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第166話 聞いてないよ

 再び会議を行うため、前回同様貴族たちは会場に集まっている。但し、今回の僕の席は父様の隣ではなく一般席だ。


「前回の続きを始める前にまず先日の褒賞からだ。エドワード・ヴァルハーレン、家名は考えて来たか?」


「はい、フィレールでお願いいたします」


「エドワード・フィレール・ヴァルハーレン、そなたを2体の魔物の討伐の功績を合わせて、侯爵に叙する」


「ハッ、ありがたき幸せ!」


 マジで聞いてないんですけど! と心の中で叫んでも覆らないので、有難く受け取っておく。シュタイン伯爵を抜いてしまったが、さすがに文句は言ってこないようだ。


「次に、バーンシュタイン公爵が引退してイグニス殿に公爵の座を譲られるとの事で今回、次期公爵のイグニスにも参加してもらっている」


 イグニスさんの席は僕の隣だったりするのだが、チラチラ見られているのはなぜなんだろう……。


「そしてベルティーユ侯爵の件だが、家督を継ぐディエゴ・ベルティーユを召喚した」


 ディエゴさんが一礼する。


「ベルティーユ侯爵については先日の会議で伯爵に降格することを告げたのだが、陛下を命がけでお守りした功績を讃え侯爵のままとする。但し領地替えは行うこととする」


「ハッ! 畏まりました」


「これにてイグルス帝国の問題は解決とする。続いての議題だがスタンピードに関する件だ」


 議題が先日のスタンピードに関する話に変わった。


「今回起こった異常は魔の森全域で確認されており、通常は見ないような強力な魔物が現れたと報告を受けておる。確認された一例をあげるとワンダリングデススパイダー、ストームディアー、ギアラタウルス、オクルスプスなどそれ1体でも脅威となりうる魔物ばかりだ」


 オクルスプスはおばあ様の物語にも出て来る魔物なので、その名前が出た瞬間、会場がざわつく。


「幸い今、挙がった魔物に関しては全て討伐され、現在は正常な魔の森に戻っていると報告を受けている」


 みんなホッとした様子に変わる、オクルスプスを実際に見たことが無い人たちにとって、物語に出てくるような魔物は脅威的で恐ろしいのかもしれない。


「さてそんな中、残念な報せも受けている。モトリーク辺境伯領のコラビの町が、スタンピードにより陥落した」


 ホッとした空気はどこかへいって、急に空気が重くなり会場はザワつく。


「陥落したコラビの町の魔物の討伐は、ハットフィールド公爵を派遣することにより完了しているのだが、モトリーク辺境伯よ被害状況を話せ」


「畏まりました。まず結論から申し上げますと、コラビの町は魔物自体の討伐はハットフィールド公爵の協力により完了しておりますが、復興は難しいため放棄する流れになると思われます」


 やはりそうなるのか……おじい様の言っていた通りになったようだ。


「次に元居た住人たちについてですが、大半はスタンピード前に主都ヴィンスへ避難しており、死者やケガ人はほとんど出ていません」


「ではモトリーク辺境伯よ、どうして事前にスタンピードを防げなかったのだ? 魔の森の異変は冒険者ギルドからも上がっていたのではないのか?」


「それが、冒険者ギルドのギルドマスターで止まっていたようで……。その後、別件でギルドマスターの不正が発覚しギルドマスターとコラビの町長を処罰したところ、副ギルドマスターから報告されたのですが、時すでに遅くコラビの北東部に位置する魔の森から大量の魔物がコラビだけでなく、主都ヴィンスへ向けて移動していたため、そちらを優先しコラビは住人の避難という形をとりました」


 名前は忘れたけど、あのギルドマスターが報告してなかったのか……というか町長と一緒に処罰されたってどういうことだ? 町長の息子の……息子とパーティーを組んだみんなは大丈夫なんだろうか?


「ギルドマスターだけでなく、コラビの町長にも色々問題があったのは確かですが、私の管理不足には間違いないのでどのような罰でも受けましょう」


「そうであったか。理由が分かればそれでよい、被害を受けた者たちへの補償は十分にするのだぞ」


「畏まりました」


 お咎め無しだったことに驚いている貴族たちもいるみたいだ。


「ふむ、代替わりして知らぬ者もいるようだから一度説明しよう。王国法によれば王家は基本的に与えた領地の内政に干渉しない決まりとなっている。当然ブラウのように王国法で許可されていない罪を犯せばもちろん干渉する。今回のモトリーク辺境伯の件で考えると、コラビの町は陥落したが他領に迷惑をかけることなく、最終的には魔物を討伐しているので特に問題はないという訳だ。ハットフィールド公爵に手伝いをお願いしたのは、派閥の長として面倒を見てもらった形となっている」


「宰相様よろしいでしょうか?」


「ライナー男爵か、そなたは相談する相手が少なく聞ける機会もないだろうから、なんでも遠慮なく聞くがよい」


「ありがとうございます。今回のケースでモトリーク辺境伯への補填などはあるのでしょうか?」


「結論から言うとないな。各貴族、一定の税を国へ納める代わりに領内への不干渉を定めたのが王国法である。各貴族には爵位による俸禄が支払われておるが、魔の森隣接地の領と国境沿いに領を持つ貴族には既に対策費と言う名目で多く支払われている。ライナー男爵もマーリシャス共和国と隣接しているから、その分多く支払われているだろう?」


「確かにその通りですが……」


「ライナー男爵の言いたいことは分からんでもないが、かつて王国法が作られた時には派閥なんてものは存在していなかった。全ての貴族がヴァーヘイレム王国の貴族として誇りを持っていたし、国王もその貴族たちを信じていたから出来た法律だ。それがいつしか派閥というものが作られ、国を蔑ろにし王国法を逆手にとる者まで現れてきている。ライナー男爵、そなたは派閥で言えば国王派なのにブラウに借金をし国王派の情報を流していたな?」


「そ、それは! ……」


 そう言えば、以前陛下が借金の話をしていたが、国王派の情報を流していたのか。


「安心するがいい、先程も言ったように王国法が作られた時には派閥は存在していない。つまりライナー男爵を罰する法律や決まりはないと言うことだ」


「……」


「儂が国王になってから何度か王国法を改正しようとしたが、それは叶わなかった。王国法の改正には侯爵以上全ての貴族の了承が必要となる。貴族派は貴族の利権が絡むと反対して。中立派は民が絡むと直ぐに反対する。結局、王家が介入できぬままブラウのようなものを生み出してしまった。バーンシュタイン公爵にハットフィールド公爵よ、どう思う? 結局、貴族と民の両方が損をしておると思わぬか?」


 陛下が王国法改正の必要性を強調する。改正に反対してきた両派閥の長は考え込む。


「まあよい。話が脇道にそれた、宰相よ続けよ」


「その前にもう1つよろしいかな?」


「モトリーク辺境伯、何かな?」


「つまり陛下は王国法が変われば、コラビ復興の手助けもしていただけると?」


「もちろんだ、儂はヴァーヘイレム王国の国王だぞ。本来ヴァーヘイレム王国の国民を助ける責務があり、そこに貴族や民などの差別はないと思っているのだがな……」


『――!』


 確かに貴族がどうだとか、民がどうだとか言ってる段階で差別しているな……。


「宰相、次の議題へ」


「畏まりました」


 その後、滞りなく会議は進行し終わったのだった。

 

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