第184話 ローダウェイクでのパレード(下)
レギンさんたちなら、通信機の呼び出しベルぐらいなら簡単に作れると思っていたのだか、意外と難しいようだ。
「こういった、直ぐにいい案が浮かばない時には、今できることを1つずつ片付けて行くのも手段の1つだ」
「今できる事ですか?」
「そうじゃ、取りあえず、音声に反応するのは一旦置いておいて、呼び出しの音というのはどんな物をイメージいているのだ?」
イメージとしては、アナログな目覚まし時計に付いているようなベルが一番作りやすそうとイメージしていたのだが、ベルを叩くハンマーの部分をどうやって動かすのかが難しいのかもしれない。
「そうですね、最初に考えついたのがこんな感じです」
目覚まし時計のベルをイメージして、紙に書いて見せる。
「ほう。なるほどな、ハンマーの部分が左右に振れて鐘を叩くのだな」
「そうなんですが、先ほどの話を聞いていた感じでは、ハンマーを左右に振らすのも難しいのでしょうか?」
「そうじゃな、不可能ではないが、なかなか大掛かりな仕掛けが要りそうじゃな」
「ですよねー、……そうだ! だったらこんな感じはどうでしょうか?」
レギンさんの鐘という呼び方で閃いたのだが、ハンドベルを作れば、揺らすだけで音がでるので構造としては単純になるのではないだろうか?
その事を紙に書いて説明すると。
「ふむ、揺らすだけで音が鳴るのはいいな。風を起こしたり、振動を与えたりするだけでも鳴りそうだ」
「へー、なるほど、小さな鐘を作るんですね! 私作ってみますね」
僕の絵を見たロヴンが銅を加工してベルを作った。
「金属の加工スピードが、随分速くなったみたいだね?」
「エドワード様、分かりますか? たくさん加工させてもらっているせいか、段々コツが分かって来たみたいなんです!」
「やっぱり速くなってるんだね」
そう言いながらベルを鳴らしてみると、カランカランといい音が鳴ったのだが、音に反応して寝ていたヴァイスが起きた。
『ほう、それは音が鳴るのだな、おもしろいではないか』
「そう? ヴァイスも鳴らしてみる?」
ヴァイスが鳴らしやすいように、鐘を糸で吊り下げると。ヴァイスが前脚で鐘を叩くと音が鳴る。
「音の方はこれで完成したとして、後はどうやって音を鳴らすかだな?」
「そうですね……」
『エディは何を悩んでいるのだ?』
「受話器から聞こえた音声に反応して、この鐘を鳴らすようにしたいのだけど、魔道具じゃ難しいみたいなんだよね」
『魔道具じゃなくて、エディの能力で出来るのではないのか?』
「僕の能力で?」
『うむ、エンシェントトレントの蔓。アレは簡単な命令なら記憶できたはずだろ?』
「そう言えばそうだった! 音に反応すると言うのが出来るのかは分からないけど、やってみるね!」
エンシェントトレントの蔓を出すと、受話器を置けるように纏めつつも鐘を吊り下げて、音声が鳴ったら鐘を揺らすようにイメージする。
「エディよ、それは何の糸……なんだ?」
そう言えば、レギンさんにはまだ見せてないんだっけ?
「これはエンシェントトレントが最後の力を振り絞って、僕に授けてくれた力です」
レギンさんに蔓の概要を説明すると。
「ほう、魔力を必要としない糸な……マーウォの言う通り、精霊との親和性が高いのかもしれんな。とにかくそんなに便利な物があるのだ、早速実験じゃ」
実験をしようと思ったら、またリュングが受話器を持っていた。
「さすエド!」
もう少し長く喋ろうよと思った瞬間、カランカランと鐘が鳴った!
「おお!」
『やったではないか!』
「凄い! あの短さでも鳴るんだ」
「エドワード様、おめでとうございます!」
「ん、さすエド」
「それにしても、そんな便利な蔓があったとは、魔道具と組み合わせれば、色々出来そうじゃの?」
「そうですね。罠に使えるかな? って考えていたのですが、もっと色々なことに利用出来そうですね」
思わぬところで蔓の活用法を見つけてしまったが、取りあえずは鐘と受話器台を作り父様に見せたところ、あまり通信機の存在を知っている人を増やしたくないとのことで、通信室の担当者が決まってから設置することになった。
◆
そしてパレード2日目。
特に何か事件が起きた訳ではないのだが、昨日より賑わっている様に感じた。
昨日の喧嘩していた二人は頑張っているようだ。昨日の喧嘩が嘘のように協力して動いているように見える。
そして、ウルスぬいぐるみを掲げている大勢の大人が……なぜ、大人がウルスぬいぐるみを?
