第191話 毒マイスター?
ポルチーニのクリームパスタは大好評で、デーキンソン侯爵家でも今後作りたいという話になったため、レシピを書いてあげると凄く感謝された。
しかし、侯爵領では手に入らない物があるということで、パスタや泡だて器などを買いに、ヴァルハーレン領まで兵士を派遣していた。
デーキンソン侯爵は、今後パスタをどうやって定期的にヴァルハーレン領まで買いに行かせるか悩んでいたみたいなので、情報を提供する。
「おそらく、春ぐらいから王都にもモイライ商会ができますので、今後はそこで買うことができると思いますよ」
「王都なら近くて助かる、ところでエドワード様、黒いキノコについてなのだが……」
「そういえば、名前ってないんですかね? 美味しいのに、名前が無いと言うのも可哀想ですよね」
「確かにそうなんだが、領内では今まで魔物の排泄物ということになっていたのだ、もしよかったら、命名してもらえないだろうか?」
領内でその認識だったとは……でも領内で魔物、殆ど出ないんじゃなかったのかな?
「僕がですか? それでは『黒トリュフ』でどうでしょうか?」
「『黒トリュフ』? ちなみに何か意味でも?」
「フードの中のウルスがそう呼んだのでそうしました」
「ぬいぐる……、いやゴーレムでしたな。もしかしたら、太古の昔はそう呼んでいたのかもしれませんな」
「その可能性もありますね」
なるほど太古の昔か……咄嗟にウルスのせいにしたんだけど、今度からはこの手で行こう。いつかボロが出そうだし。
「では、パスタで使用したキノコに名前はあるのかな?」
「……ポルチーニ茸でお願いします」
「なるほど、やはりあれ程の美味しさだけに、ネームドキノコという訳ですな」
……ネームドキノコってなんだ? 名前持ちのキノコだからネームドキノコ……初めて聞く言葉だ。
「それでは、先ほどの料理名は黒トリュフポルチーニ茸パスタと言う事なんでしょうか?」
料理長らしき人が質問してきた。料理名を知りたかったのか。
「先程のパスタは、クリームパスタと言う名前になりますので、『ポルチーニのクリームパスタ・黒トリュフがけ』でしょうか?」
『おおー!』
なぜか、料理人たちから歓声があがったのだった。
◆
昼食も終わり、リビングで談笑していると侯爵が質問してくる。
「エドワード様。我々のように、キノコを昔から食べてきた者たちなら、黒トリュフは直ぐに広がると思う。しかし、他領でも広げる良い案はないだろうか? あれ程の美味しさなら、他領でも十分通用するはずなのだが、それでもキノコを食することに抵抗のある人が多いのも事実だ」
「そうですね……いきなり変えようとすることは無理ですが、例えば、食べられるキノコを纏めたキノコの図鑑を作るのはどうですか? 黒トリュフなどは、うちのレストランに卸していただければ、料理として振る舞うことができますので、少しずつ知名度を上げていくことは可能ですね」
「なるほど、図鑑にレストランか……」
「おそらくですが、たくさんあるキノコの中でも、食べられるキノコというのは多くないと思います。情報を発信することによって、食べる人が出てくると思います。キノコなら、デーキンソン侯爵領産を買うのが一番安心という状況に持っていければ、良いですね。それと同時に、毒についての情報もあるのなら、それは一般向けの図鑑には載せず、侯爵家の情報にして纏めておくのが良いかと」
「毒の情報まで纏めるのは、どうしてだい?」
「キノコの専門家になってもらうためですね。おそらく、毒といっても様々な症状があると思いますので、専門家としては知っていたほうがいいかと。それと、ちょっとした外見の違いで、食べられない物があるはずなので、見分けが付けにくいキノコは一般向けの図鑑からは外した方が良いと思います。後から難癖付けてくる人物というのは必ず現れますので」
「そこまで考えているとは恐れ入った。まずは安全なものをモイライ商会に卸して、レストランで広めつつ、纏める作業にかかる事としようか」
「それが良いと思います。この黒トリュフを売っていた人がポルチーニ茸も売っていたので、お抱えにした方が良いかもしれませんね」
「そうか、直ぐに案を纏めることにしよう」
侯爵は嫡男のシュタルさんを連れてどこかに行ってしまった。
