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第199話 バニラアイス

 ホイップの魔法を完成させたので、本番に移ろうとすると。


「ちょっと待つのだ! エドワード様は、なぜ風の魔術を使えるのかな? しかもかなり精密なコントロールだったぞ」


「……」


 あれっ、まずかったのか? 魔法というか魔術を使えることは……ヒミツだっけ? そういえば、カトリーヌさんが僕にお風呂で洗ってもらうとロゼ嬢に言ってたが、魔法を使うとは一言も言ってないな……なんだか失敗したような気がするぞ。


「ほ、細い空気の()を回転させているのです」


 あながち嘘ではない。

 

「そのような糸もあるのか?」


「ええ、まあ。糸の定義は幅広いので」


「……なるほど、それでは、あの強さと不思議な力は全て糸による……」


 よく分からないが、納得したようなので料理に戻ろう。後ろでおばあ様が笑いをこらえているのが見えたが、見てないふりでいいだろう。


 まずはアイスクリームだな。買って来たバニラビーンズの莢から種を取り出して、鍋に牛乳と一緒に入れ弱火で温める。莢も一緒に入れると香りが良くなるとか。


 次にボウルに卵黄と砂糖を入れ、よく混ぜ合わせた物を牛乳の入った鍋に入れ、よく混ぜたところで火からおろし漉していく。


 そして、ボウルに生クリームを出して、ホイップの魔法で若干ツノが立つぐらいの八分立てぐらいに仕上げ、鍋の中身と混ぜ合わせ粗熱を取り容器に移す。次に冷凍するのだが、ここで魔法を使うのはまずいので、メグ姉に頼もう。


「メグ姉、これを少し凍らせてもらえるかな?」


「いいわよ」


 メグ姉が呪文を唱えると、精霊が集まって来た。アイスクリームを凍らせて行くので、ある程度凍って来たところで、空気を含ませるようにかき混ぜる。2、3回繰り返して完成だ。取りあえず完成したものは冷凍庫に入れておく。


 そして、買って来たマンゴーなどのフルーツをカットして、トッピング用に冷蔵庫で冷やしておく。


 ボウルにカットしたマンゴー、砂糖、レモン汁を加え、軽く潰しながら混ぜ合わせ加熱する。程よく水分が出ればソースの完成だ。これも冷蔵庫に入れておこう。


 最後にスフレパンケーキを作るが、ホイップの魔法が凄かった。いつもよりかなり大きくメレンゲが膨らんでいるように感じる。


 スフレパンケーキを焼いたらお皿に盛り付け、アイスクリームとフルーツをトッピングして、マンゴーソースをかけて完成だ!


「ふぅ、完成だ」


 そういった瞬間、料理人たちから拍手がおきた。なぜ?


「エドワード様、恐れ入りました! とても見事な腕前、料理人一同感動しております!」


「どうも?」


 ベルナールさん、仕事はいいのかな?


「それでは完成したので、部屋まで運んでもらえますか?」


「畏まりました」


「そうだ、料理長。アイスクリームなどは多めに作ってありますので、良かったらみなさんで味見してくださいね」


「ありがとうございます」


 メイドがスフレパンケーキを部屋まで運んで行くので、僕たちも部屋へ戻る。カトリーヌさんも一息ついてもらうために呼んでおいた。


 ◆


「ロゼ、これがスフレパンケーキです。横のアイスクリームやフルーツと一緒に食べてみて下さい」


 僕がそう言うとロゼ嬢だけでなく、みんな食べ始める。


『――!』


「これがフワシュワなんですね! フルーツとマッチしてとても美味しいです。温かいスフレパンケーキと冷たいアイスクリーム、合わさると不思議な感覚なんですね。確かに幸せの味ですわ!」


「エドワード、このアイスクリーム、前に作ったやつとは全然違うわね。なるほど、あの黒い豆の香りがこんな働きをするとはビックリだよ」


「お義母様、おっしゃる通りですわ、この香りが美味しさを引き立てて、間違いなく今までで一番美味しいスフレパンケーキですわ」


「……」


「ジュリア、どうしたんだい? 固まっているみたいだけど?」


 レーゲンさんが固まっているジュリアさんに呼びかける。


 するとジュリアさんの目から涙が零れ落ちた。


「ジュリア!?」


「なんて美味しさなのでしょうか……これが奥様方で噂になっていた、スフレパンケーキなのですね……たかがスイーツぐらいと思っていた昔のバカな私を、氷で包んで海に沈めたい気分ですわ」


