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第180話 ファーレンの町

 トゥールスの町でのパレードを終え、ファーレンの町へ移動した。


 ファーレンの町はニルヴァ王国に面する国境の町だ。

 と言っても、ニルヴァ王国は同盟国なので、争いなどは起きたことがないそうで、国境を行き来するのは基本商人や冒険者だけらしい。


 ニルヴァ王国はこの世界でも珍しい、三柱の女神を信仰していない国で、エーデルオラケルと言う名の神鳥を信仰していると母様から聞いた。


 この話を聞いたときから、エンシェントウルフみたいな存在ではないかと考えている。三柱の女神がこの世界に来る以前から定着するまでの間、エンシェントウルフも人との交流があった事を考えると、もしかしたら、エーデルオラケルのように神として崇められていた事があったのかもしれないな。


 ただ不思議なのは、三柱の女神の信仰がどのようにして広がったのかが調べても分からないのだ。この世界を三柱の女神が作ったと考えている人たちからすると、広がったという考え方はダメなんだろうけど。


 もう1つ気になる事として、三柱の女神がこの世界で人と関わった形跡がないのだ。少なくとも王国が出来てからは、神託を受けたなど三柱の女神との関わりを見つけることは出来なかった。王家が持っている禁書庫などあれば別なのだが、おじい様も禁書庫の存在を知らないみたいなので、陛下じゃないと知りえない情報があるのかもしれない。ヴァイスがそうだったように、いくら神といえども人と関わらなければ広まることはないのだ。気になることではあるが、異端扱いされてはたまらないので分かる範囲で調べていくしかないだろう。


 ファーレンの屋敷に到着すると、いつも通り、おじい様の抱擁を受け早速父様と母様含めた4人で話し合う。


「それでハリーよ、急に呼び寄せた理由はなんだ?」


「エドワードが新しく作ろうとしている糸に関係するのです」


 そう言って父様は、おじい様に通信が可能かもしれない糸の話を説明する。


「なるほど……そのような糸が作れるのだな?」


「材料さえ揃えば可能だと思います」


「その事を知っているのは?」


「父様とメグ姉だけです」


「そうか……儂を呼んだのは正解だったな、これ以上その話を広めるでないぞ」


「分かりました、やはりそれ程の事なのでしょうか?」


「様々な国や貴族たちが日々研究しているが、未だ実現に至っていない。現状で最も早いと言われているのが、空飛ぶ魔物をテイムしての空輸だ」


「それは以前聞きました。テイムした魔物が襲われたり、帰って来なかったりして安定しないのですよね」


「うむ、よく覚えておったな。テイムという状態自体珍しい現象のため、なかなか研究が進まないのだ。エドワードの作る糸では、遠くの情報が一瞬で分かるということなんだろう?」


「そうですね……原理としてはこんな感じですね」


 トゥールスの町で買ってきてもらった、銅製のコップに銅の糸を付けた糸電話を見せる。


「これは?」

「糸を使った通信道具です」

「何!? そんな物があるのか!」


「物は試しです、父様はこっちを持ってもらって、おじい様はこっちを持って糸が張るまで離れて下さい」


 二人が部屋の端まで離れると糸はピンと張られた状態になった。


「そんな感じですね、それではそのコップをおじい様は耳に充てて、父様は何かコップに話してみてください」


「父様、聞こえますか?」


 父様はコップに口をつけて小声で話しかけた。


「おおっ! ハリー聞こえるぞ!」


 興奮したおじい様は大声で叫ぶ。


「本当ですか!? では今度は僕が聞いてみますので、父様お願いします」


 今度はおじい様がコップに口を付けて小声で話す。


「分かったぞ、ハリー聞こえるか?」


「――っ! 聞こえました!」


 二人は興奮して、何度も糸電話で話している。


 うーむ、糸電話に夢中な大人……結構シュールな光景だな。


 ところで、糸電話って電気を使ってないのになぜ糸()話なんだろうか?