「おばあ様、体を動かしに散策してきても良いでしょうか?」
「そうね、あたしが護衛としてついて行こう」
おばあ様と2人で山を散策することにした。
◆
町の外に出て、林の方ではなく、斜面のある山の方へ向かう。
「てっきり、キノコを探しに林の方へ向かうと思っていたよ」
「林の方は町の人たちの採取場だと思うので、斜面の方を見てみたかったのです。ヴァイス、いい匂いがしたら教えてね」
『我に任せろ!』
しばらく歩くと白いキノコを発見する。
「あっ、キノコ見っけ!」
『それは不味そうな臭いだな』
「そうなんだ」
手に取ってみると。
『素材、エッグテングダケを確認。解析しますか?』
画面を見てみると。
【毒素材】植物、エッグテングダケ
解析しますか? ・はい ・いいえ
やはり毒キノコも毒素材なんだなと思いながら〈はい〉を押す。
アナウンスがなかったので、登録完了したのかを確認してみる。
【能力】糸(Lv7)
【登録】麻、綿▼、毛▼、絹、パスタ
【金属】純金属▼、合金▼、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、カタストロフィプシケ、蔓、ファンタジー▼
【付与】毒▼、魔法▼
【素材】カタログ
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【裁縫】手縫い▼、ミシン縫い▼
【登録製品】カタログ
【作成可能色】CMYK
【解析中】無
無事登録出来たようなので確認すると。
【毒】下痢、腹痛、麻痺、出血毒、痙攣、不整脈、頻脈、持続勃起症、内臓細胞破壊、酸毒、カプサイシン
なるほど、下痢に腹痛か……そこまで重くないのか? と思ったら内臓細胞破壊ってなんだ!? かなりデンジャラスなキノコだったようだ。
通常、毒の効能は分けられないから、この3つが一度に襲い掛かってくると考えると、これを食べて死んだら無残な死に方を晒す事になりそうだな。
「キノコも糸の素材になるのかい?」
キノコが消えたのでおばあ様が聞いてきた。
「糸の素材というか、毒の素材として登録できるようです」
「毒の素材ねぇ、どんな毒か分かるのかい?」
「はい、下痢に腹痛、内臓細胞破壊と出てます」
「なんだい、その内臓細胞破壊ってのは?」
「おそらく内臓を破壊して、動かなくできるのではないでしょうか?」
「随分物騒なキノコだね! これだからキノコは危険なんだよ。しかし、あの美味しさを知ってしまうと……難しい選択だわ」
「安全と呼ばれ、売られているキノコだけを食べればよいのですよ」
「それもそうだね。でも、エドワードが持ってみれば、毒があるかないかは分かるという事だよね?」
「そう言えばそうですね。美味しいかはともかく、毒の有無ぐらいは能力で判別できそうです」
「一度領内で採れるキノコも調べた方がよさそうだね」
「そうしましょう、とても楽しみです」
しばらく探すが、見つかるのは毒キノコばかりで、食べられるキノコは一切見当たらなかった。
「おばあ様……デーキンソン侯爵領の人たちは苦労しているのですね……」
「そうだね、あたしもここまで酷いとは思わなかったよ。魔物も全く出ないし、食糧調達が大変なのも分かるわ」
「魔物が全くいないのも変ですよね? ローダウェイクのプレジール湖と同じで、魔素が少ないのかな?」
『魔素がどうのこうのというよりは、毒キノコのせいだろう。これだけ害のあるキノコが多いと魔物も寄り付かないということだ、我でも歩くのは嫌だぞ』
「そうだったんだね。おばあ様、魔物がいないのはこの毒キノコのせいらしいです」
「そうかい、食べられるキノコをなんとか広めてやりたいが、エドワード頼みになっちゃうからね……」
毒キノコを片っ端から登録していたので、後回しにしていた毒の特性確認をしてみる。
【毒】下痢、腹痛、頭痛、嘔吐、発熱、錯乱、睡眠、幻覚、麻痺、脱毛、出血毒、痙攣、不整脈、頻脈、持続勃起症、内臓細胞破壊、酸毒、カプサイシン
「……」
ヤバい、完全に毒マイスターじゃん! 僕はいったいどこへ向かって走ってるんだ、暗殺者街道まっしぐら!
『エディよ、向こうの方から強い匂いがするのだ!』
「本当に!?」
ヴァイスが足指す方向の斜面を駆け上がると、ついに食べられるキノコを発見したのだった。




