第192話 白い……アレッ?
ヴァイスに指示されて向かった先には廃村があり、そこは白トリュフの群生地だった。白トリュフって、土の中に生えてたような気もするけど、まあいいか。
「かなり昔に朽ちた村みたいだね、あれだけの毒キノコに囲まれていれば、出て行って当然か……今度は白い毒キノコが大量にあるわね」
「おばあ様、この匂いを嗅いでみてください」
そう言って、5センチぐらいの大きさの白トリュフをおばあ様に渡す。
「――! 何だいこのいい匂いは!? 昼に食べたものより、香りが強いわ!」
「凄く良い匂いですよね! 匂いの強さが黒とは比べ物にはならないぐらいだ。取りあえず採取しましょう!」
そういって白トリュフを取っていくのだが、20センチサイズの大きな物まで見つけることが出来た。
「エディよ! この土の中から強烈な匂いがするぞ」
「ここからなの? じゃあ掘ってみるね」
蔓を操作して土を掘っていくと白トリュフが顔を出す。
「こんなビックリするぐらいの大きさまであるのかい? それにしても匂いがたまらないね」
『掘り出すと、匂いがさらに強烈になったな!』
掘り出したのは、50センチぐらいの大きな白トリュフ。重さは4キロぐらいありそうな感じだ。
「ヴァイスのお手柄だね!」
『おそらく、先ほどの毒キノコゾーンを抜けねば、たどり着けないのだろうな』
「なるほどね。毒キノコに守られていたからたくさんあったんだね」
「これは早く食べてみたいわ!」
『我も今すぐ食べたいぞ!』
「しょうがないな」
空間収納庫に何かないかなと探してみると、ちょうど良さそうなのを見つけた。
「いいのがあったよ!」
取り出したのは、オークキングのベーコン。これを肉厚にカットして軽く火で炙る。その上にスライスした白トリュフを乗せて完成だ。
「はい、どうぞ」
2人と1匹が同時に食べる。
『「「――!」」』
『こっ、これは美味いっ! 口の中いっぱいに香りが広がり、オークキングのベーコンがさらに美味しくなったぞ!』
どこのグルメリポーターだ?
「あっさり、黒トリュフを超えてきたわね!」
それにしても本当に美味しいな……みんな抜け駆けしてごめんなさい。
白トリュフも確保し、帰ろうとしたその時、崖の斜面に何か光った物を見つけた。
「おばあ様、少し待って下さい、崖の斜面に何か見えたので、確認してきます」
殆ど垂直に近い崖を糸を使って降りて行くと、木の根が斜面からたくさん飛び出し、そこに落ち葉が降り積もり溜まっていた。
落ち葉をかき分けると、そこにあったのはトリュフのようだが、明らかに色がおかしい。
赤いトリュフに、ピンクのトリュフ、そして、光って見えたのはおそらくこの虹色のトリュフだろう。
どう見ても、毒キノコにしか見えないな……。
毒なら毒で変わった特性を持っているかもしれないので、取りあえず採ってみる。
まずは赤いトリュフ……あれっ? 採ったのに毒判定にならない。空間収納庫に格納し、次にピンクのトリュフに手を付けるが、これもセーフ、毒ではないらしい。
最後に虹色のトリュフを採るが、やはり毒ではない。その代わり、匂いもしないんだよな。
後で調べることにして、生えているのを全て採ると、崖の上へ戻った。
「エドワード、何か見つかったのかい?」
「はい、これを見てもらえますか?」
不思議な3つのトリュフを見せる。
「これは毒キノコじゃないのかい?」
「違うみたいなんですよね、匂いもしないので、美味しくないのかもしれませんが、毒ではないです」
「さすがに、虹色のキノコは食欲が湧かないね」
「ですよねー」
ところが、ヴァイスの口から涎がダラダラと垂れていた。
「ヴァイスどうしたの!? 涎が凄いことになってるんだけど!」
『エディには、この美味しそうな匂いが分からないのか?』
「匂い?」
もう一度匂いを嗅いでみるが、やはり何も分からないな。
「特に匂いもしないんだけど?」
『取りあえず仕舞ってくれ! 涎が止まらん!』
どういう事なんだろう。ヴァイスだけに分かる匂いって、そんなことあるのだろうか?
