第19話 蜘蛛の糸
気絶から目を覚ましたのだが、何かに押さえつけられているようで瞼を開けることができず、何も見えない。
パニックになりそうなところを、無理やり落ち着かせて、1つずつ確認することにした。
手足を確認すると、縛られているようなので、全く動かすことができないようだ。
口も縛られているのか、締め付けられていて開けることはできないが、息はできるな。
どうしよう。盗賊に捕まったとしたら、声をだすのは危ないかもしれない。
何か見えないと状況が全く分からないので、目を開け閉めして目隠しがずれるよう頑張ってみる。
しばらく頑張っていると、目を覆っていたものが少しずれて、辺りを確認出来て状況が分かった……。
どうやら全身を糸で縛られ、覆われているようだ。
他にもグルグル巻きの物体がいくつか転がっている。僕みたいに捕まったのだろうか? 中には糸が真っ赤に染まっているものもあり、もう既に死んでいるのかもしれない。
現在いる所は洞窟のような場所で、見える範囲は岩だらけだ。芋虫のように体をよじって上の方を見ると、犯人が見えた。
体長2メートルぐらいの大きな蜘蛛が、洞窟の天井に張り付いていたのだ。
これはまずい……状況的にエサとして捕まったか、卵を産み付けるために捕まったのだろう。あれは確かジャイアントスパイダーだったかな? 今の僕のレベルでは絶対に勝てない。そもそも指一本動かすこともできないってかなりヤバい状況だ。
ジャイアントスパイダーが、もぞもぞと動いている糸で包まった物体を引き上げると、口の牙を物体に突き刺す。
「ギャァー!」
糸で包まった物体の正体は男性のようだ。男性を包んでいる糸が次第に真っ赤に染まって、男性は動かなくなった。動かなくなった男性をジャイアントスパイダーが食べていく。
あまりにもの気持ち悪い光景に吐きそうになるのを必死で我慢する。しかしその光景を僕の他にも見ていた人がいたらしく、その人が恐怖に耐えきれず叫んだ。
「た、助けてくれー!」
ジャイアントスパイダーは天井から降りてきて、叫んだ人を鋭い足で突き刺すと胴体がバラバラに弾け飛ぶ。
弾け飛び肉片となった人に今度はカサカサと何かが群がる。体長30センチぐらいの子蜘蛛だ。人の肉片に群がる子蜘蛛を見て我慢の限界を迎えた僕は胃の中のものをすべて戻してしまう。
無機質なジャイアントスパイダーの赤い8つの目がこちらを向いたような気がした。そうだ、蜘蛛は目が悪くて動くものに反応していると聞いたことがある。
マズイ、こちらに向かってくる。どうする? 何が出来る? そうだ! ロープで!
「ロープよ、蜘蛛の脚を縛れ!」
ジャイアントスパイダーの脚にロープが絡まり縛る。やったと思ったのも束の間、ブチブチと音を立ててロープが千切られてしまう。
逃げないとまずいのだが、蜘蛛の糸の締め付けが強すぎて、全く身動きが取れない。こんな強い糸が欲しいと思った瞬間。
『ジャイアントスパイダーの糸を確認。解析しますか?』
頭の中に直接響き渡り、目の前に透明な画面が現れた。
【糸】ジャイアントスパイダーの糸
解析しますか? ・はい ・いいえ
焦りながらも<はい>と念じる。
【能力】糸(Lv2)
【登録】麻、綿、毛、絹、ジャイアントスパイダー
【形状】糸、縄、ロープ、布(平織り、綾織り、繻子織り)
【作成可能色】黒、紫、藍、青、赤、桃、橙、茶、黄、緑
【解析中】無
画面がでる。確認する余裕はないが、僕を縛っていた糸が全てなくなったので、登録に成功したことだけは分かる。
迫りくるジャイアントスパイダーの足をギリギリで躱すことに成功した。
「クッ!」
いや、完全にはかわし切れなかったようで、脚から血が流れる。
今度はジャイアントスパイダーの足の斬撃を構えた剣で受ける。しかし強い攻撃に踏ん張りがきかず、僕は飛ばされ壁に激突した。
「ガハッ」
肺の中の空気が全て吐き出され呼吸困難となったところに、足の攻撃が頬をかすめ血が流れる。運がよかった、偶々ふらついたおかげで攻撃が逸れたのだ。
なんとかしなければ……長期戦は僕に圧倒的不利だ。どうする……。
攻撃をギリギリで避けながら勝機を模索する。そうだ!
「クモの糸よ敵の脚を縛れ!」
ジャイアントスパイダーの糸で捕縛を試みると、ロープの時とは違い見事に絡まりジャイアントスパイダーは動けなくなった。
しかし完全に動けなくなったわけではなく、糸を引きちぎろうともがいている。
このチャンスを生かすしかないと、ありったけの魔力を剣に込めて、ジャイアントスパイダーを切りつけた。
「行け――ッ!」
轟音と共にジャイアントスパイダーは、一瞬で真っ二つになった。
しかし斬撃はそれだけでは止まらない。洞窟の壁に激突し、岩は粉々になって飛び散り、穴が開いた壁から、光が差し込む。
「よし、やっつけた!」
安心したのも束の間、たくさんの子蜘蛛が僕の方に集まってくるが、魔力を使い果たしたため意識が朦朧としてきた。
ここまでか……と諦めかけたその時。
「よくも私のエディを傷物にしてくれたわね!」
さっき斬撃で開けた穴からメグ姉の声が聞えたのだ。
「へぇ、親蜘蛛はエディが殺したのね凄いわ。後はお姉ちゃんにまかせなさい!」
そう言ったメグ姉が手をかざすと、辺りの温度が急激に下がり、子蜘蛛たちは一斉に凍り付き、花のような氷の結晶が咲いていく。
なるほどこれが氷華ってことか……。
メグ姉を怒らせると『怖い』から『ヤバい』に変更したところで僕は気を失ったのだった。