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第196話 ドレスの納品

 部屋へ戻り、早速納品の続きを始めようと思ったら、やたらと視線を感じるような……まあいいか。


「それでは頼まれていた残りの服を出しますが、どこに置きましょうか?」


「こちらへお願いいたします」


 そう言いながら、新しいメイド服に着替えた3人の侍女が入って来る。1人は年齢的にジュリアさんの侍女で、後の2人はクレーネ嬢とロゼ嬢の侍女だろう。


「まあ、テレーズよく似合っているわ!」


「奥様、私が着ても変ではないでしょうか?」


「全然問題ないわ! いつもは暗い色が多かったけど、この明るい色の方が似合うわ。ペルラとリリアもとても似合ってるわよ!」


「「「ありがとうございます」」」


 テレーズ(28歳)がジュリアさんの侍女で、ペルラ(15)がクレーネ嬢の侍女、リリア(12歳)がロゼ嬢の侍女なんだそうだ。


 侍女とメイドやメイド長の違いは、いつも通りエプロンドレスの違いにしてあり、侍女のエプロンドレスは色々と華やかに作ってある。


 

「それでは出しますね」


 そう言って、順番にドレスを出していくと、侍女たちがテーブルに並べていく。


「まあ、とても素敵だわ!」

「お母様これは(わたくし)のですね!?」


 ジュリアさんとクレーネ嬢が真っ先に飛びついた。


「父上、私たちの分まで作って下さったのですか?」


「もちろんアンディとフリッツの分も作ってもらっている、スパイダーシルクで作ってあるので、もしもの時に役に立つはずだ」


「「ありがとうございます」」



「それでは、それぞれサイズ調整が必要か確認してもらえますでしょうか? 直しが必要な場合、女性陣はそのままメイド服の会場でカトリーヌが調整してくれます。男性陣で調整が必要な場合は、メイドに言って別室でお待ちください。カトリーヌの方から伺いますので」


 一同は頷くと、それぞれの部屋へ向かって行った。


「ふう、これでサイズ調整が完了すれば一安心ですね」


「エディ、とても頑張ったわね。偉いわ」


「確かにエドワードはよく頑張ったね」


「マルグリット殿にクロエ様、エドワード様はいつも頑張っておられますので」


「確かにそうね」

「違いない」


「エドワードは少し頑張りすぎじゃないかしら? 母として心配だわ」


「今回はおばあ様のお陰で、早く移動出来ているので全然大丈夫ですよ?」


「無理をしてはいけませんからね?」


「分かりました、気をつけます」

 


「お茶をどうぞ」


 メイド長がお茶を淹れてくれる。メイド服のエプロンドレスのお陰で、メイド長かは直ぐに分かった。


「ふむ、初めて飲む味だが悪くないね」


 僕も飲んでみよう――! これって緑茶じゃん。

 

「最近ジュリア様が気に入られている、ベスティア獣王国のお茶で、グリーンティーというお茶でございます」


「ベスティア獣王国とは、随分と遠い所と貿易しているのね?」


「はい、偶々嵐で立ち寄ったところ、貿易することになったようです」


「ベスティア獣王国が貿易とは、また珍しいこともあったもんだね」


 そこへ、レーゲンさんが戻って来て話に入ってきた。


「どうやら、イグルス帝国と戦争中ということみたいです。他にも、イグルス帝国はアラクラン首長国にも戦争を仕掛けているという話なんですが、クロエ様はご存じでしょうか?」


「アラクラン首長国の事かい?」


「はい、お恥ずかしながら、私も初めて聞いた国の名でして、全く情報が掴めておりません」


「そうだね、海の魔物は厄介すぎて、そう遠くまでは行けないし。地図もないから知らなくて当然ね……イグルス帝国の西側がヴァーヘイレム王国とすると、東側がベスティア獣王国、そこからもう少し北にある国ね。西側で言う所のニルヴァ王国ぐらいの位置かしら」


