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第186話 ヴァッセル公爵領に向けて

 屋台については、冬は厳しいので、春になってからだろうという話だった。


 ヴァルハーレン領の冬が、どのくらい大変なのか分からない。冬の間仕事が出来ないというのは、生活していく上で大変なのではないだろうかと思っていたのだが、この辺りでは秋までにしっかり貯えて、冬の間は仕事をしないのが普通らしい。


 もちろん、貯えが足りない冒険者たちなどには、除雪作業等の仕事も用意されているとのことだ。



 これからの予定だが、メイド服の納品にヴァッセル公爵領へ行かなければならない。ついでに、冷蔵庫と冷凍庫の注文も入っているそうなので、一緒に届けることとなっている。


 商品はもう完成しているので、今すぐにも出発したい。しかし、通信機の運用などで父様やおじい様の仕事が増えてしまったため、なかなか出発できない状況を見かねた、おばあ様が案を出した。


「騎士の護衛をつけないで、モイライ商会として行けばいいんじゃないのかい?」


「母様、エドワードはもう侯爵なんですよ。護衛も付けないで行くというのは危険です」


「馬車1台で駆け抜けた方が、早く帰ってこれると思うわ、このまま、ハリーたちが終わるのを待っていると、冬になっちゃうじゃない」


「それでも、エドワードにしっかりとした護衛をつけないのは有り得ないですね」


「だからあたしがやってあげるよ、エドワードの護衛」


 ――えっ!?


「みんなそんなにビックリすることかい?」


 おじい様に聞いた話では、おばあ様はトゥールスの戦いの時、別の任務でヴァルハーレン領を離れていて間に合わなかった事を今でも悔いているそうだ。それ以来、ヴァルハーレン領から出ることは、殆どないと聞いていたのだが……。


「いや、クロエ……その、なんだ……大丈夫なのか?」


「アルバンとハリーが残るんだ、何も心配することはないだろう?」


「そうですね。僕だけでも十分ですが、そこに父様もいるのです。ヴァルハーレン領で何か事件が起きる事はありませんね」


「だろ? だったらあたしが孫の護衛ぐらいやってやろうじゃないか。8人乗りの馬車があったじゃない? あたしがアレの御者をすれば、移動速度も速いはずよ」


「確かに母様が御者をすれば速いですが、アレは旧式ですよ?」


「安心しな、レギンに改造させてあるから」


「いつの間に?」


「まあ、馬車1台で行かなければならないケースを想定していたのよ! おもしろ半分で改造したわけじゃないわ!」


 おばあ様……本音が漏れてます。


「それでは母様、8人で行くつもりなんですか?」


「そうだね、エドワード、ソフィア、カトリーヌ、マルグリット、コレット、ジョセフィーナとあたしの7人かな。8人乗りとはいえ人数が少ないのに越したことはないからね」


「ちょっとクロエ様、待って下さい! 私の名前が入ってません!」


 声をあげたのはメリッサさんだった。必要最低限だと言った、おばあ様の言葉を聞いてなかったのだろうか?


「うーん、戦えないメリッサを連れて行っても邪魔なだけだからね。戦えない人間は必要最低限にしたい。かと言って、ソフィアの侍女をつけないわけにも行かないからね、コレットなら南方の地域にも強いし、今回メリッサはお留守番ね」


