第159話 朝を迎えて
目覚めると真っ暗……いや埋もれてただけだった。
ベッドの上でカトリーヌさんに抱きしめられていたようだ……。
――!? カトリーヌさんが老けた! いや元に戻っただけか。髪もボブヘアーに戻っている。
そうか、記憶の中のカトリーヌさんは7年前ぐらいだから16歳ぐらいか? 7年も経つと色々変わるんだな……。
周りを見るとメグ姉や母様までいた……心配かけてしまったな。
「エドワード様!」
「ジョセフィーナおはよう」
ジョセフィーナが大声を出すから、みんな起きてしまったじゃないか。
「エディ!」
「エドワード!」
「メグ姉に母様もおはようございます」
「おはようじゃないわ、心配したんだから! いったい何をしたのよ!?」
「もう、メグったら、朝からうるさいわよ……」
「カティ!」
メグ姉がカトリーヌさんに抱きつく。
「メグどうしたのよ? ……そうだったわ。私ブラウを見て……」
「もう思い出さなくていいのよ」
「もう大丈夫だから、心配してくれてありがとう。エディ君に助けられたわ」
「えっ! 覚えているんですか!?」
「もちろんよ。多分だけどエディ君が助けてくれなければ、死んでたんじゃないかしら?」
「でもあれは!?」
カトリーヌさんが僕の耳元で囁く。
「あれは、2人だけのヒミツよ。分かった?」
「……はい」
しょうがない、今度詳しく話を聞くことにしよう。
「母様、会議はどうなりました?」
「どうなりましたって、今日だからまだよ。何日も寝てたと思ってたのかしら?」
「そうですか……すいません。どうやら長い夢を見ていたようで」
「……そう。でももう無茶をしちゃダメよ。カトリーヌさんを治療しようとして、突然気を失ったと聞きました。とても心配しましたよ!」
「ごめんなさい」
「反省してね。今回は偶々上手くいったようだけど、失敗すれば2人とも一生寝たままなんだから……」
「えっ!?」
母様は精神の治し方について何か知ってる?
「奥様、エドワード様に言いたいことは山ほどありますが、会議の時間が近づいて来ておりますので、一先ず朝食を取られた方がよろしいかと?」
「コレットの言う通りね。エドワードは朝食を取って準備しなさい。私はカトリーヌたちと少し話をしてから行きますから」
「では、エドワード様こちらへ」
ジョセフィーナに連行されてダイニングルームに行くと、そこには父様がいた。
「やあ、エドワードおはよう。目覚めたようで良かったよ」
「おはようございます。心配かけて申し訳ございません」
「いや、カトリーヌのために頑張ったんだろ? 心配はしたが、信じてたから問題ないよ。それでカトリーヌの様子はどうだい?」
「はい、目を覚ましたので大丈夫だと思います」
「それは良かった! 上手くいったのだったら、もっと胸を張りなさい」
「ありがとうございます」
朝食をとって会議に出席する準備をする。と言っても、貴族用の礼服に着替えるだけなのだが……。
「ちょっと派手過ぎない?」
「そうでしょうか? エドワード様にピッタリではないかと」
ジョセフィーナとアスィミに手伝ってもらいながら着替えているその服は、ワンダリングデススパイダーの布で作られている。青を基調としたデザインで、豪華な刺繡が施されていた。
カトリーヌさんとセリーヌさんが気合いを入れて作ったと言っただけのことはある、凄い出来栄えだ。
「おっ、エドワードなかなか似合ってるじゃないか」
父様のもカトリーヌさんとセリーヌさんが作ったので凄くカッコいい、僕の中に眠っている、父様の遺伝子はいつ開花するのだろうか?
