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第202話 ファンティーヌ巡り(上)

 カトリーヌさんは今日もサイズ調整なので、ファンティーヌの町を見て回る。


 ロゼ嬢が案内してくれる事になっていたのだが、出発直前に使者が来てしまったため、僕たちだけで見て回る事になった。


 まず真っ先に向かったのは、真珠を売っているお店だ。場所は事前に聞いているし、公爵の紹介状もあるので問題ないだろう。


 店の中には真珠の首飾りや、珊瑚で作られたアクセサリーなどが数多く並べられていた。


 紹介状を見せると奥の部屋に案内されて、まだ加工していない真珠を見せてくれる。


「おばあ様どうでしょうか?」


「あたしに聞いてもダメよ、宝石とかはサッパリだから」


 しまった! カトリーヌさん不在の今日のメンバーは、宝石より武器に目を輝かせる人たちばっかりだった。


 メグ姉は精霊の宿らない宝石には興味がないし、ジョセフィーナとコレットさんも宝石より武器派だし……お母様はどうなんだろうか?


「お母様は真珠の良し悪しは分かりますか?」


わたくしに任せなさい! これでもニルヴァ王国の王族なんだから、宝石の良し悪しは勉強しているわ。ニルヴァ王国には森しかないから、真珠は貴重なのよ」


「そうなんですね」


 お母様は真珠の粒を見ながら選別していく。


「まずは大きさね! 大きな物の方が貴重よ。でも、ただ大きければいいって訳じゃないの、形がいびつなのはダメね、丸い方がいいわね」


「なるほど」


「次に注意すべき点は、傷の有無に光沢具合よ。もちろん、光沢があるものの方が良い真珠になるわ」


 母様が僕に真珠の良し悪しを説明しながら厳選していく。


「こんなところかしらね」


「では、これと珊瑚を何種類か包んでもらえるかな、アクセサリーに加工するので色味が綺麗なやつね」


「畏まりました」


 店主が珊瑚を選び見せてくれる。


「この辺りが、アクセサリーに加工するにはちょうど良いと思われますが、いかがでしょうか?」


 真っ赤な珊瑚やピンク色の綺麗な珊瑚など、綺麗な色の珊瑚を選んでくれたようだ。


「綺麗な色の珊瑚ですね。それでお願いします」


「お買い上げありがとうございます」


 真珠と珊瑚を買って店を出たが、結構いいお値段だった。


 養殖はもちろんないので、天然の真珠を探すために、冒険者ギルドでも常時依頼があるぐらいなんだとか。珊瑚も海の深いところは魔物が出るので危険なため、打ち上げられた物を拾ってくるのが基本だが。一発逆転を狙い海に出たはいいが、帰って来ない商人や冒険者たちが後を絶たないらしい。

 

 ◆


 真珠を買う事ができたので、次は市場を回り、珍しい食材などを買い漁ることにした。


 これは前に王都で買った昆布みたいなやつだな、大量に買っておこう。


「海って色々な魚がいるのね?」


「母様、海はプレジール湖に比べると比較出来ないくらい大きいですし、その分種類も多いのではないでしょうか?」


「確かにそうね、プレジール湖を初めて見た時には驚きましたが、海にはそれとはまた違った驚きがありますね」


「この石みたいのも食べるのかしら?」


「メグ姉、それは貝と言って、中に入っている身を食べるみたいだよ」


「これがそうなのね、初めて見たわ」


「どの貝かは分からないけど、さっき買った真珠は貝の中に入ってるんだってさ」


「この中に真珠が入ってるの? この値段で買えたら大儲けじゃないの」


「多分この辺りに売っているのは入っていないのか、入っている可能性が低い貝なんじゃないかな?」


「そうなのね」


「エドワード様、あちらをご覧ください」


 ジョセフィーナが指さしたところには人だかりが出来て、一喜一憂する大人たちがいた。気になったので見に行って見ると、大きなアコヤガイのような二枚貝を売っているお店のようだ。


「おそらくあそこで売っている貝に真珠が入っている可能性があるんだね。ちょっと値段を高めに設定して売りつける、真珠が入っていれば大当たりということだね」


「なるほど、自分で開けて一攫千金を狙うより、確実な儲けをということなんですね」


 ジョセフィーナが感心しているが、これは天然のガチャだな。頭では出ないと分かっていてもチャレンジしたくなるのがガチャ魂、こういうのは元地球人としてのDNAにも刻まれ……いや転移したわけじゃないからDNAは関係ないか。


