第177話 パレード開始
今日からパレードがスタートするという事で、現在はプラクラの町の屋敷にいる。
プラクラの町は魔の森の脅威が近いせいか、前回はヴァルハーレン家の馬車が入って来るだけでお祭り状態だったのだが、今回はそれに輪をかけて大変な事になっていた。
パレードはオープンタイプの馬車に乗って行う。このオープンタイプの馬車は父様と母様が結婚した時に作った馬車で、パレードを行うのはそれ以来と言う事になる。馬車には父様と母様も同乗するのだが、不本意な事にウルスが僕の護衛としてフードに入っている。
クマのぬいぐるみをフードに入れた侯爵ってのはどうなんだろうか……。
そんな僕の思いとは関係なくパレードはスタートする、パレードと言っても馬車に乗って声援に応えるだけの簡単なお仕事なのだが僕的にはかなり苦手な部類だ。馬車は屋敷を出発してプラクラの町をゆっくりと走る。
地鳴りのような歓声が上がり、『ヴァルハーレン家バンザイ!』や『聖女様!』などの掛け声が聞こえるが『エドワード様、可愛い!』は違うと思う。
馬車がモイライ商会の前まで来ると、店員たちが僕の名前を呼んで手を振ってくれているので、僕も応える。
エミリアさんもパレードの期間は、各地のモイライ商会を手伝うそうだ。普段は生活雑貨しか置いてないローダウェイク以外の店舗にも、お祭り期間はタオルなどの高級品も販売すると意気込んでいた。
ロブジョンさんたち料理人も一緒に回り、市民へ料理や酒を振舞っている。パレードの手伝いを何もやらなくてもいいと言われたのだが、厨房へ行くと料理人たちが考え込んでいたので、外でも簡単に食べられる物をという事で串焼き、唐揚げなどを提案して採用となっている。デザートとしては今回、手で持てるクレープが採用されており、デザートとしてだけでなく、具材や味付けをお好み焼きぽいものにした物なども用意した。平民は食事をする時、手づかみかスプーンで食べているので、ナイフやフォークなどが必要のない物を振舞っている。子供限定だが、りんご飴のようなフルーツを飴でコーティングしたものも配っているはずだ。
料理を作るための道具として、マグマスライム式鉄板をリュングやロヴンに頼んでたくさん作ったのだが、温度が一定で焼きムラがないと料理人たちには好評で、パレード終了後には厨房やレストランでの採用も決まっている。僕的には温度調節をできるようにしたいのだが、今の所完成は遠い。
振舞う料理や飲み物の費用は、すべてヴァルハーレン家で用意するそうなので、空間収納庫に仕舞ってあったお肉はかなり提供した。
ローダウェイク以外の町は2日ずつ、ローダウェイクのみ3日間お祭りをすることになっており。全て回ると半月ぐらいかかるのではないだろうか。
ようやく1日目が終了し、屋敷へ戻ってきているのだが、凄く疲れた。ずっと笑顔で手を振っていたせいか、顔面が固まっているように感じる。
疲れを癒すため、お風呂に入っているのだ。そう、ローダウェイクにしかなかった大浴場が、いつの間にかプラクラの屋敷にも造られていたのだ。
聞いた話によると、ヴァルハーレン領の屋敷では全て設置完了しているらしい。次に王都へ行く頃には、王都の屋敷にも用意されているだろうとのことだった。
もちろん指示したのはおばあ様である、おばあ様のお風呂にかける執念は凄い物を感じる。お風呂で一番問題になるのが大量のお湯をどうするかなのだが、おばあ様は僕のマグマスライムとウォータースライムを利用したのだ。ウォータースライムで出した水をマグマスライムで温める方式になっている。
ちなみにおばあ様と実験して分かったのだが、ウォータースライムは無限に水を出し続けるのは無理みたいで、僕の魔力がなくなると水が出なくなる。水不足の町などに設置して、水源として使うみたいなことは無理みたいだ。
貯水槽を作り、そこから厨房やお風呂まで水を引くという大掛かりな仕掛けになっていて、これを考えたおばあ様は凄いなと感心してしまった。
何はともあれ、湯船に入って今日の疲れを癒している。
「エディ、こっちに来なさい。顔が笑ったままになってるわよ?」
「えっ、まだ治ってない?」
ずっと笑顔で手を振っていたせいか、顔が笑顔の状態に固定されたようだ。メグ姉の所へ行くと顔をマッサージしてくれる、顔の筋肉が段々ほぐれて行くのが分かった。
「このお風呂を作ってくれた、おばあ様には感謝しないといけないな」
「クロエ様のお風呂と料理にかける情熱は凄い物を感じるわね」
カトリーヌさんが答えた。湯船に浮いた2つの島が圧倒的な存在感をだしている。
「確かにそうね、こんな大きさの湯船はニルヴァ王国にもないわよ」
母様が答えた。
「そうなんですか?」
「ニルヴァ王国の王都なんかは、一年の半分以上は雪に閉ざされているもの、この量のお湯を作るのは大変なのよ」
「なるほど、寒い所なので湯船に浸かって体を温めるのですね」
「多分そうなんじゃないかしら?」
「そんなに寒いのでしたら、マグマスライムを贈ったらどうですか?」
「うーん、そんな便利なものを贈ったら面倒なことになりそうだから止めておくわ」
「そうなんですか?」
「ええ、私が言うのも何だけど、ニルヴァ王国はちょっと変わってるから、積極的には関わりたくないのよ」
「実家なのにですか?」
「エドワード、違うわ実家だから面倒なのよ。そんな所へ便利なものをポンポン作り出す、エドワードを連れて行ったら大変よ」
「そうなんですね」
そんなにポンポン作り出しているつもりはないのだが、とにかくニルヴァ王国へ連れて行くのは嫌なようだ。
「これでいつものエディの顔に戻ったわね」
「メグ姉ありがとう」
「まだ始まったばかりなのに大丈夫かしら?」
「メグ心配する事はないわ、直に慣れるわよ」
「だったらいいのだけど」
ん⁉︎ 今母様、メグ姉の事をマルグリットじゃなくてメグって呼んだ?
この後2人は話をしていたのだが、お互いを『フィア』、『メグ』と呼び合い仲良さそうだった。
次の日も同じようにパレードを行う。お祭りなら2日続けるのは分かるが、パレード自体は初日で十分なのではないかと思ったので聞いてみたところ、初日を仕事などの理由で見ることが出来なかった人たちに不満が起きないよう2日続けるようだ。ローダウェイクは広いので3日必要なんだそうだ。
2日間に渡るパレードとお祭りを無事に終えた僕たちは、翌朝バーランスに向けて移動するのだった。