「何があったんだい?」
おばあ様に説明してなかった。
「ヴァイスが言うには、涎が止まらないぐらい凄く美味しそうな匂いがするらしいです」
「私たちには分からない匂いってわけかい、おもしろいわね。でも、ヴァイスが美味しいと言って外したことはないんだろ?」
「そうですね。ヴァイスの嗅覚で、間違ったことはないです」
「数も少ないみたいだし、ローダウェイクへ戻ってからにしようか? 少し調べたい資料があるんでね」
「分かりました。どんな資料か気になりますね」
「そうだね……エドワードにも手伝ってもらおうかしら。名前の分からない冒険者の日記なんだけど、食についての情報が凄いんだよ」
「そんな日記があるんですか!? 凄く楽しみです」
「それでは、そろそろ戻りましょう。客が長時間散歩ってわけにもいかないからね」
「分かりました」
◆
デーキンソン侯爵家の屋敷に戻ると、女性陣は談笑していた。
「あら、エディ君。何かおもしろいものでも見つかった?」
「カトリーヌさん、よくわかりましたね。山でこれを見つけましたよ」
そう言って白トリュフを見せる。
「何この白い……キノコ?」
匂いに気がついたカトリーヌさんは、手に取って匂いを嗅ぐ。
「昼に食べた黒トリュフよりも、濃厚で芳醇な香りがするわ!」
カトリーヌさんの言葉で、みんなが集まって来て、代わるがわる匂いを嗅いでいる。
「とても良い香りだけど、初めてみるキノコですね」
侯爵夫人のカサンドラさんでも、白トリュフは見たことがないようだ。
そこへ侯爵のブルズさんと、嫡男のシュタルさんが帰って来たと思ったら、もう1人連れてきているのだが、丸い鼻に口ひげ、どこかの元配管工だろうか?
口ひげの人は白トリュフに気がつくと、走ってきた!
「これは昔、爺様から聞いたことがある、白キノコでねぇか!」
白トリュフを持って興奮する口ひげのおじさん。さっき山で見つけた、赤色の毒キノコを持ってジャンプして欲しいところだ。
「この白いキノコはどうしたんだい?」
ブルズさんが尋ねると、みんな僕の方を見た。
「さっき山をおばあ様と散策していたら見つけました」
「なるほど、マリウォはこのキノコを知っているのかな?」
なんて惜しい名前なんだ! デーキンソン侯爵権限で変えさせてもらえないだろうか……。それがダメなら、せめて赤い帽子をプレゼントしたい。
「へぇ、黒キノコよりさらに美味しい、白キノコがあるという話を子供の頃爺様から聞いたことがあるだ。まさか本当にあっだとは……」
「ほう、そんなキノコがあるのだな。エドワード様その白いヤツはどこで……」
「侯爵様! 聞いてはダメですだ!」
突然マリウォさんが叫んで、侯爵を止める。
「マリウォ、どうしたのだ?」
「爺様の話では、その白キノコには絶対関わってはダメだと言う話ですだ」
「そんな話があるのか?」
「へぇ、爺様が子供の頃の話らしいのですが、白キノコをめぐって村同士で争いが起き、爺様の村はその争いで負けて、この地まで逃げてきたという話ですだ」
白トリュフをめぐって戦争って、まあ、かつてスパイスをめぐって戦争が起きたぐらいだから、あっても不思議ではないのだろうか?
「それでブルズ。そいつは誰なんだい?」
「クロエ様、申し訳ございません。エドワード様が購入した黒トリュフを採ってきた本人です。うちで働いてもらう事にしました」
「なるほどね、行動が早いね! そういうやつは嫌いじゃないよ」
「ありがとうございます」
「そういうことか。マリウォのお爺さんは外の村から来たから、キノコに対する知識が他の人たちと違うんだね?」
「んだ、この知識のせいで、ずっとバカにされてたけど。まさか、侯爵様に雇っていただけるとは、爺様に感謝だ」
「それは良かったね! この白トリュフは山の斜面を登った先にある、毒キノコエリアを抜けた所にありましたよ」
「あ――! なして言うだ!?」
「これからは、デーキンソン侯爵が買い取ってくれるんだから、知っておいた方がいいかなと思って」
「……確かに侯爵様が販売してくれるなら、なんの問題もねぇな!」
「こら、その方はまだお若いが侯爵様だぞ」
シュタルさんが注意している。
「――! 申し訳ございませんですだ!」
「少しだけ気を付けてくれれば問題ないですよ。それより、山の方は毒キノコしかなかったけど、いつもあんな感じなの?」
「崖のある山側さ、食べられるキノコは殆どねぇです」
「やっぱりそうなんだ」
デーキンソン侯爵領に住む人たちは、魔物の脅威が少ない代わりに、食糧が少ない問題を抱えているようだ。
白トリュフは侯爵家の料理長と相談して、大麦のリゾットなどにかけて食べたが、昼に食べた黒トリュフをあっさり凌駕する美味しさに、みんな驚いていた。
デーキンソン侯爵は、すっかりトリュフにハマったらしく、白トリュフも部隊を出して探しに行くと意気込んでいたので、デーキンソン侯爵領の食糧事情も少しずつ変化していくのではないだろうか。




