第197話 青果店
「おばあ様、スフレパンケーキに合いそうなフルーツなどを見に行きたいのですが?」
「それは良い案じゃない、あたしがついて行こう」
「ありがとうございます」
「エドワード様! スフレパンケーキに合うフルーツを買いに行かれるのでしたら、馬車を用意いたしますわ!」
公爵夫人のジュリアさんが、なぜか張り切っている。するとロゼ嬢が小声で。
「申し訳ございません……お母様も他の夫人に自慢されたいのだと思います……」
なるほど、確かにあの時のお茶会では、ヴァッセル公爵家自体、まだ到着していないという事で参加していなかった。
「みんなの分を用意しますから大丈夫ですよ」
そう返している前ではジュリアさんが。
「ロゼ、あなたエドワード様を案内しなさい」
「はい、お母様」
「リリアにイレーヌ、ロゼの事は任せました」
「「お任せください」」
リリアはロゼの専属侍女だが、イレーヌというのはロゼの専属護衛騎士なんだそうだ。異形事件以降、専属で騎士も護衛としてつけているとのことだ。
「あとそうね……スーザン、あなたは食材の事でエドワード様をサポートしてあげて、メイド長のあなたがいれば安心ですから」
「畏まりました」
結局馬車に乗るメンバーは、僕、おばあ様、メグ姉、ジョセフィーナ、ロゼ嬢、リリア、イレーヌ、スーザンという8人に決定して、商店街へ向けて移動中だ。もちろん、外には公爵家から出した別の兵士がたくさん護衛しているのはしょうがない。
出発の前にジョセフィーナは母様から何かを頼まれていたようだが、何だったんだろうか?
馬車を走らせながら、果物を売っている店に向かっているのだが、ロゼ嬢が色々ファンティーヌの町の事を教えてくれている。
「そういえばロゼ、綺麗な町並みで気になったのですが、町全体がオレンジ色の屋根なのは、決まりとかあるのですか?」
「決まりはないですね、この辺りは雨があまり降りませんので瓦を素焼きで作るのですが、素焼きにするとなぜかオレンジ色の瓦になるそうです。元々は貧しかった時代に安く作るため、素焼きとしたのが始まりなんだそうです。今では景観を合わせるために皆あえて素焼きで作っているとか」
「そうだったんですね。素焼きにすると赤くなる土というのは、おもしろいですね」
「不思議ですよね」
そういえば、酸化鉄の関係でオレンジ色になるという話があったはずだ。
「ロゼは自領の事をしっかり学んでいるのですね。僕も見習わなければいけませんね」
「エドワード様は、ずっとご両親と離ればなれになっていたのですから仕方ありませんわ、これからじっくり学べばよいのですから」
「ありがとうございます。ロゼは優しいですね」
「そっ、そうでしょうか?」
「はい、とても」
会話が途切れたタイミングで馬車が停まった。
「エドワード様、フルーツを購入なされるという事でしたので、公爵家に納めている青果店に横付けいたしました。ここでは様々な野菜や果物を購入することが可能です。公爵家は毎日ここの店に任せておりますので品質は確かでございます」
横付けかよと思ったが、横付けどころか貸し切りにしての厳戒態勢でした。公爵が過保護なのかこれが普通なのかは分からないな。
急遽、お客を追い出して貸し切りにしたらしく、手ぶらで帰ってはお店に迷惑をかけてしまうので色々購入することにした。
見たこともないフルーツや野菜などを手当たり次第に頼んでいく。こういうとき空間収納庫を持っていて良かったと思う瞬間だ。あくまでも、お店に迷惑をかけたお詫びのしるしに購入しているので、取りあえずすべて試してみたかったとか単純な理由ではない……はずだ。
「あのっ、エドワード様? スフレパンケーキというのは、こんなにもたくさんのフルーツが必要なんでしょうか?」
「ん? いえ、急に貸し切りしちゃったので、迷惑料もかねて多めに購入しているだけですね」
「そうだったんですね! てっきり私とんでもないお願いをしてしまったのかと思いました」
確かに何の説明も無しにたくさん購入すればビックリするか。
「ごめん、先に言っておけばよかったですね」
見回していると、見たことがあるフルーツを見つけたので、傍へ行ってみるとロゼ嬢が教えてくれる。
「そのフルーツ外は赤いのですが、中はオレンジ色のフルーツなんですよ! とても甘くて美味しいので大好きなんです」
「ロゼが大好きなら、ぜひトッピングしましょう」
「よろしいのですか?」
「店主、ここで試食してみてもよいか?」
「へっ? はっ、はい構いません!」
おそらくマンゴーと思われるフルーツを手に取ると、糸を使って半分に切る。花咲カットにするときは、種を避けるために3枚おろしが基本だが、僕の糸なら種ごといける。
半分にして断面をみて確信した、やはりマンゴーで間違いない、糸で種を取り出し格子状に切れ込みを入れて、裏から押し上げると花が咲いたようになった。
「まぁ!」
オレンジ色の四角い花が咲いたので、ロゼ嬢はビックリ……いやみんなだった。
貴族として、はしたないがそのまま口に運ぶ、やはりマンゴーで間違いない。ただ甘味はそこまでないように感じる、品種改良されてないからだろうか。ロゼ嬢に凄く見られていることに気がついた。
「ロゼのおすすめだけあって凄く美味しいですね。半分食べますか?」
「はいっ!」
ロゼ嬢もそのまま食べ始めたので、おばあ様たちの分もカットして配る。
「随分と手慣れた感じだけど、エディは食べたことあるのかしら?」
「メグ姉、初めてだよ。旅の間に発見したフルーツの食べ方なんだ」
「なるほど、確かにこれだと手が汚れないから便利だね……それとエドワード、これは多めに買っておきなさい」
「おばあ様も気に入ったのですね。分かりました」
大量の購入に店主もほくほく顔だった。店を出ると、ヴァイスが話しかけてきた。
『エディよ、向こうの方から甘い香りがするぞ!』
「そうなの? ロゼ、向こうに行きたいのですがいいですか?」
「はい、問題ありません」
しばらく歩くと、ヴァイスが合図する。
『この店から匂ってくるぞ』
「この店なの?」
『間違いない』
辿り着いたのは、香油を扱っているお店のようだ。
「エドワード様は香油に興味が?」
「いや、全然ないですよ。ヴァイスが甘い香りを感じると言うので来てみたのです」
「甘い香りですか」
「ええ。ヴァイスどれからか分かる?」
『ダメだ、匂いの元が多すぎて、鼻が曲がりそうだ!』
「分かったよ、僕が探してみるね」
店内を見てみると、色々な匂いの香油が売られている。この国で香油は体につけたりするだけでなく、薬としても使ったりするらしい。
店の一角に自分で作る用なんだろうか、材料の植物などが売られているコーナーを見つけたので、その中から探すと、ヴァイスが言った甘い香りの元を見つけたのだった。




