第181話 ファーレンの町2日目
おじい様は今日も朝早くから、魔の森に向かった。
今日も準備をしてパレードに臨むが、本当に拝んでいる人がいるのか、確認しなければならない。
僕と父様、母様を乗せた馬車が屋敷を出発するが、こんなに人がいたのかと思うぐらい賑わっていた。
エミリアさんに聞いた話では、商人やその護衛依頼を受けるために集まって来た冒険者などが多いそうで、商人ギルドや冒険者ギルドは、ここ数カ月で増えてきた人たちの対応に大忙しという話だ。
ちなみに、ファーレンにあるモイライ商会では、スライムカイロが飛ぶように売れている。ニルヴァ王国はかなり寒い地域なので、これから向かう人に大人気らしい。
結局スライムカイロは、布で作った袋に入れて使い捨てという形で販売していて、継続時間は1日、3日、7日の3タイプで、折り曲げてから開くと温かくなり始める。更に使い切ったスライムカイロは、モイライ商会に持って来ると購入金額の半額で魔力を補充できる仕組みとなっていて、特に冒険者たちに好評ということだ。当然袋を開けて仕組みを調べる者も現れるということも考慮して、袋を開封すると溶けて蒸発する仕様にしておいたので安心だろう。
歓声に応えながら馬車が進むと、やがて商店街に入る。モイライ商会の近くまで来ると、エミリアさんたちが手を振っているので応える。
そこで、ついに跪いて祈りを捧げる人の姿を発見したのだ!
歓声にかき消されて何を言っているのかは分からないが、一心不乱に祈りを捧げてるように見える。
よく見ると、その周りにも祈りを捧げてる人がポツポツ見つかり、かなりの人数がいるようだ。
僕に祈っても、商売が成功する訳ではないと思うのだが、あの人たちは、7歳の子供に祈らなければならないぐらい切実なんだろうか?
ん! エミリアさん、何をしているんだ? 祈っている1人に声をかけると、一緒にモイライ商会へと入っていったのだった。
◆
パレードは滞りなく終了し、現在エミリアさんに話を聞いている。
「エミリアの言う通りだったよ! 本当に祈る人がいるとは思わなかったよ」
「そうでしょうか? 祈りを捧げてもおかしくない功績ではないでしょうか?」
エミリアさんはお祈り派に肯定的なのね。
「ところで今日、その祈っている商人に声をかけていたけど何をしてたの?」
「もちろん、エドワード様に祈りを捧げていた、見どころのある商人に商談を持ちかけていました」
「商談?」
「ええ、今のところモイライ商会はヴァルハーレン領しかありませんから、その他の土地でパスタ等を売ってもらうために、声をかけているのです」
「えっ!? そんなことしてたの?」
「もちろんです! パスタなどを広めるには、ヴァルハーレン領だけでは足りませんからね」
「えーっと、それはいつ頃からやっているの?」
「いつ頃から? ……そうですね、あれは確かエドワード様がウェチゴーヤ商会を潰した後ぐらいですね」
結構前の話だな。
「ある日、私がローダウェイクのモイライ商会へ行くと。今と同じようにモイライ商会の店舗に祈りを捧げている旅商人がいたのです。それで、話を聞いたところ彼の父親はウェチゴーヤ商会に嫌がらせを受けた結果、心労が重なり店を畳むことになっただけではなく、心労のせいで亡くなったそうなんです」
「そんな人もいたんだ」
「その後、息子の彼は旅商人をすることになったそうなんですが、ウェチゴーヤ商会を潰したエドワード様の話を聞いて、わざわざローダウェイクまで足を運んだそうです。ただ、エドワード様の所に押しかける訳にもいかないので、モイライ商会の店舗へ向けて感謝の祈りを捧げてたとの事でした」
「感謝したくなるぐらいに、大変だったという事なのかな?」
「そうなんです。それで彼は主に南方の地域を回っているとの話だったので、それならばと思い、商材になりそうなものを卸してあげたのです。もちろん、法外な値段で売らないなどのルールはつけさせてもらいましたので、ご安心ください」
「そんな事があったんだね。でもそれと今回の話がどう繋がるの?」
「その彼ですが、リュミエール侯爵領にて店を持てるようになったという事でお礼をしに来たんですよ! その時はモイライ商会の中からエドワード様のいるローダウェイク城の方角へお祈りを捧げてまして、なんでも彼は自分の父が毎日三柱の女神に祈りを捧げていたのに悲惨な目に遭うのを間近で見て、神を信じないと心に決めたそうなんです。ところが諸悪の根源のウェチゴーヤ商会を潰しただけでなく、祈りを捧げたところ店まで持てるようになったという事で、エドワード様を信仰するようになったと言ってましたね……そう言えばそれからでしょうか? 度々お祈りを捧げる人が増えたのは……もしかして?」