『ねえウルス、糸電話って電気を使ってないのにどうして糸()話って言うのか知ってる?』


『元々は糸伝話だったそうで、その後電話が入って来た時に、玩具としての売上を伸ばすために、伝から電に変えたって説があるらしいですよ』


『そんな話があるんだ』



「エドワード、これはいったいどんな魔道具なんだ?」


「いえ、魔道具ではないので、材料さえあれば誰でもできますよ」


「それは真か!? このような便利なものが誰でも手に入るとは……」


「作り方を知らないと分からないので大丈夫なのと、それの欠点は距離が遠かったり障害物が多いとダメなんです。元々糸には音を伝える力がありますので、僕の能力で強化したものが作れないかと考えたのが、今回の糸なんです」


「なるほどな、普通の糸でもこれ程聞こえるなら、エドワードの糸なら間違いなく遠くでも聞こえそうだな」


「だといいのですが」


「カタストロフィプシケの魔石を必要とする糸が、普通であるわけなかろうが?」


「ですよね。それでおじい様は、ステルスバットをご存知でしょうか?」


「うむ、知っておるぞ。但し、なかなか見つけるのが難しい魔物だぞ」


「そうなんですか?」


「まず活動時期が春から秋までだから、今見つかるかはギリギリだな。しかも、活動時間が夕方から夜にかけての少ない時間にしか現れない」


「そこまで分かってても難しいのですか?」


「そうだ、まず羽ばたく音が全くしないのだ。バット系の魔物は羽ばたく音が大きいのだが、ステルスバットに関しては無音な上、暗闇に紛れるためなかなか見つからないと言う訳だ」


「なるほど……例えばバット系だったら、日中は洞窟とかにいないのですかね?」


「洞窟か!? なるほど活動してないのをあえて狙う訳だな。そちらの方が効率的かもな」


「エドワードの言う通り、夕方から少しの時間にしか現れないのなら、日中はどこかに隠れてる可能性は高いね」


 思ったよりも、おじい様と父様に好感触の案だったようだ。


「ふむ、ではこうしよう。ちょうどファーレン近くから魔の森へ入った所に、洞窟の多いエリアがあったはずだ。明日エドワードたちがパレードをしている間に、儂が兵士を連れて探してこよう」


「よろしいのですか?」


 父様がおじい様に確認している。


「うむ、その様な糸が作れるのであれば、冬前に領内へ設置したいから急いだ方がいいだろう」


 おじい様も少しでも早く設置したいんだな。


「それでは洞窟の方は父様に任せて、僕たちはパレードの方に集中しよう。その後をどうするかは、パレードが終わった時に考えようか?」


「分かりました」

「任せておけ」


 ステルスバットの事はおじい様に任せて、その日はローダウェイクで販売する予定の、廉価版ウルスを大量に作ってから寝ることにしたのだ。



 翌朝、おじい様は朝早くに兵士を数人つれて、ファーレン近くの魔の森へと向かった。


 僕たちはパレードの開始である。トゥールスの町も賑わっていたのだが、ファーレンの町も今凄く賑わっているそうだ。

 ニルヴァ王国から珍しい品を仕入れて、ローダウェイクで売るのが流行っているらしい。特に肌触りのいい毛皮関係の需要があるという話を聞いたのだが、それって僕のせいだよね? って思ったのだが言わない事にしておいた。ローダウェイクへ帰ったら、エミリアさんに質の良い毛皮がないか調べてもらう事になっている。


 とにかく、一攫千金を夢見た商人や冒険者たちで賑わっているのが、ファーレンの町の現状らしい。


 一日目のパレードが終了し、おじい様が戻ってきた。ステルスバットを討伐することは出来なかったみたいだが、バット系の魔物はたくさんいたらしく、明日こそは討伐すると意気込んでいた。


 そして、モイライ商会の手伝いに行っていたエミリアさんから、気になる発言が2つあった。1つはウルスぬいぐるみが売り切れてしまったので在庫が欲しいとのことで、幸い前日に作ってあったのでそれを渡したのだが、もう1つの方が問題である。


 パレードの最中、僕が近くを通ると拝みだす商人が多数いたそうで、エミリアさんが確認したところ、商売の神として拝んでいたとのことだった……。


 ジョセフィーナが『7歳で立ち上げた商会を1年も経たないうちに、Aランク商会へ押し上げてヒット商品を連発するエドワード様を神と言わずして何と言おうか!』とか力説していたのだが、いつの間にそんな噂が立ったんだろうか? 明日のパレードは注意して見てみることにしようと思う。

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