「そんなー」


「メリッサ、しょうがないわ。お義母様の言う通りにしましょう」


「畏まりました……」


「それでは、7人でヴァッセル公爵領の主都ファンティーヌへ向かう事になるのでしょうか?」


「そうだね、何か気になる事でもあるのかい?」


「そういえば、おばあ様と旅に出るのは初めてだなと思いまして」


「そうだクロエ! 儂もまだエドワードと旅をしたことないのに、ズルいぞ!」


「アルバン、悪いね! よし、エドワードには御者の技術を教えてあげよう」


「いや、エドワードに御者の技術は必要ないだろ」


「こういうのは何でも経験させることに意味があるのよ。過保護すぎると嫌われるよ?」


「えっ、マジで!? エドワード! 儂ウザいか?」


「いえ、おじい様とおばあ様、どちらも大好きですよ」


「ほら見ろクロエ! 聞いたか? エドワードは儂の事を嫌ってないぞ」


「全くこの男は、エドワードが生まれた時は、厳格なおじい様になると言ってたのに、どこが厳格なんだい?」


「うるさい! 厳しいじじいには孫は寄り付かないと聞いたのだ!」


 いったい誰情報なんだそれは。


「そしたらエドワードは、モイライ商会の会頭として今回は行くように。でもちょうどいいタイミングだから、ヘルメスの糸は王都の屋敷まで引っ張って行ってね?」


「分かりました」


 さすが父様、効率的だ。


「それでは各自用意して、明朝出発としよう」


 ◆


 そして出発の朝。


 用意された馬車は8人乗りと聞いていたが、頑張れば10人ぐらい乗れそうな大きな馬車で、2頭の馬で引くようだ。


「それじゃあ、みんな準備はいいね? 出発するよ!」


 本当におばあ様が御者をするんだなと思っていると、馬車は動き始めた。


 僕はおばあ様が御者をする隣で、ヘルメスの糸を出している。


 馬車はローダウェイクを出て、イーリス街道に入った途端、スピードを上げ始めたのだ。


「おばあ様?」


「どうした? 速いスピードは怖いかい?」


「いえ、大丈夫ですが、こんなにスピードを上げて大丈夫なんでしょうか?」


「あたしが御者をしてるんだから大丈夫に決まってるわ! まだまだスピードは上がるわよ」


「えっ!?」


 おばあ様の言った通り、どんどんスピードが上がっていき、やがて馬は全速力になる。


「……」


 おばあ様は車のハンドルを握ると性格が変わるタイプ……いや元々こういう性格だったな。

 

 これって馬は大丈夫なのだろうか?


「いやーこのマグマスライムってのはいいね! 御者で一番嫌なのは寒さなんだけど、エドワードのお陰で全然寒くないわ」


「それはよかったです」


 おばあ様が御者をするにあたって、特大サイズのマグマスライムカイロを用意したのだ、直径2メートル厚さコンマ5ミリの特別仕様。それを外套の下に着込んでいるのだ。


 おばあ様に倣って僕の分も……いや、みんなの分も用意したので外でも暖かい。猛スピードで走っているので、顔は寒いが。


 目出し帽でも作ろうかな? どうせなら、赤いクモ男と同じマスクを……いや、どちらにしても不審者丸出しだから、止めておこう。


 それにしても、この2頭の馬は全速力でこんなに重そうな馬車を引っ張って、疲れないのだろうか?


 そういえば父様は、おばあ様が御者をすれば、馬車が速くなると言っていたな。


 まさかおばあ様の能力は御者では!? というのは冗談だが、炭化タングステンを柄に使ったハルバードを軽々と振り回したり、切った魔物が粉砕される光景も考慮すると重力系の能力なんだろうと思う。


 ただ、この世界に重力やそれに似た考え方を、今のところ見聞きしたことが無い。重力の考え方の1つに『重力は物体の質量によって生じる時空の歪み』というものがある。つまり重力を考える上で時空とか空間が関係することを考えると、おばあ様の能力は【空】の可能性もあり。僕の魔法特性に存在する【空】はヴァルハーレン家の血統による能力の可能性も考えられる。



『エディ、魔物が近づいてくるぞ』


「ヴァイス、ありがとう。おばあ様、魔物が近づいてくるそうです」


「馬車は止めないから、道に魔物が出ないように頼んだよ」


「えっ!? 分かりました!」


 魔物の処理を頼まれてしまったみたいだ。


 しばらく行くと、左側の森から体長100センチぐらい、緑色の二足歩行のゴブリンが10匹ぐらい現れた。


 直径1センチ、長さ5センチの鋼の糸を2000メートル毎秒でゴブリンの群れに向けて発射する。


 パンッ!


 破裂音がしたかと思うと、ゴブリンは粉々に弾け飛ぶ。ギアラタウルスも吹っ飛ぶパワーなので、ゴブリンでは太刀打ちできない。


「ギャ?」


 突然弾け飛んだ仲間に、状況を呑み込めていないようだ。


 道に出てこないように次々発射すると、全てのゴブリンは弾け飛び、殲滅することができた。


「あんなのを遠距離から連射されちゃ、ひとたまりもないね」


 おばあ様からお褒めの言葉? を頂いたのだった。

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