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第188話 馬車の極意※

 朝になり王都を出発するのだが、昨日のように寝坊することはなく、みんなで朝食を食べている。


「スライムベッドを知ってしまうと、普通のベッドじゃ身体が痛いわ」


 母様、まだ1回しかスライムベッドを使ってないですよ?


「そうね、あのずっとお風呂に浸かっているかのような温かさを1度体験すると、普通のベッドでは寒く感じるわね」


 みんな頷いて、母様とおばあ様の意見に賛同する。


 しかし、考えてみると、移動が速すぎるからもう野営しなくても良いような気がしてきたぞ。


「おばあ様、おそらく、もう帰りまで野営をすることはありませんよね?」


「ん? ……そういえばそうね」


「デーキンソン侯爵領のグロッタの町では、どこに泊まるのでしょうか?」


「さすがにモイライ商会として来ているとはいえ、同じ派閥の領を、挨拶も無しに通り抜けるわけにもいかないわ。それに、ジョセフィーナは姉の結婚式にも出られなかったから、話もしたいだろう?」


「クロエ様、私の事ならお気になさらず」


「フィーナは遠慮しなくていいのよ、今回はモイライ商会で来てるのだから。それに、デーキンソン侯爵夫人とは、王都で宰相夫人のお茶会へ参加した時にも会っていますから、今夜はデーキンソン侯爵家へ泊まることになると思うわ。あなたが旅立つのを止めるため、ジェンカー伯爵に説得してもらおうと、ハリーが連れて行った時、フィーナを返せとハリーに言ってきたぐらい、妹思いのお姉さんなんだから。大切にしなさい」


「――! シンディ姉さんがそんな失礼なことを!? 申し訳ございませんでした!」


「その件はあたしも覚えてるよ。本当はジョセフィーナを実家へ帰しに連れて行ったんだよ。マイルズのせいで計画が潰れてしまったけどね」


「そうだったのですか!?」


「あの時はソフィアまで倒れてしまって、これ以上ヴァルハーレン家に置いておくとジョセフィーナがダメになってしまいそうだったから、実家に帰した方がいいって話になったのよ。それをバカマイルズが娘を旅に耐えられるように鍛えなおすとか、訳の分からないことを言い出すから」


「ジョセフィーナ、僕のせいでごめんね」


「いえ、エドワード様をお守りできなかった私が悪いのですが……そうなると、今私がエドワード様のお傍にいられるのは、父のおかげという事なんですね?」


「そういうことね」


「そうなってくると、父にはもっと感謝しておかなければなりませんね」


「何かモイライ商会の商品でもプレゼントしてあげたらどうだい? ジェンカー伯爵なら、発売してない商品でも父様も反対しないと思うよ」


「――! エドワード様、ありがとうございます。その時はお願いいたします」


「遠慮しなくていいからね」


 ◆


 朝食を食べ終わり、みんなの準備ができたところで出発する。


 ヘルメスの糸を張らなくてよくなったので、風景が流れて行くのをゆっくり楽しむ……当然そんなゆっくりとしたスピードではないので、魔物が馬車の前に出てこないように警戒していると、徐々に馬車のスピードが落ちてきた。


「おばあ様?」


「糸を張る必要もなくなったから、エドワードに馬車の動かし方を教えると言ったのを思い出してね」


「本当ですか!? 実は旅の前に教えてくれると言ってたので、期待していたのです!」


「本当かい? だったらいいんだけど。あたしがエドワードに教えられることは少ないからね」


「そんなことありませんよ。おばあ様のおかげで、大きなお風呂に入れたり、美味しいものを食べられたりしてますから」


「それは、あたしがいなくてもエドワードなら作ってたと思うけどね」


「要するに同じことをしていたとしたら、僕の容姿は母様似ですが性格はおばあ様似ということになりませんか? だからおばあ様が興味のあるものは僕も興味があるという事ですよ! できればおばあ様と()()()()()馬車を動かせるようになりたいですね」


「――! そうかい、性格はあたし似か……よし、それならあたし流の馬車の操作方法を教えてあげるよ!」


「ありがとうございます!」


 ◆


 馬車の操作方法を練習しながら走ること1時間。


「これは驚いたね。本当にあたしと同じことが出来るとは思わなかったよ……」


「だから、おばあ様似って言ったじゃないですか?」


「確かに言ったが……なるほど、エドワードは使える属性が増えたんだね?」


「分かるのですか?」


「そりゃあたしと同じことができる属性は【空】以外有り得ないからね……」


 やはり【重力】は【空】に属する魔法のようだ。重力という言葉を使わなくて正解だったな。


「なるほど【空】の魔術は、物を軽くしたりできるのですね?」


「なんだい、気づいていたのかい?」


「おばあ様が馬車を軽くしていることに気がついたので、重いハルバードも軽くしているのではないかと考えたのです」


「どうして直ぐに、あたしに聞かなかったのだい?」


「えっ!? そう言えばそうですね。多分、人には言えない能力を授かってから、ずっと自分で考えてきたからでしょうか? 自分で考えるのが癖になってしまっているのでしょうね」


「なるほどね……でもちょうどいいわ。エドワード、【空】の属性を使えることはできるだけ内緒にするんだよ」


「そうなんですか?」


「【空】の属性を使える人間は、今のところあたしとエドワードだけだからね。エドワードはただでさえ世界でただ一人【糸】の能力も持っているのだから、公表するのはそれだけにしておきなさい」


「ちょっと待って下さい。父様も持っているのではないのですか? 攻撃がおじい様とおばあ様を足したような攻撃に見えるのですが」


「気づいてたのね、ハリーのは血のなせる業なのか、授かってはいないが攻撃の時は無意識に使っているだけよ。物を軽くしたりは出来ないからね」


「そうだったんですか……実はヴァルハーレン家特有の能力は、【空】だとは考えていなかったのです」


「そうなのかい? だったら【空】はなんだと考えていたのかしら?」


「空間収納庫を覚えたから出てきた属性だと考えていたのです」


「なるほど、確かに空間収納庫は【空】に入りそうだね」


「はい。このことから、空間に関係する魔法が使えるのではないかと考えました」


「……ちなみにどんな事ができると思ったんだい?」


「そうですね、瞬間的に遠くに移動出来たりしたらいいなとは思いましたが……」


「――! エドワードは賢すぎるね……その話はもしできるようになっても、誰にもしてはいけないよ。もちろんあたしにもね」


「えっ? おばあ様にもってことは、家族もダメということなんですか?」


「そうよ、そうね……その理由はエドワードがもう少し大きくなったらしてあげよう。今はまだ変な先入観を持ってほしくないから、話せないわ」


「分かりました。そういうことなら、おばあ様の言う通りにします」


「エドワードは本当に素直で良い子に育ったね……マルグリットには感謝しかないが、もしマルグリットに会わせるため親子を離ればなれにしたのだったら、エドワードの加護の神は好きにはなれないね」


「メグ姉と巡り会わせるために、攫わせたというのですか?」


「ちょっと無理があるかしら? ただエドワードを見ていると、攫われた件だけがどうしても腑に落ちないのよ……」


 おばあ様はそう呟くと黙ってしまった。


 確かに僕からすると、攫われたお陰でメグ姉やカトリーヌさんたちと出逢う事ができたが、おばあ様たちからすれば、攫われたせいで色々なものを失っているからな。


 ただ、攫われたのはおそらく加護とは関係ないと僕は考えている。


 おばあ様と会話している間に、馬車はデーキンソン侯爵領のグロッタの町へ到着するのだった。



 ――――――――――

 第188話からの補足地図です。

挿絵(By みてみん)

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