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第178話 バーランスの町

 朝早くにプラクラの町を出発した僕たちは、夕方に野営ポイントへ到着した。


 しかし、到着したところで問題が起きた。野営ポイントはプラクラの町とバーランスの町の中間にある川の近くに存在するのだが、木々がなぎ倒されている場所があったのだ。


「かなり大型の()()が争ったのではないかと思われます」


「かなり奥の方まで続いているみたいだね」


 アーダム隊長と父様が会話している。


「暗くて分かりませんが、この方角だとアルジャン子爵領まで入っているかもしれませんな」


 アルジャン子爵領までか……。


「父様、そう言えば、カタストロフィプシケを発見した際も、このような状況を見た後ではなかったでしょうか?」


「そう言えばそうでしたな……ハリー様、もしかしてこの木々のなぎ倒しは、カタストロフィプシケを見つける前に発見した、アルジャン子爵領のプラータ近くまで行っているのではないでしょうか?」


「その可能性は高そうだね」


「カタストロフィプシケが通った跡ということはないのですよね?」


「あれは地を這う虫だから、その可能性はないだろうね。明日バーランスについたら、念のためローダウェイクにいる父へ伝令だけは送っておいて、パレードが終わってから本格的に調査しようか?」


「畏まりました。プラータ近くまで行っているとしたら、どの様な()()が争ったのかは想像もつきませんな」



 この日は警戒しつつ野営をして、次の日の夕方にはバーランスの町へ何事もなく入ることが出来た。夕方にもかかわらず、たくさんの人が僕たちを見ようと集まって来ていたのだった。


 バーランスの町は母様と再会した時に数日滞在したのだが、ヴァルハーレン領では珍しくのんびりとした町だ。魔の森や国境に面していない事が大きいのかもしれない。バーランスの町は農業が主産業で、特に大麦や小麦の生産量は王国一を誇る。


 料理の準備などは仕込み班の料理人たちが事前に入って準備しているので、明日から直ぐにパレードを行う事ができるようになっていた。


「みんなお疲れ様、明日の準備は大丈夫かな?」


「問題ございません!」


「それでは、みんな明日もよろしくね」


『ハッ!』


 ◆


 解散と同時に抱えられてお風呂に直行する。今回抱えているのはアスィミだ、自分で歩けるし逃げないよ? と思っていても言う事はしない、もう少しで石鹸が完成するはずだからね。



 風呂から上がり、あとは寝るだけだったのだが、エミリアさんがやって来た。


「どうしたの? もしかして在庫が無くなったの?」


「いえ、そういうわけでは……」


 エミリアさんにしては歯切れが悪いな。


「何かトラブルでも起きましたか?」


「トラブルではないのですが、お願いがありまして……これの登録と量産をお願い出来ませんでしょうか?」


 そう言ってエミリアさんが出してきたのは、ウルスぬいぐるみの廉価版であった。


 ウルスぬいぐるみを販売するにあたって、一般の人でも手が届く素材で作った廉価版もセリーヌさんに作ってもらったのだが、エミリアさんが見た目も悪いし儲けも少ないので必要ないと言ったため、お蔵入りとなった商品だ。


「エミリアさんの販売方針と違うと思うんだけど、どうしてかな?」


「私の考えが浅はかでした! 質の良い商品だけを売れば良いと考えていたのですが……」


 そしてついにエミリアさんは泣き出してしまった……大声をあげて泣いている25歳、大人の独身女性……どうすればいいんだ!


