第173話 合成
帰って数日は忙しかったのだが、今日は暇をしている。というのも、みんなはパレードの会議を行うという事で会議中なのだ。主賓の僕は何もしなくてよいという事で参加してないのだが、全く内容が分からないというのは不安でしかない。
ジョセフィーナやアスィミも参加するため、基本外に出ないで欲しいと言われているので、朝から部屋でヴァイスやウルスとゴロゴロしている。
「こんなにのんびりするのは、久しぶりだね?」
『確かに最近は忙しそうだったな』
「それでエドワード、今日は何をするんだい?」
ウルスが聞いてきた。
「うーん、どうしようか? 糸の合成がどんな能力なのか調べようかな?」
『ほう、新しい合成というやつか!? 前の素材合成と何が違うのかを調べるのだな!』
「そうだよ。ヴァイスは何か思いつかない?」
『レベル4の素材合成よりも凄いということは分かるが、見当もつかないな』
「そうなんだよね。素材合成は失敗しても魔力が消費されちゃうから、変わった組み合わせが試せなかったんだよね」
「それなら、まず最初は消費魔力も確認しなければならないから、変わった組み合わせを試してみたら?」
「なるほどね。そうしようか、どうせなら成功したら、ラッキーなやつにしたいな」
『それはおもしろいな! 考えようではないか』
「今の種類を見る限り、大体揃ってるけどね」
「そうなんだよね。思いつきそうな糸はほとんど作ってあるんだよね。まだないのは化学繊維ぐらいかな? そう言えばウルス、化学繊維って作れないの?」
「三大合成繊維のアクリル、ナイロン、ポリエステルを作るなら石油が必要だね」
「やっぱりそうだよねー、石油さえ探せばなんとかなるのかな?」
「前の『素材合成』では作れなかったけど、今の『合成』ならもしかして作れるかもね」
「そう言えば『素材合成』で石油は作れないのかな?」
「『素材合成』というか、エドワードの能力で作り出せるのは糸だけだから、石油は無理だよ」
「やっぱりそうなんだね。どっちにしても、石油がないとダメだから今は試せないね」
『エディよせっかく違う世界にいるのだ、前の世界の再現ばかりでなく、この世界でしか作れない物を作った方が、楽しいのではないか?』
ヴァイスはいつも絶妙なタイミングで、良いアドバイスをくれるね。
「確かに、初めて見るような物を作った方が楽しそうだね! 変わった糸を作る方向で考えよう!」
「では、現状を確認して、何が足りないか考えてみたらいいんじゃない?」
「現状で一番強度がある糸から考えてみるか。やっぱり強度が一番高い糸は、カタストロフィプシケだね」
『一番はグラウプニルではないのか?』
「ヴァイス様さすがです。ただグラウプニルは能力では使用不可になっているので、ガントレットに内蔵されているものしか使えない欠点があります。カタストロフィプシケの糸も、魔術を無効化してしまう利点のような弱点もありますので、ワンダリングデススパイダーが現状安定した高強度の糸ではないでしょうか?」
「利点のような弱点ってどういう事?」
「守る際には敵の魔術を無効化できる素晴らしい糸だけど、攻撃する際には自分の魔術も無効化してしまうので、使い方に気を付けないとダメでしょ?」
「なるほどね。確かにウルスの言う通りだよ。ワンダリングデススパイダーの糸に、魔力を纏わせられるのが一番いいんだけど」
「エドワードの言うように、金属系の糸かスライムの糸じゃないと、魔力は纏わせられないからね」
「魔力を纏わせるなら、ミスリルの糸かスライムの糸が一番だけど、強度面は2つ共足りないんだよね」
『ならばエディ、その2つを組み合わせると言うのはどうだ?』
「2つを組み合わせるの?」
『うむ、エディが今最も欲しい、ワンダリングデススパイダーの糸の強度を兼ね備えながらも、ミスリルのように魔力を纏わせることのできる糸をイメージすればいいのではないか? 作ることが出来れば、最も使いやすい糸が出来上がる訳であろう? 失敗しても魔力を失うだけだ、初挑戦には持って来いの糸ではないか』
「それが良さそうだね、ヴァイスの言う通りに試してみるね」
頭の中で『合成』と念じてみる。
『合成する構成を指示してください』
素材合成とアナウンスが違うな、素材合成の時のアナウンスは『素材合成 合成する素材を選んでください』だった。素材という単語が構成に代わっているという事は何か意味があるのかもしれない。今は合成に集中しようか、ワンダリングデススパイダーのような強度を維持しつつ、ミスリルのように魔力を流すことの出来る糸をイメージしてみる。
『構成を確認しました、合成しますか?』
成功するかは分からないが、指示はできたようだ。
作成しますか? ・はい ・いいえ
〈はい〉と念じる。
――! ごっそり魔力を消費した感覚があったので、間違いなく合成は実行されたのだろう。しかし、アナウンスがないのでステータスを確認してみる。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】40
【HP】1100
【MP】530/2030
【ATK】1040
【DEF】1040
【INT】1420
【AGL】1150
【能力】糸(Lv7)▼、魔(雷、氷、聖、空)
【加護】モイライの加護▼、ミネルヴァの加護、フェンリルの加護
【従魔】ヴァイス、ウルス
魔力1500も消費するのか……よし! 糸が増えているな、確認しよう。
【能力】糸(Lv7)
【登録】麻、綿▼、毛▼、絹、パスタ
【金属】純金属▼、合金▼、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、カタストロフィプシケ、蔓、ファンタジー▼
【付与】毒▼、魔法▼
【素材】カタログ
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【裁縫】手縫い▼、ミシン縫い▼
【登録製品】カタログ
【作成可能色】CMYK
【解析中】無
あれっ、見やすくなったと思ったら【金属】の項目が纏められたようで、ミスリルは純金属や合金に含まれないようだ。【特殊】項目にファンタジーって項目が増えて、グラウプニルが消えてしまった。早速確認してみよう。
【純金属】鉄、アルミ、ナトリウム、マグネシウム、チタン、タングステン、銅、銀、金、白金
【合金】鋼、ステンレス、ピアノ線、炭化タングステン
【ファンタジー】アラクネー、グラウプニル(使用不可)
……よく分からないが、『アラクネー』というのが今回合成で出来上がった糸なんだろうか?
『エディよ、凄い魔力を感じたのだが成功したのか?』
「うん、成功したみたい。『アラクネー』って糸が追加されたよ」
「アラクネーと言えば、ギリシア神話に出てくる女性の名前だね」
「そうだね。確か、女神アテーナーに織物勝負を挑み、ゼウスの浮気シーンのタペストリーを織ったところ、アテーナーが激怒してボコボコにして自殺に追い込み。死んだアラクネーを蜘蛛に変えたんだよね?」
『さすがエディはよく分かっておる』
「アテーナーに勝てるって豪語していたアラクネーも悪いけど、アテーナーってヤバい女神だなって思ったよ。そういえばミネルヴァ様と同一視されているけど、どうなの?」
「あんなのは勝手に人間どもが、同一視しているだけですね」
ウルスのやつ普通に答えたじゃん。完全にミネルヴァ様側の意見だけど大丈夫なのか?
『そのアラクネーの糸は後で試してみるとして、消費魔力はどのくらいだったのだ?』
「1500も消費するみたい」
「それは多いですね。どんな糸が作れるのかは、何回か試してみるしかないね」
「そうだね、今日はもう無理だから、また時間が空いたら試すとして、アラクネーの糸が使えるか試してみようか」
僕たちは訓練場へ向かうのだった。




