第176話 ツムギの装備
急いでローダウェイクへ戻った僕たちは、そのままレギンさんの下へ向かう。タイミングの良い事にリュングとロヴンもレギンさんの工房にいた。
「どうした小僧?」
「実は相談がありまして」
「ほう、どんな装備を思いついたのだ?」
相談の一言で装備だと分かったらしい。
「実はツムギちゃんの装備なんですが、ツムギちゃん手裏剣を見せてあげて?」
「畏まりました。これになります」
「なるほど、投げ針の一種か?」
「投げ針ですか? アシハラ国では手裏剣と言うらしいですよ」
「シュリケン? 変わった名前だが、それをどうするのだ?」
確かに漢字じゃないと、変わった名前にしか聞こえないな。
「僕のガントレットみたいに、収納しておいたものを取り出せるような仕組みに出来ないかな? と思いまして」
「小僧のガントレットのようにか? 確かにできるぞ」
「ここからが本題なんですけど、今日魔物狩りをしている時に、ツムギちゃんがラーゼンクーに刺したところ、怒っただけだったんですよね」
「体の表層に刺さっただけなら、そうなるだろうな」
「そこで、手裏剣の先にワンダリングデススパイダーの毒をつけたところ、早く倒せたんです」
「またエドワード様、危険な毒を!」
「ある意味さすエド!」
ロヴンはともかく、リュングの『さすエド』ってブームなのか?
「ふむ、つまり小僧はそのシュリケンをただ格納したり取り出す訳ではなく、毒の有無もコントロールしたいということじゃな?」
「さすがレギンさん! その通りです。さらに言うと手裏剣のサイズも変更出来ないかと考えています」
「ほう、シュリケンのサイズとはどういうことだ?」
「普段ツムギちゃんが使っているのは直径5ミリ、長さ15センチぐらいですが、もっと細い物や長い物もあってもいいかなと」
「小僧の能力のように、相手や状況に応じて替えるということじゃな?」
「そうです、そこで1つロヴンに試してほしいんだけど、この糸の先を尖らせることって出来そう?」
ロヴンに炭化タングステンの糸を直径5ミリ、長さ15センチで出して渡す。
「なるほど、この手裏剣と同じ形にすればいいのですね! やってみます」
ロヴンは炭化タングステンの糸を受け取ると、能力で形を変えようと集中している。
最初は何の変化も起きなかったが、しばらくすると徐々に炭化タングステンの糸の先が尖っていった。
「出来ました!」
「おお! ツムギちゃんの持っていたのと、同じ形になったね」
「見本があるやつは割と簡単なんですよ」
「へー、そうなんだね。じゃあ見本より細いのはどうかな?」
次に炭化タングステンの糸を直径1ミリ、長さ15センチで出して渡す。
「えっ? もう十分細いじゃないですか!」
「そんなことないよ、全然先が尖ってないでしょ? 先を尖らせないと刺さりが悪いからね」
「確かにそうですね……分かりました、やってみます」
ロヴンが炭化タングステンの糸に集中すると、最初より遥かに早いスピードで先が尖っていく。
「ロヴンよやるではないか! どうじゃった? 魔力を使いすぎてはいないか?」
レギンさんはロヴンの魔力消費を気にしているようだ。
「初めて触る金属だったので、最初の一本目は魔力を浸透させるのに時間が掛かりましたが、どちらも素材の質量が減る方向の加工なのでそこまで魔力は消費しませんね」
「それは凄いな! なるほど、質量が減る方向の加工なら魔力をあまり気にしなくても出来るということじゃな?」
「はい、エドワード様から頂いた素材で色々実験してみたので間違いありません。質量が増える方向の加工は膨大な魔力が必要となるので、出来ないこともありますが、質量が減る方向の加工についてはあまり消費しません。おそらく同じものを作る場合、2回目以降はスムーズかつさらに魔力消費量も抑えられる感じです」
「へー、そんな利点もあるんだね」
「小僧! アキラの娘の装備はもちろん作るが、その前にこれを作れるだけの炭化タングステンの糸をくれ!」
そう言ってレギンさんが持ってきたのは金床とハンマーだった。なるほどモース硬度9を誇る炭化タングステンで作った金床やハンマーなら炭化タングステンも加工出来るのかもしれないな。
「もちろん大丈夫ですよ! 早速だしますね」
ロヴンが加工できる目一杯のサイズで炭化タングステンの糸を出す。
「ロヴンたのんだぞ!」
「伯父さん任せて下さい!」
気合い一杯のロヴンが加工を開始した、ロヴンが加工できるサイズは一辺が40センチメートルの立方体以内だ、最初に小型の武器しか作れないと言っていたのはこのせいなのだが今回作る金床はギリギリ作れるサイズのはずだ。
大きさが能力の限界ギリギリのサイズなので、かなり時間が掛かっているが、ロヴンを信じて待つしかない。いつも無表情な姉のリュングが心配そうにロヴンを見つめている。
5分ぐらい経ったところで、炭化タングステンに変化が訪れた。粘土のようにグニャグニャしたかと思うと、金床の形に変わったのだ。
「ふぅ……出来ました」
「ロヴンやったね!」
「ん、ロヴン天才」
「ロヴン、よくやった! 恩に着るぞ。これで創作意欲がさらに湧く!」
創作意欲のないレギンさんを見た事はないんだけどね。
「小僧、アキラの娘の装備で他に希望はあるのか?」
「そうですね、ツムギちゃんはまだ5歳なので、これからどんどん大きくなります。だから体の大きさが変わっても使える感じがいいですね」
「確かにその通りじゃな、考えておくぞ」
「あとは毒の種類もいくつか選べるといいですね」
「ほう、毒にも種類があるのだな、任せておけ」
「そんなところかな? ツムギちゃんは何かリクエストはあるかな?」
「えっ? 私にそんな凄い装備を用意してもらって良いのでしょうか……」
「もちろん良いに決まってるよ! アキラには僕の軍の騎士をまとめてもらわなくちゃならないから、ツムギちゃんも頑張ってね!」
「へっ? エドワード様の軍というのはどういう事でしょうか?」
アキラさんが、間抜けな声を出して質問してきた。
「ほらっ、侯爵になったから、僕専用の軍も作った方がいいよねって話になってさ。アキラにはそのまとめ役……つまり騎士団長? をやってもらおうと思ってるんだ」
「そっ、それは真の話でございましょうか?」
「本当の話だよ、出来れば人材の選定も手伝ってもらえると助かるんだけど、どうかな?」
「……」
「お父様、何か言って下さい」
固まったアキラさんをツムギちゃんがつついている。
「はっ! 申し訳ないでござる、エドワード様からの大役、謹んでお受けいたします所存でございます!」
「受けてもらえてよかったよ! これからもよろしくね」
「ツムギ良かったね!」
「ん、おめでとう」
「リュングさんにロヴンさんありがとうございます!」
3人が抱き合って喜んでいるのだが、3人はいつの間に仲良くなったんだろうか?




