第169話 レイナード・バーンシュタイン(上)
2体の異形を倒して以降、パーティーやお茶会などへのお誘いが凄く増えたらしい。いくつか断り切れず参加したのだが、婚約へのアピールが露骨過ぎて、さすがにドン引きだった。
メイド服の依頼も受けて、王都での用事は一通り終わっていて、これ以上滞在しても面倒事しかなさそうなので、ローダウェイクへ早く帰還しようという事になり。そのための準備を進めていたのだが、使者が来訪し僕に用事があるということらしく、応接室へと向かっている。
「エドワードです」
「入りなさい」
応接室に入ると使者? の人がいたのだが、それはバーンシュタイン公爵家次女のフラム嬢だった。オッドアイは相変わらず神秘的だが、その瞳は若干潤んでいるようにも見え表情も暗い、フラム嬢が1人で来るなんて、何があったのだろうか?
「エドワード様! 今すぐ私とバーンシュタインの屋敷へ来てください!」
「はいっ?」
「フラム様、何の説明も無しでは、エドワード様に全く伝わらないのではないでしょうか?」
侍女らしき人が注意しているが、その通りである。
「申し訳ございません……」
フラム嬢は深呼吸すると話し出した。
「おじい様が倒れてしまいまして……」
「バーンシュタイン公爵がですか!?」
数日前は元気だったのに! やはり命を削って魔術を使ったせいなのだろうか?
「はい……それでおじい様が最期にエドワード様と、もう一度お会いして話をしたいと私にお願いしてきたのです……」
「僕にですか?」
「どうしても、エドワード様に伝えたいことがあるそうで……」
「失礼します。動揺されているお嬢様の説明だけでは分かりにくいと思いますので、補足させていただきますと、倒れられたレイナード様自身から死期が近いので、最期にエドワード様と話がしたいと申しております。話す内容はエドワード様以外には言えないとのことでしたので、イグニス様の了承を得て、お願いに来た次第にございます」
「なるほど……話の内容は分かりましたが……」
バーンシュタイン公爵が僕だけに話って……いったいどんな話なんだろうか?
「お願いいたします! おじい様が私に最初で最後のお願いだって! 初めてなんです、おじい様が私にお願いするのは……」
フラム嬢のオッドアイの目には涙が溜まってきていた。行ってあげたいのだが、どうすればいいのだろうか? 父様の方を見てみると。
「行ってあげなさい。ローダウェイクへの帰還は遅らせればよいだけだから、但し護衛の騎士は同行させてもらうけどいいね?」
「もちろん大丈夫です」
侍女の人が答える。どうやら行っても大丈夫なようなので、フラム嬢に話しかける。
「分かりました。それではフラム嬢、バーンシュタイン公爵邸へ案内してもらえますか?」
「ありがとうございます!」
帰りも送ってくれるらしいので、フラム嬢と同じ馬車に乗り移動することとなった。父様が騎士団長のフォルティスさんたちを護衛としてつけてくれることになったので、外で護衛してくれている。
車内の空気は非常に重く、フラム嬢へなんと声をかけてよいのか分からない。
「エドワード様、この度は本当にありがとうございました。フラム様が、頼まれたのは自分だから絶対に行くと言い張りましたので、仕方なく連れて来た次第なのです」
「そうだったんですね。僕もおじい様が大好きなので、その気持ちはわかりますよ」
「エドワード様ぁー わたくじ ヒック おじいざまが ヒック ザイゴなんて言うから……」
ずっと我慢していたのか、涙腺は決壊し、ついに泣き出してしまった。
「これをあげるから涙を拭いた方がいいよ」
涙を拭けるように柔らか高級タオルを渡す。それにしてもどうして最期に僕と会いたいのだろうか……。
声をあげて泣いてスッキリしたのか、しばらくするとフラム嬢は落ち着くが、その目は真っ赤に腫れ上がっている。
「フラム様……目が大変なことに」
「お恥ずかしいところを見せてしまって申し訳ございません……」
「家族のために泣くことは恥ずかしいことじゃないですよ。少しだけ目を閉じてもらえますか?」
目を閉じたフラム嬢に回復魔法をかけると、目の腫れが治まっていく。
「「えっ!?」」
「フラム様、どうやら回復魔術で目の腫れを治していただいたようです。エドワード様はお母上であるソフィア様と同じことができるのですね……」
「そのようなことが!?」
「フラム嬢のことも秘密にしますので、僕のも秘密にしておいてくださいね」
「あ、ありがとうございます!」
その後、フラム嬢から前バーンシュタイン公爵の話を聞いていると、バーンシュタイン公爵邸へ到着したのだった。




