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第195話 冷蔵庫と冷凍庫の納入

 ぞろぞろと引き連れたまま、厨房へ入る。


「ここでお願いできますでしょうか?」


「分かりましたよ」


 指定された所に、冷蔵庫と冷凍庫を設置すると。


 ――おおー!


 何を置いたのか分かってない料理人たちまで、一緒になって驚いている。


「これが冷蔵庫と冷凍庫……なるほど、値段に相応しく外観の細工も美しいのだな」


「そうですね、一般向けで販売する時は簡素化するつもりですが、貴族向けとしては、どこに設置しても見劣りしない物にしています」


「どこに設置してもというのは?」


「そうですね、貴族によっては冷蔵庫を部屋に置いておいて、飲み物を冷やしておくみたいな使い方をされる人も、いるかもしれませんからね」


「――! なるほど、確かに暑い夏などに合った使い方だ」


「エドワード。それはつまり、プリンを冷やしておけば、いつでも好きな時に冷たい状態で食べられるということかい?」


 おかしいな、飲み物の話をしたのに、どうしてデザートの方向に?


「そうですね、プリンは傷みが早いですが、それでも2、3日くらいなら保つと思います」


「それはいいね! こんなバカでかいのは要らないから、帰ったら小さいのをあたしの部屋に頼んだよ」


「分かりました」


「エドワード、(わたくし)もお願いできるかしら?」


「大丈夫です母様」


 どうやら、決して口にしてはならない使い方を言ってしまったようだ。


「話が逸れてしまいましたね。まず使い方になりますが、それぞれ10年とプラス1年は魔力が持つようになっています」


「11年も魔力がもつのかい? それとプラス1年というのはどういう事かな?」


「はい、もつと思います。10年以内に壊れるようでしたら無償で修理しますよ。プラス1年というのはサービス期間ですね、10年目から11年経つまでの間に魔力の補充作業をすれば、さらに10年使用できます。魔力の補充には、購入費用の4分の1をいただくことになりますが」


「なるほど、プラス1年という理由がわかったよ」


「次に修理の対象外となる行為を説明します。故意の破損や、分解による修理は一切受け付けしませんので、取り扱いには注意してください」


「仕組みが分からないようにするためだね? それでも、分解をしようという貴族が出てきても、おかしくはない商品だとおもうのだが」


「それについては、分解すると同時に内部が破壊される構造になっていますのでご心配なく。というか大惨事になりますので、止めておいた方がいいですよ」


「内部が破壊! それはそれで、気になる構造ではあるが理解した」


「それでは、もう既に中は冷えていますので、実際に見てみましょう」


 冷蔵庫を開けて、水の入ったカップ。冷凍庫を開けて、その水が凍ったカップを出すとレーゲンさんが中の水を触ってみる。


「おお! 確かに冷えている。しかも、こちらは確かに凍っているな」


 レーゲンさんの後に続いて、ジュリアさんから順番に触って行く。


「これは想像以上に素晴らしい物だ! 我が領では魚が獲れるのに、暖かい気候のせいで直ぐに傷んでしまうのが悩みだったのだ。これを上手く利用すれば、解決してしまうではないか」


「そうですね、生魚でしたら凍らせておけば、3週間ぐらいは大丈夫ではないでしょうか? そのあたりは食材によって違いますので、気を付けてもらうしかありませんが」


 一般家庭用の冷凍庫は、マイナス18度で2週間から3週間ぐらいが目安と言われているが、業務用冷凍庫はそれ以下なのでもう少し長い。今回の販売モデルはマイナス30度に設定してあるので、3週間は余裕だと思う。


「ほう、3週間も大丈夫とは凄いではないか!」


「どのくらいもつのかは、扉を開ける頻度で変わってきますので、注意してくださいね」


「開ける頻度で変わるのか?」


「扉を開けると、庫内の冷気が逃げて温度が上がります。そうすると、冷やしたり、凍らせたりした食材の劣化の原因になりますので、頭に入れておくと良いと思います」


「ベルナールよ。分かったか?」


「大丈夫でございます」


「その他に注意する点があれば教えて欲しい」


「そうですね、凍らせた物を解凍する時は注意しないと、味が落ちますので気をつけてください」


「味が落ちるのは嫌だな」


「基本的に解凍する時には、時間はかかりますが冷蔵庫の中で解凍させるのが一番ですね」


「一番と言うからには、他にも方法があるということなのかな?」


「そうですね、氷水に入れて解凍する方法もありますが、直接水に浸けちゃうと味が落ちますので、これに入れて氷水に入れると良いですよ」


 そう言って空間収納庫から銅で出来たトレイを渡す。アルミでもよかったのだが、まだこの世界で馴染みのない金属を使うよりは、誰でも手に入り熱伝導率も銅の方が上なので都合がよかったのだ。