「エディ君、どうしたの⁉」


 エミリアさんが扉をしっかり閉めてなかったようで偶々、廊下を通ったのかカトリーヌさんとセリーヌさんが入って来た。


 エミリアさんはセリーヌさんを見ると更に泣く。


「ゼッゼリーヌざーん! ゴメンナザーイ!」


 エミリアさんを泣き止ませながら、事情を聴くセリーヌさん。



 話をまとめると、ウルスぬいぐるみに関しては貴族相手だけで十分と計算したのはいいが、プラクラのモイライ商会を訪れた子供たちが、僕のフードに入っていたウルスと一緒のぬいぐるみを見つけテンションが上がる。しかし、親が値段を聞くと高くて購入できず、ガックリと帰っていく様子をプラクラの町で2日間見続けた結果、夢にまで出てきて、うなされるようになったらしい。


「つまり、この廉価版を能力で登録して、量産すればいいんだね?」


「よ、よろしいのですか?」


「元々そうするつもりだったからいいと思うんだけど? 反対してたのエミリアだけだし」


「うっ!」


「廉価版って言ったけど、材料が安いだけでセリーヌがしっかり作ってるから、これはこれで売れると思うんだよね」


「そうなんでしょうか……」


「あらエドワード君、分かっているじゃない」


「セリーヌさんも売れると思っていたのですか?」


「あら、私が売れない物を作るわけないじゃない」


「だったらどうして、もっと強く反対しなかったのですか?」


「うーん、エミリアの言う事も間違っていないからだよ。貴族用の方が儲けは多いでしょ? それにまだ売り始めたばっかりで、貴族用が売れるかどうかも分かってないんだから、その結果を見てからでも遅くはないのかなって思ってたけど、予想以上の反響みたいだね」


「あの反響はエドワード様のせいです!」


「どうしてそうなるの⁉」


「パレードの時にウルスをフードに入れているエドワード様の姿が可愛すぎるのです!」


 エミリアさんがそう言った瞬間、カトリーヌさんとセリーヌさんも頷く。


「……可愛いって全然褒め言葉じゃないじゃん。これでも一応侯爵なんだけど!」


「その可愛すぎる英雄侯爵が装備している、ぬいぐるみと似たような物が購入できると分かれば、子供たちは凄く欲しがるみたいです。親としてもそれにあやかりたいのか廉価版の催促が凄かったです」


 まさか、僕のせいだったとは……いや、護衛のために強制的に持たされたんだから、僕のせいじゃないよね? でも、ぬいぐるみを持つ子が増えれば、僕が持っていても目立たないかもしれないな。あとウルスは装備品ではないからね。


「まあ、とにかく登録するよ」


 廉価版のぬいぐるみ2種類を登録する。廉価版は毛並みが普通なのと毛が無いものの2種類ある。


「登録したけど何個ぐらい必要かな?」


「取りあえず毛のある方を100個、毛のない方を200個お願いします」


「えっ? そんなに必要なの?」


「仮に全部捌けなくても、プラクラの町や次のトゥールスの町に回せますので問題ありません」


「だったらいいんだけど」


 早速ぬいぐるみを量産する。素材登録を大量にしたおかげで、特殊な生地以外は魔力の消費をほとんど気にすることが無くなったが、数が数なので300減った。製作魔力の最小値は1らしい。どれだけ登録を増やしても、消費魔力がゼロになることはないようだ。


「はい、これで大丈夫かな?」


「ありがとうございます! これであの目から逃れられます!」


 完全にトラウマになっているみたいだな。


「それじゃあエミリア帰るわよ。明日も早いんだから」


「分かりました。エドワード様お休みなさい」

「「エディ君、おやすみ」」


 そう言って3人は帰って行った。


「私ってそんなに人気なんですね!」


 喋らなければ普通の可愛いクマのぬいぐるみなんだが、喋り出すと途端に残念感が勝るんだよね。


 合成を試そうと思っていたのだが、製品登録2とぬいぐるみ量産で、魔力を1300使ってしまったので今日はもうできない。

 

 しょうがないので、追加生産が来てもいいように、タオルなどの在庫を増やしてから寝ることにした。



 翌朝からバーランスの町でも2日間のパレードがスタートし、こちらも大盛況で終わる。


 用意したクマのぬいぐるみは、ほとんど売れたらしく、残った分も在庫として置いておく事になってしまう。


 必然的にトゥールスの町の分は無いので、満面の笑みのエミリアさんが追加製作を依頼しに来たのだった。

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