第18話 鉄鉱石
レギンさんのお店を出てしばらく歩いたところで、あることを思い出す。
「しまった。そう言えば鉄鉱石のことを聞くの忘れたな。まあ、今度でいいか。せっかく採掘用のハンマーも手に入れて、まだ時間もあるから、今から取りに行ってみるか」
僕は町の門をくぐり抜け、鉄鉱石を求めて魔の森近くの山へと足を進めた。魔の森は、深く入れば強力な魔物が跋扈する恐ろしい場所だが、表層部には初心者でも対処できる程度の魔物しかいないので。浅いところなら、魔物に襲われる心配も少なく、採掘に集中できるだろうと思ったからだ。
しばらく歩くと一匹の魔物を見つける。ホーンラビットだ! その名の通り、ウサギのような姿をした魔物で、体長は40センチぐらい、頭には鋭い角が一本生えている。見つからないよう木の陰に隠れてどうするか考える。
初めて遭遇した生きている魔物はホーンラビットか、定番のスライムを見てみたかったがしょうがない。そういえば盾とか薬草をまだ買ってないな、あの角に刺されると相当痛そうだし、どうやって倒そうか。
しばらく考えた僕は、いいことを思いついたので、早速試してみることにした。
麻のロープよ、ホーンラビットの後ろ脚を縛れ!
メグ姉を縛った時のように糸の能力を使うと、あっという間にロープで後ろ脚を縛られ、動けなくなったホーンラビットが出来上がる。
ホーンラビットがロープを認識したときには、すでに縛られているので結構不思議な光景だ。まだ詳しく検証していないが、おそらく見えている範囲内なら、思い通りに糸を出現させることができると思う。
動けなくなったホーンラビットに近づくと、首めがけて剣を一気に振り下ろした。
ホーンラビットの頭と胴体は大した抵抗もなく離れ離れになり、血が流れる。
やっぱりレギンさんのお店で買った、この剣の切れ味は凄いな。
血の臭いで他の魔物が寄って来るとまずいので、直ぐに穴を掘り、ホーンラビットの脚を持って穴に血を流す。
脚を縛ってあるロープを落ちている木の枝に引っ掛けて地面に挿す。これで血抜きが終わるのを待つだけだ。
動画でウサギの内臓を一瞬で出す方法というのを見たことがあるが、手の小さい僕ではできそうもないな。
血抜きをしている間、ホーンラビットの頭に付いている角を取って、残った頭は掘った穴に捨てる。孤児院では、時々ホーンラビットなどの魔物を寄付してもらえることがあった。その時はみんなで協力して、肉と皮、骨や内臓を分けていたので、それなりに解体には慣れているのだ。
頭から切り落としたホーンラビットの角を見ていると、気になることが出てきた。
「このホーンラビットの角って登録できないのかな?」
早速、角を持って集中してみるが何も起こらない。
単純に糸のレベルが足りなくて登録できないのか、そもそも、この角が糸の素材として適してないから登録できないのか、現状では分からないな。生糸が登録できたのだから魔物がダメってわけでもなさそうなんだけど……。
ホーンラビットの角のことは諦めて、待っている間にステータスを確認してみると。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】2
【HP】20
【MP】357/360
【ATK】20
【DEF】20
【INT】350
【AGL】20
【能力】糸(Lv2)▼
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
いつの間にかレベルが上がっている! そういえば、レベルアップのファンファーレとかアナウンスはないんだな、【MP】と【INT】以外は値が倍になって10も増えていると思ったら、【MP】と【INT】は10どころか50も増えている! 【MP】は能力の生命線だから積極的に上げたい数値だ。
血抜きが終わったので、ホーンラビットを麻袋に入れて移動する。その後は魔物に遭遇することもなく、山の麓に辿り着くことができたので、ゆっくり鉄鉱石の採取ができそうだな。
鉄鉱石を探し始めた。山肌はごつごつした岩で覆われていて、所々に草や花が咲いていた。僕は岩の隙間や色合いに注目しながら、鉄鉱石が見つからないか探した。鉄鉱石は赤っぽくて、普通の石と比べて重いということは聞いていたが、実際に見たことはなかった。
「鉄鉱石は赤色ぽい石って聞いたけど、実際にどのくらいの赤さなんだろう? うーん、全然違いが分からない。もっと簡単に見つかると思ってたけど、ちょっと考えが甘かったか?」
どの石を見ても鉄鉱石にしか見えないようになってきたので、取りあえず赤みがかった石を手当たり次第登録してみようとするが、全く反応はなかった。
更に探し回っていると、徐々に森に入り込んでしまっているのだが、鉄鉱石探しに夢中で気がついていなかったのだ。
そこで僕はタイミング悪く、小さめの赤錆色の石を発見してしまう。
「おっ! これは間違いないんじゃないか」
赤錆色の石を拾おうとした瞬間。
ゴン!
僕は頭に衝撃を受け、そのまま気を失ってしまったのだった。