「これは銅で出来ているのか?」


「その通りです。基本は最初に言った通り冷蔵庫での解凍ですが、銅の器を使う事により早く解凍することができます」


「なるほど、そのような事まで研究しているとは恐れ入った。ベルナールよ。どういう食材をいつどれだけ出し入れしたかの記録を残すように、そうすれば中に何が入っているかなどの情報も分かる上に扉を開ける回数も減り、記録をエドワード様に渡す事により、改良された物を作り出すときの参考になる可能性もあるだろう」


「畏まりました!」


 冷蔵庫と冷凍庫を納品しに来ただけのはずなのだが、話が大きくなっているような。

 

「えっと、購入したのだから、そこまで無理しなくてもよいですよ?」


「これは最初に購入した者としての使命だ! 少しでもエドワード様の研究に繋がるのなら喜んでお手伝いしましょう!」


 ダメだ……なぜか分からないが、変なスイッチを押してしまったみたいだ。どうしようと視線を移動させるとロゼ嬢と目が合った。


 ロゼ嬢は困り顔で首を横に振っている。ああなったら止められないと、いうことなんだろうなと思っていると。


「こらレーゲン、興奮するな。気持ち悪い。まだジュリアや娘たちのドレスの納品も残っているんだ、さっさと次に行くわよ。お前がここに残っていては、料理人たちの仕事の邪魔だ」


「はっ!? コホン。これは失礼、では部屋へ戻りましょう。ベルナールよ。夕食は任せたぞ」


「畏まりました」


 おばあ様の喝で元に戻るなんて、おばあ様は勇者だ。カッコいいです! ヴァッセル公爵家の人たちも、凄く驚いてますよ!


 部屋へ戻るため廊下を歩いていると、ロゼ嬢が僕の隣まで小走りでやってきて、小声で話す。


「クロエ様って凄いんですね! あの状態のお父様を止められる人は初めて見ました」


「やっぱりそうなんですね」


「クロエ様の本は何回も読みました。現実離れしすぎて誇張しているのではないかと思っていたのですが、お父様を声一つで止めるお姿を見て本当の事だったと確信いたしましたわ!」


 うーん、レーゲンさんの扱いって、物語の魔物と同じなのか?


「僕も最初は多少誇張していると思ってましたよ」


「まぁ、そうなんですか!?」


「ところが、近くで目撃していた人たちの話を聞いてビックリしたのですが、誇張どころか少し抑え気味に書いてあるという事が分かったのです」


「本当ですか!?」


「ええ、おじい様の傍にいた、ジェンカー伯爵の話なので間違いないです!」


「ジェンカー伯爵といえばアルバン様にいつも巻き込まれていた苦労人のジェンカーですか!?」


「そうです! 本では苦労人ぽい書き方でしたがあれは絶対におじい様と同類でしたよ」


「そうなんですね! (わたくし)もお会いしてみたいです」


「レーゲンさんに頼んだら会わせてくれるのでは?」


「実は以前、クロエ様やアルバン様に会わせて欲しいとお願いしたのですが、くだらない事で会いたいと言うなと怒られてしまったことがありまして。今回クロエ様にお会いできて光栄ですわ」


「なるほど……でしたら、アウルムのお義姉さんのシンディさんに聞いてみるのはどうですか? 僕もジョセフィーナから色々話を聞きましたし、シンディさんもきっと色々知っていると思いますよ。ここに滞在している間ならジョセフィーナから聞いても大丈夫ですけど、おばあ様に聞こえないところで聞いてくださいね?」


「それはどうしてですか?」


「ここだけの話、おばあ様はあの本の出版は認めてないらしいのですよ」


「まぁ! それが一番ビックリするお話ですね」


 ロゼ嬢と楽しく会話しながら、元の部屋へ戻るのだった。

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