 取りあえず、順番の列に並ぶ。冒険者風の男が貝を選び開け始めると、周囲の人たちは固唾を呑んで見守る。こっちまでドキドキしてきたぞ。


「あ――っ! 入ってない! 俺の全財産が……」


 冒険者風の男は膝から崩れ落ちる。全財産をこれにかけるってバカなのか? あんな大人にはならないでおこう。


「エドワード様、本当にするのですか?」


「1回だけだよ。こういうお祭り気分なのは体験してみないとね。領に帰った時のイベントとして、何かに使えるかもしれないでしょ?」


 1回だけと言いながら、何回もする大人はたくさんいるが、僕はきっちり1回だけのつもりだ……多分だけど。


 1回引くのに銀貨1枚、一般的な大きさの真珠の買取が1粒大銀貨2枚ぐらいと聞いているから当たれば20倍か……そこまで一攫千金じゃないな、でも大粒だったり珍しい色だったりすると値段は跳ね上がるから、一概にそうとは言えないのかもしれないが、全財産をつぎ込む価値は無いように思える。見ている感じでは当たる確率はそれほど高い訳でもなさそうだし。


「1回銀貨1枚だよ」


 おっと、考え事をしていたら、僕の順番になった。銀貨1枚支払って、どの貝にするのかを探す。といってもう決めてあったのだ、1回り小さいサイズのせいで他の人たちから選ばれることの無かったほんのりピンク色の貝。


「よし、キミに決めた!」


 一度言ってみたかっただけなので、他意は無い。おじさんからナイフを借りてこじ開けると……。


「――!」


 中に入っていたのは3センチぐらいの綺麗なピンク色をした真珠が……2つ!? 2つも入ってるじゃん。綺麗だけど楕円形で炎みたいな模様が入ってるから、記念にはちょうどいいのかもしれない。


 ん? なんか周りがザワついてるな。


「坊ちゃん、その真珠1つ金貨1枚で買い取るけど、どうだい?」


『おおー!』


 店主のおっさんの1つ金貨1枚という言葉に周りが驚く。真珠にしては高額なのかもしれないけれど、旅の思い出はプライスレス、売るつもりはない。


「えっ、嫌ですよ?」


「何!? では1つ金貨2枚ではどうだ?」


「旅の思い出なので、いくら積まれても売るつもりはないので、それでは」


 僕たちはガチャ会場を後にした。


「エドワードはその真珠の価値を分かっているのね?」


「もちろんです母様。大きさや色の輝きは申し分ないですが、形が悪いのでダメなんですよね? あと炎みたいな模様も入ってますし」


「違うのよ、その真珠は国宝級のお宝よ?」


『――!』


「ソフィア、その話は本当なのかい?」


「はい、お義母様。その火炎模様のついた真珠は、他の物とは一線を画す存在ですわ」


「つまり、さっきの店主はそれを分かって、金貨2枚を提示してきたと?」


「そうなるわね。さっきの店主は今頃悔しがってるでしょうね」


「でも真珠が出るか出ないかは、運次第じゃないんですか?」


「さすがに金貨1000枚以上の価値がある真珠は、悔しいんじゃないかしら?」


「1000枚!? そんなするんですか?」


「だから国宝級っていったじゃない」


「そうなんですね。マーウォさんに見せたら喜びそうですね。母様のアクセサリーにでもしたらどうですか?」


「えっ、私に!? いいのかしら?」


「いいんじゃないですか? 母様なら似合うと思いますし」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、ヴァルハーレン家の家宝にしましょう! エドワードが大公になったときには、その奥さんが受け継げるようにマーウォに頑張ってもらわないとね」


 母様は何やら自分の世界に入り込んでいるな。楽しそうだからいいけど。


『それにしても、エドワードは珍しいものを引き当てたね』


『ウルス? 起きてたんだ』


『失礼な! しっかり起きてますがな』


 偶々起きたんだな。


『それで珍しいって真珠の事?』


『それは地球ではコンクパールとか呼ばれている真珠ですよ』


『コンクパール? 初めて聞いたけど』


『普通真珠は2枚貝から採れるのですが、コンクパールはコンク貝という巻貝から採れます』


『そうなの? でもさっきのは2枚貝だったよ』


『だから珍しいのです。理由は分からないので、異世界だからという都合の良い言葉で纏めますが、コンクパールの特徴としては綺麗な丸はまずないので、大きさの計測の仕方がカラットになります』


『普通の宝石みたいだね』


『そうです。そして最大の特徴はその火炎模様、ハッキリ見えるものが良いとされていますので、エドワードが見つけたやつは最上級ってことだね』


『そうなんだ、宝石はよく分からないから、マーウォさんに見てもらうよ』

 

 どうやら真珠ガチャで、レアものを引いてしまったようだった。

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