側へ寄せろ!」


「激しい波でコントロールが効かないようです!」


「チッ、あれだけ離れるとあたいの力じゃ届かない。レーゲン! なんとかならないかい?」


「私でも少し遠すぎて魔術が届かないかもしれないが、やってみよう!」


 魔術という言葉に反応した僕は、気持ち悪いのを我慢して外を見てみた。


 ……なるほど、船の周りの波をアンさんの魔術で若干抑えているのか、波が荒すぎて全然分からなかったが、見比べると全然ちがうな。


 ヴァッセル公爵家の人たちは、海に面した土地を治めるのに適した能力を持っているようだ。


 レーゲンさんは、遠くに離れてしまった船の海流をコントロールしようとしているが、離れ過ぎているのか、波が高すぎるのか、思うようにいかず焦りが見える。


「レーゲンの魔術は届いてないみたいだね……」


「そのようですね」


 突然、流された船の周りだけ波が無くなり魔術の効果かと思った瞬間、今度は海面がへこみアリ地獄のようなすり鉢状になって船が中央に落ちて行った次の瞬間。


 両サイドから何かが出てきたかと思うと、船を飲み込み大きな山が出来上がる。噂にあったクジラだ。40メートル級の船を一飲みってどんなサイズのクジラなんだよ! シロナガスクジラの最大サイズでも27メートルぐらいだと言う話なのに。


 今度はクジラが水中に潜った余波で大きな波が押し寄せる。アンさんやレーゲンさんが魔術で抑えようと試みるが少し離れている2号船が横倒しになって沈没した。


 僕たちの乗る1号船は何とか持ちこたえたが、何人かは海に投げ出されたようだ。僕と近くにいたおばあ様は糸で固定したので何とか持ちこたえる。


「エドワード、助かったよ!」


「いえ、無事で良かったですが。急すぎて何人か落とされたようです」


 落ちた人を助けられるか確認しようとした時。


「エドワード! まだ油断するんじゃないよ!」


 おばあ様に注意された。まだ狙っているということなんだろうか? このまま狙われては一溜まりもないぞ。


 船の上が不安定すぎて立つこともままならない、どうする?


「ヴァイス、魔物が今どの辺りにいるか分かる?」


(ワレ)に任せろ! 今は少し離れた所にいるぞ。あの辺りの海中だ』


 まださっき船を飲み込んだ付近にいるようだ。ぶっつけ本番だが試してみるか。


「おばあ様、アレを倒します!」


「どうやってだよ?」


 深呼吸をすると空中にクモの縦糸だけで構成されたクモの巣を空中に張って見る。


 能力で作った糸は空間に固定できる性質を利用して作ってみたのだが、成功したようだ。


 空中に張ったクモの巣へ飛び乗ると十分足場として機能するようだ。船の上より快適に動くことができる。


 クモの巣を繋いで船を飲み込んだ辺りに行くと、確かに何かいるような気配が上空にいる僕にでも分かった。


『ウルス、クジラの脳の位置は分かる?』


 サポートの為にウルスを空間収納庫に格納してきたのだ。


『横から見ると目のちょい奥ぐらい、上からだと鼻孔よりも少し奥ですね』


『ありがとう』


 問題はどうやって攻撃するかだ。もしかしたら飲み込まれた人たちは、まだ生きているかもしれないから雷とかはダメそうだな。


 取りあえず一発攻撃してみようと思った時、魚影が横向きになったのが見えた!


 おそらく、1号船の近くへ移動するため横になったのかもしれない。


 チャンスだと思った僕は、直径3センチ長さ3メートルのタングステンの糸を2本出すと3000度まで雷を付与するとタングステンの糸は光輝き周囲を明るく照らす。


 光のお陰で頭の位置がまるわかりになったのは嬉しい誤算だが、光り輝くタングステンの糸を2000メートル毎秒の速さプラス重力をかけるイメージで放つ!


 ドンッ! 水が弾け飛び大きな音と共に明るかった周囲は再び暗くなったかと思うと、水中に炎が上がった!


 突き刺さったタングステンはクジラを燃やしているようだ、脂が乗って燃えやすいのだろうか?


 クジラはもがき始め暴れまわる、クモの巣を張りもう少し上空に移り、船の方を見ると船は何とか持ちこたえているみたいだ。アンさんとレーゲンさんが頑張っているのかもしれない。


 炎が消えるとクジラは死んだのか浮かび上がって来たのだが……。


 めちゃくちゃ大きいな……200メートルぐらいはありそうだ。クジラが倒されると同時に嵐は静まり青空が広がってきた。


「何とか倒せたみたいだな、これどうしようか?」


『空間収納庫に入れてみたら?』


「そうだね」


 空間収納庫に入れようとしてみるが入る気配は無い。


「大きすぎて入らないのかな?」


『飲み込まれた人がまだ生きているのじゃないかな?』


「そう言えばそうだった、取りあえず船の近くに引っ張ってから考えようか」


 死んだクジラに糸を絡めて船に戻るのだった。




 ――――――――

 サポーター限定になりますが近況ノートに「SS第95.5話 双子のドワーフ」公開しております。

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