「なるほど、獣王国よりもっと北にある国なのですね?」


「小さい小国よ。周りに海の無い山野に囲まれた国で、砂の大地に覆われた国よ」


「そのような小国とまで戦っているとは、イグルス帝国はいったい何を考えているのだ……」


「アラクラン首長国の連中は変わった能力を持っていてね、動きにくい砂の大地を、大きなサソリの魔物に騎乗して戦うのよ」


「なんと!? 虫を操る能力を持っていると?」


「まあ、遠い国の話で、あたしも実際に見た訳じゃないから、詳しいことは分からないけど、そういう話らしいわよ」


 イグルス帝国は、うちだけじゃなく、まだ2つの国と戦争しているんだな。


 話をしていると、嫡男のアンディ君と次男のフリッツ君も戻って来た。


「そう言えばサイズの方はどうでしたか?」


「驚くほどピッタリだったよ。お前たちはどうだったかな?」


「測った訳でもないのに、ピッタリでした。全く問題ないです」


「僕もちょうどよかったです」


「それにしても、モイライ商会の仕立ては見事だったよ。早く王都で開店して欲しいところだが、それでも遠いのが残念だよ」


「喜んでもらえたのなら、良かったです」


 侍女のテレーズさんたちが戻って来たと思ったら、納品したドレスを着た3人が入って来た。これはもしかして、レーゲンさんの見せ場では?



「おお! 3人ともよく似合ってるじゃないか! なるほど、いつものドレスも素敵だけど、ジュリアの魅力を完全に引き出すにはこっちのドレスの方が良いみたいだね!」


「まあ、あなたったら!」


「クレーネもよく似合ってるよ! それを着てお茶会に顔を出したら、注目を浴びてしまいそうだね!」


「……」


「ロゼはいつもよりさらにキュートに見えるね! 2人ともそれを着ていったら、縁談の話がさらに増えそうだよ!」


 うーむ、あれが正解なのかは僕には分からないな、奥さんのジュリアさんは喜んでいるみたいだから夫婦的にはありなんだろうが、僕には無理そうだ。最後の縁談の一言で2人ともムッとした顔をしていたので、失敗したみたいだな。やはり僕はハリー式を目指すのがよさそうだ。


「エドワード様?」


 考え事をしていたら、目の前にロゼ嬢がいた。


「ごめん、ちょっと考え事をしていました」


「そうでしたか、私の新しいドレスはいかがでしょうか?」


「えっ!? そうですね……ロゼのサファイアのような青い瞳に合わせたかのような、青いドレスがとてもよくお似合いですよ」


「サファイアのような瞳ですか!? そんなことを言われたのは初めてです」


 ロゼ嬢は頬を赤くして照れている。あれっ? ドレスを褒めたはずなのに、なぜに瞳の話で照れてるの? まあレーゲンさんよりはマシという事にしておくか。


「ロゼが照れているのを初めて見たよ! エドワード様は褒め上手なのかな?」


「アンディ兄様!」


「エドワード様に、まだロゼを助けてもらったお礼を言ってなかったと思ってね。妹を助けてくれてありがとうございます。ずっとお礼を言いたかったんだ!」


 サラッとお礼を言える爽やかイケメンのアンディ君は、社交界では人気がありそうだ。


「いえ、あの時は本当に間に合って良かったです」


「ロゼが帰ってから、エドワード様に助けられた時の話を何度も聞いたので、初めて会った気がしないんだよね。パーティーの時の話も入れると100回は超えているんじゃないかな?」


「エドワード様に話すなんて酷いです! サイテーです! ミシェルに言いつけます!」


「ロゼすまん! それだけはやめてくれ!」


 ミシェルと言うのはアンディ君の婚約者なんだそうだが、もう尻に敷かれてるのだろうか?


「まあアンディ君もロゼの事を心配してただけなんだし、許してあげたら?」


「分かりました……でも……でも1つだけお願いを聞いてくださいますか?」


「僕に出来そうなことでしたらいいですけど」


「ス……」


「ス?」


「スフレパンケーキを作ってもらえないでしょうか!?」


「……はいっ?」


「いつも集まるメンバーで食べてないの私だけなんです! 『フワシュワ』って何なんですか? 気になり過ぎて夢に『フワシュワ』が出てくるんです!」


 拳を握りしめて立ち上がり、大声で力説するロゼ嬢に部屋は静寂に包まれた。


 気づいたロゼ嬢は顔を真っ赤にすると慌てて座り、僕の方をチラッと見ると瞳を潤ませて尋ねる。


「ダメですかね?」


「……」


 僕はフルフルと首を横に振る。


「作っていただけるのでしょうか?」


 僕がコクコクと首を縦に振ると。ロゼ嬢の顔にパッと大輪の花が咲き。


「ありがとうございます!」


 今日一番の笑顔を前にしながら、そこまで大げさにしなくても、作るんだけどなと思うのだった。

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