 いや、海水じゃ浮いてしまうので、沈まないと思いますよ。


『エディよ、このバニラアイスというのは最高だな。この辺りは暖かいから、更に美味しく感じるぞ』


「美味しいアイスはヴァイスのお陰だね」


 スフレパンケーキは大好評だった。


「エドワード様、わがままを聞いてくださって、ありがとうございました」


「ロゼのお陰で香料や色々なフルーツも買えたので、気にしなくていいですよ」


 紅茶を飲みながら、窓の外の海を眺めていると。


「エドワード様は海がお好きなのでしょうか?」


「そうですね……海自体を見るのは初めてですが、あの波はずっと見てられそうです」


「よろしければ、もっとよく見える所でご覧になられますか?」


「もっとよく見える所ですか?」


「はい、城の一部は岸壁の上に建っていますので、そこまで行くと海が真下に見えますの」


「よろしいのですか?」


「ええ、構いません。それでは行きましょう」


 城の中を歩いて行き、中庭に出てしばらく歩くと、野外にある訓練場のような場所に辿り着いた。


「ここは?」


「訓練場です。城の塔などに囲まれて、外からは見えない場所にあります。向こうが海になっていて、魔術の練習をする時は海に向かって放ったりします」


「なるほど! それで海側にはバルティザン(壁から張り出した小さな監視塔)以外は高い壁がないのですね」


 壁の方へ向かうと真下は海になっているが、岸壁の上に城が建っているためかなりの高さだ。僕はバルティザンの上に糸を使って上がる。


「凄い景色だ! ここから海を見ていると、海を独り占めにした気分!」


「独り占めというのはおもしろい表現ですが、エドワード様、そんなところに立たれては危ないです」


「糸を使ってるので平気ですよ? ロゼも見てみますか?」


「えっ……よろしいのですか?」


「構いませんよ、ちょっと待ってくださいね」


 一旦、ロゼ嬢の隣へ降りると、良い案が浮かんだので試してみることにした。


 蔓を出してはしご車などについている人の乗る部分、バスケットの形にする。


「できました。ここに乗ってください」


 ロゼ嬢をエスコートしてバスケットに乗せると、蔓をはしご車のように伸ばしていく。


「えっ、エドワード様ちょっと高すぎませんか!?」


 ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。いつの間にかバスケットは、バルティザンの遥か上まで伸びてしまっていた。


「ちょっと高すぎたかな? でもロゼ見てください、海が凄いですよ!」


 城の壁から出ているので、見渡す限りほとんどが海だ!


 ロゼは恐るおそる瞼を開ける。


「わぁ! 凄く綺麗です!」


「でしょ!? 海を独り占めした気分にならない?」


「本当ですね! でも今はエドワード様と2人なので二人占めですね」


「確かにそうだね!」


 海の景色を十分堪能していると、風が若干冷えてきたので元の位置へ戻り蔓を消し去る。冷えてきたといっても、ローダウェイクよりは全然暖かく感じるが。最初は怖がってたロゼも、蔓を消し去る時には名残惜しそうに見えた。


「ロゼ様、そろそろ夕食の準備が整う時間かと思われます」


「リリアありがとう。エドワード様、ダイニングルームへ参りましょう」


 ロゼ嬢に案内されてダイニングルームへ向かうと、既にみんな席に座っていた。


「エドワード様はこちらへどうぞ」


 案内された席へ座ると、レーゲンさんが話し始める。


「みんな揃ったところで食事を始めようか、始める前に1つだけいいだろうか、当家はデーキンソン侯爵家と懇意にさせてもらっている関係で、キノコ類が料理に使われているものもあります。当家では普通に食しているものだが、どうしても食べられない場合は、キノコ抜きの物を用意いたすので遠慮なく言ってほしい」


 ヴァッセル公爵家では既にキノコを食べているのか、伊達に色々な国と貿易している訳じゃないな。


 たくさんの料理が次々と運ばれてくる。やはり、海が近いから魚料理がメインのようだ。テーブルの中央に大量に盛り付けられた料理が置かれ、それをメイドに取ってもらうスタイルのようだ。


 白身魚のムニエルを取ってもらい食べてみる。魚が新鮮なので美味しい。シンプルな味付けでも、十分に美味しいのは魚料理のいいところだな。


 次はソテーの方を食べてみよう。上に乗っているキノコはマッシュルームだな。これも美味しい! ベルナールさんは、ロブジョンさんに匹敵する腕前の持ち主かもしれない。キノコを普通に食べて行く僕たちを見て、若干引いているようにも見えるが気のせいだろ。


「ヴァルハーレン家の方々はキノコを普通に食べられますのね?」


 ジュリアさんが聞いてくると、おばあ様が答える。


「デーキンソン侯爵家へ泊まった時にいっぱい食べてるからね。そうだエドワード、アレを出しなさい。ジュリアは料理長を呼びな」


 しばらくすると、ベルナールさんがやって来る。


「クロエ様がお呼びと聞きましたが?」


「デーキンソン侯爵領で、これから高値が期待されるキノコの使い方を教えておこうと思ってね。エドワード」


「はい、おばあ様」


 空間収納庫から黒トリュフを出すと、ヴァルハーレン家以外の人は若干引いた顔になっている。


「エドワード様、それはいったい……」


「黒トリュフというキノコです。デーキンソン侯爵領で購入しました」


「初めて見るキノコ? ですが食べられるキノコなんでしょうか?」


「エドワード、あたしのコレにかけてもらえるかい?」


「分かりました」


 白身魚のムニエルにかけるようだ、食べなくても美味しいのが分かってしまう。糸を使い薄くスライスして大量にかけたが、真っ黒な見た目にヴァッセル公爵家一同ドン引きである。それをおばあ様は気にすることなく食べ進める。


「うん、やっぱり合うね! この香りが白身魚にマッチしてたまらないわ」


「それが美味しいのでしょうか?」


 ベルナールさんも不思議そうに見ているので、メイドに頼んでベルナールさん用に取り分けてもらい、黒トリュフをスライスする。


「実際に食べてみたらどうですか?」


 ベルナールさんは、レーゲンさんの方を見る。レーゲンさんが頷いているので、了解が取れた。


「――! なんだこの美味さは! この鼻から抜ける香りが美味しさを引き立てているのか!?」


「その通りです。黒トリュフ自体にそこまでの味はありませんが、強烈な匂いで料理の美味しさを引き立てる効果があります」


『――!』


「そこまでたくさん採れるキノコではないので、今後は高騰が予想されますね」


「そのようなキノコが存在したとは……」


「エドワード様、(わたくし)も食べてみたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ、大丈夫ですよ!」


 ロゼ嬢の言葉を皮切りに、結局みんなにかけてあげることになったのだが、黒トリュフの布教に一歩前進したのだった。

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