「ありがとうございます。父様もよく似合ってますね」
「ありがとう。これが鉄の鎧よりも強度があるっていうのは驚きだよ」
父様と会話していると、母様たちがやって来る。
「ハリー、もう出発するのね?」
「ああ、行ってくる。今日は悪いけど、みんな外出は控えてね」
「もちろん分かってるわ」
「それじゃあ、フォルティス。ソフィアたちの事は頼んだよ」
「お任せください」
「エドワード、馬車に乗って行くよ」
「分かりました」
僕と父様が乗ると馬車が走り出す。騎士団長は母様たち女性陣の護衛のため屋敷に残していくらしい。ジョセフィーナやアスィミもお留守番だ、僕の護衛は父様がするそうで、最強の護衛が爆誕したことになる。ウルスも空間収納庫に入れてあるので、準備は万全だ。
「ああ、そうだ。会議の場は帯剣禁止なんだ。指に嵌めている収納リングもダメだから空間収納庫にしまっておくといい」
「空間収納庫は良いのですか?」
「良いと言うか、僕たち以外は空間収納庫の存在を知らないから、黙っておけばいいだけだよ」
「分かりました。リングは空間収納庫に入れておきますが、魔術を使える人はどうなるんでしょうか?」
「魔術については、魔術を発動出来なくするアーティファクトがあってね、会議の場や謁見の間など、一部の部屋では使えないようになっている」
「そんな道具があるんですね」
「まあ、僕にしてみれば、ウルスの方がよっぽど凄いアーティファクトなんだけど、次に会議の流れを説明しておこう」
「はい」
「まず、エドワードは会議が始まると、メイドが呼びに来るまで待機部屋で待つこととなる。会議の最初の議題は、帝国との戦いの結果報告と論功行賞になるので、すぐに叙爵することになるだろう。その後は伯爵として会議に参加すればよい」
「分かりました」
「次に、衛兵に捕まったブラウのことについてだ。経緯についてはジョセフィーナから聞いたが、エドワードはブラウにいったい何をした?」
「そうですね、ブラウが怒鳴り僕を捕まえようと襲ってきたので、フードの中にいたウルスでズボンを下ろさせて、ワンダリングデススパイダーの毒に持続勃起症という効果があったので少量を毒糸で刺しましたね」
「なるほどそれで……ブラウがエドワードを捕まえようとしているのは、目撃者もたくさんいたため言い逃れようがない事実なんだよね」
「そうでしょうね。実際それを狙ったので」
「結論から言うと、王城に移されたようだけど現在も牢屋の中だ」
「えっ! そうなんですか? てっきり伯爵と証明されて釈放されていると思ったんですが」
「それがね、話を聞いて分かったんだが、どうやらエドワードの使った毒がまだ効いている上に、興奮して暴れているようでね……」
なるほど、下半身が元気なまま興奮している変態伯爵認定で王城に護送されたということか。
「それでは、ブラウは会議には参加出来ないってことになるのでしょうか?」
「ブラウには帝国との戦争で嫌疑がかけられているから、拘束したまま連れて来ることになるだろうね」
会議に連れて来るなら、拘束されていた方がおもしろいな。
「後はブラウをどこまで断罪するかですね……」
「そうだね。エドワードがダメ押しで罪を増やしてくれたから、後は王家次第かな」
馬車が王城に到着する。メイド服を着たメイドたちが存在感を出していた。僕は父様と別れて控室に案内される。
「ふう、後は会議が始まるのを待つだけだな」
◆
控室にいるとメイドが呼びに来た。思ったより早かったな。
「エドワード様、陛下が特別に最初から参加せよと仰っていますので、お迎えに上がりました」
「最初からってことは、まだ始まってないのですか?」
「はい、現在エドワード様待ちになっています」
「……分かりました。行きましょう」
メイドの後を着いて行き、会議の会場へ向かう。
「ここが会場になります。皆さん既にお揃いです。エドワード様は陛下右手のヴァルハーレン大公様の隣に席をご用意してございますので、陛下へ一礼してからお座りください」
「分かりました」
僕が返事をすると、大きな扉が開かれた。
会場には全貴族、いや、ブラウ以外の貴族が一堂に会しており、一番奥の数段高いところの玉座に陛下が座っている。
陛下から一段下がった左手に宰相が座り、右手に父様が座っていて、その横に椅子が用意されていた。
更に一段下がったところに4人が向かい合わせで座っている、ヴァッセル公爵とハットフィールド公爵の姿が確認できるので、後の二人がバーンシュタイン公爵とモトリーク辺境伯なんだろうと思う。
残りの貴族は更に一段下がったところで、陛下の方を向いて座っている。
大公家や公爵家の人は背もたれ付きの椅子に座っていて、下段の人たちは背もたれが無い椅子に座っている。もちろん、僕の分の椅子も背もたれが無い椅子だ。
みんなに注目されながらも、歩いて用意された席まで行くと、陛下に一礼して座ったのだった。