よく見ると、ウルスぬいぐるみを抱きかかえている子供もいるが、圧倒的に大人の女性が多いな。
理由が分からないので、パレードが終わったらエミリアさんに聞いてみよう。
パレード終了後、エミリアさんの方からやって来た。
「エドワード様、大変です!」
「何か問題が起きたの?」
「ぬいぐるみが完売しました! 明日の分が無いので、大至急作ってもらえませんか?」
「売り切れたって、他の町で作ったときの倍を用意したのに?」
元々ローダウェイクではたくさん売れる事を期待して、毛のある中級を200個、毛の無い下級を400個用意したのだ。
「そうなんです! 予想外過ぎます。エドワード様のせいですからね!」
「僕のせいって、どういうこと?」
「昨日、女の子を颯爽と助けて、打ち首になってもおかしくない二人に寛大な措置。あれが予想以上に女性ファンを増やしたのです!」
「あれが理由なの!?」
「そうです! それで大人の女性に、ぬいぐるみが爆発的に売れまして、中級を600個お願いします」
「そんなにいるの!?」
「今日は早々に売り切れて大変だったんですからね! 明日入荷するって言っちゃったので、もし魔力が足りないようでしたら、明日の朝でも構いません」
明日の朝って、朝から魔力を使いたくないよ。
「分かったよ、それじゃあ今作るね」
僕が製作したものを、エミリアさんが収納していくが、さすがに600個は多いな。
「ふぅ、さすがに多いですね。ありがとうございました。これで明日は無事に切り抜けられそうです」
「それなら、良かったよ」
結局、ぬいぐるみを掲げていた人たちについての情報が分かっちゃったので、エミリアさんへの用事は無くなってしまった。
「それにしても、ぬいぐるみがここまで売れるとは思いませんでした。私もまだまだ勉強が足りませんね」
「生活に直結しない部分ですからね。レストランも大人気みたいだし、意外と娯楽を求めているのかもしれないですね」
「娯楽ですか?」
「ええ。生活が苦しいと、そんなものに手を出す余裕はありませんが、そういった物が売れているということは、ローダウェイクに住む人たちは多少生活に余裕があるのかもしれません」
「余裕ですか? おそらく、それもエドワード様が関わっているせいですね」
「どうして僕が!?︎」
「糸や毛皮、小麦やその他の食材などを、通常より高い価格で買い取っていますから、生産者たちは例年に比べるとかなり儲かっていると思われます。それにトゥールスやファーレンも建設ラッシュで、それに携わる人たちも好景気ですね」
「僕が作る分の材料を購入する案はエミリアだから、エミリアのおかげなんじゃない?」
「そう言えばそうでしたね、最初は疑いの目を向けられないようにするカモフラージュと、生産者の仕事が無くならないようにしていただけなんですけどね」
「まあ生活にゆとりがあるのなら、いいことなんじゃない?」
「そうですね……市民目線ではそうなりますが、貴族によっては市民に余裕ができるのは良くないと考え、生活できるギリギリまで搾り取る貴族もいますので」
「そんな貴族がいるの!?」
「ええ、生きるのに必死であれば、不平不満を言っている余裕もありません。生活にゆとりができますと、良くない事を考える人も出てくるというのが、古い貴族に多い考え方だと聞いたことがあります」
「良くないことか……そう言えば、エミリアがいたアルトゥーラの人たちはどうなの?」
「アルトゥーラですか……確かにあそこは市民に多少余裕があり公爵様はお優しいので、勘違いした市民が多く、貴族からすると悪い例かもしれませんね。住んでいる時はフレンドリーでいい領主様だと思っていましたが、こうして離れて商会の運営をしてみると、あれは優しいというよりは、甘いのだと思います」
「そうなの?」
「甘いからと舐められていたのですね。不作だと嘘を言えば、納める税が安くなるという噂を一時期聞いたことがあります」
「そんな事をしている人までいるの?」
「噂ですから真偽は分かりませんが、今考えると、実際にあった出来事なんだろうなと思います」
「そうなってくると、僕が間違っている可能性もあるんだよね?」
「今のところ問題ないのではないでしょうか? 先日の采配も見事でしたよ。貴族によっては、パレードを邪魔した罪で4人全てを殺害していた貴族もいると思います」
「そうなの!?」
「はい、その点エドワード様は結果的に馬車の前に出て来た親子は助けましたが、そのきっかけになった二人を無罪としないで罰を与えておりますので、一定の線引きは出来ていたのではないでしょうか?」
「それならいいんだけど、そういうのって難しいね」
「そうですね、でもエドワード様には見習うべき姿がハッキリと見えておりますので、徐々に覚えて行けば良いのです」
「確かに父様や母様、おじい様におばあ様など、見習う人はたくさんいるね!」
話はかなり逸れてしまったが、パレードは明日で終わりなので、後一日頑張ろうと思ったのだった。