「もしかしなくても、その人が原因なんでしょうね……」
原因はエミリアさんだったのか! でも、エミリアさんって何一つ悪いことはしてないんだよな……。
「おそらくエドワード様を信仰する人たちは、ウェチゴーヤ商会やブラウから被害を受けた人が多いのではないでしょうか? どうかそんな人たちから信仰を取り上げないで欲しいのです」
ジョセフィーナが断りづらいお願いをしてきた。
「そんな理由があるのなら、禁止出来ないよね……まぁ、そもそも信仰を止める権利もないんだけどね」
結局僕を信仰している人は、ウェチゴーヤ商会かブラウから被害を受けた人。もしくは、最初の彼にあやかりたいという事なんだろうな。
◆
お風呂に入って一息ついていると、おじい様たちが帰って来たようなので、出迎えに行く。
「おじい様、お帰りなさい。随分遅くまで頑張ったのですね!」
「エドワード、出迎えてくれたのか! エドワードの顔を見ただけで疲れが吹き飛ぶぞ!」
それは気のせいだと思います。
おじい様や兵士たちのために用意しておいた、コンソメスープで一息ついてもらう。
「エドワードのコンソメスープは、いつ飲んでも最高だな!」
「お腹も空いたでしょう? 今、ロブジョンが温かい料理も用意していますので、もう少しだけ待って下さいね」
「エドワードは気が利いて優しいな! 儂は最高の孫を持って幸せだ。そんな最高の孫へのおみやげにはこれだ!」
そう言っておじい様は袋を渡して来た。中には魔石が13個も入っていた。
「おじい様、もしかしてコレは!?」
「そうだ、ステルスバットの魔石だ。エドワードの予想の通り、洞窟の中に群れでいたぞ」
「おじい様凄いです!」
「父様帰られたのですね、順調に魔石を確保できたようで何よりです」
父様がやってきた。
「うーむ、孫に比べて息子の対応の何と冷たいこと」
「父様、僕が心配しても気持ち悪がるだけでしょうが?」
「確かにハリーがやっても可愛くはないな」
「エドワード、報告は明日でよいから、部屋に戻って早速試してみなさい」
父様が僕に小声で言った。人気のないところで試せという事だな。
「分かりました、それではおやすみなさい」
「「エドワード、おやすみ」」
◆
部屋に戻り、早速魔石の取り込みを試してみると、魔石を問題なく取り込むことができたので、もう一度合成を試す。
頭の中で『合成』と念じる。
『合成する構成を指示してください』
構成は前回同様、音声の伝達が可能、丈夫で切れない、糸を見えなく出来るの3点をイメージする。
『構成を確認しました、合成しますか?』
ここまでは前回同様なので問題ない。
作成しますか? ・はい ・いいえ
〈はい〉と念じる。
魔力が無くなったのを感じ、不足素材を指摘されることも今度はなかった。
『また魔力を消費したようだが、今度は成功したのか?』
「多分成功したみたいだから、確認してみるね」
【能力】糸(Lv7)
【登録】麻、綿▼、毛▼、絹、パスタ
【金属】純金属▼、合金▼、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、カタストロフィプシケ、蔓、ファンタジー▼
【付与】毒▼、魔法▼
【素材】カタログ
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【裁縫】手縫い▼、ミシン縫い▼
【登録製品】カタログ
【作成可能色】CMYK
【解析中】無
やっぱり成功したみたいだ! 確認してみよう。
【ファンタジー】アラクネー、ヘルメス、グラウプニル(使用不可)
「……」
『エディよ、どうしたのだ?』
「ヘルメスって名前の糸が追加されたみたいなんだけど……」
『ヘルメスと言えばギリシア神話の神の名前だな』
「ゼウスの伝令使ですね、情報を司る神だからですかね?」
「アラクネーもそうだったけど、ギリシア神話から名前を取ってるのかな?」
『まあ、同じ伝令使で言えばイーリスもそうなんだ、そっちだと使いにくいから、良いのではないか』
「ヴァイスの言う通り、確かにイーリス様だと使いにくいね」
『うむ、明日検証するのであろう? 今日はもう遅いから寝たらどうだ?』
「そうだね、そうするよ。おやすみ」
『ゆっくり休むがよい』
座っているだけとはいえパレードで疲れていたのか、すぐ眠りについたのだった。




