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第158話 カトリーヌ

 どれくらい時間が経ったのだろうか、目を覚ました僕は辺りを見回すが、真っ暗で何も見えない。


 体も地面に寝ていた訳ではなく、フワフワと浮いているように感じる。


 ここはカトリーヌさんの精神の中なんだろうか?


 そうだとしたら完全に闇の中だな……出口とかはあるのだろうか?


 闇雲に動いて、取り返しのつかないことになってはまずい、しっかり考えてから行動するんだ。


 よし、まずは呼びかけてみよう!


「カトリーヌさ――ん!」


 何も変化は起きないな。この闇を癒しの魔法で祓えないだろうか?


 癒しの魔法を四方八方に放つが、まったく効果は表れない。


 うーん、お手上げだけど、何か手掛かりはないかな?


 少しだけ動いてみようと、じたばたしてみるが、やはり浮いているみたいなので、動くのも難しい。


 どうしようと頭を抱えたその時、手が何かに引っ掛かった。


 なんだこれは? 真っ暗で何も見えないのは相変わらずなんだけど、僕の頭から、糸のようなものが生えているのが分かる。


 手掛かりはこの糸だけだ。軽く引っ張ってみても、どこかに繋がっているようで、外れることはないみたいだ。


 よし、引っ張ってみよう。糸を手繰り寄せると、何となく体が移動しているような気がしたので、そのまま続けてみよう。


 かなり長い時間、糸を手繰り寄せ続けたところで遂に光が見えた! 光はまだまだ遠いが、変化が現れたことでやる気も出てくる。


 そして光の側へ辿り着くと、その光は直径3センチほどの小さな光で、糸はそこから出ていた。


 ◆


 光を見つめることおよそ10分。意を決して、その光に触れてみると意識を飛ばされた感覚の後、1つの光景の中に落ちる。


 赤ん坊にお乳を上げているカトリーヌさんで、その表情は穏やかで幸せそうだ。


 赤ん坊の方は特徴から察するに、僕なんだろうと思う。さっきの光と糸は、僕とカトリーヌさんの繋がりなのかもしれない。



 さて、ここからどうする? 何か手掛かりがあるはずだ。カトリーヌさんから僕は見えてないらしく、赤ん坊の頬をツンツンしてみると、赤ん坊は笑い出した。


 赤ん坊の僕よ、ヒントをくれよと思うと、赤ん坊は笑うのを止めてカトリーヌさんの頭を見つめているような気がしたので、カトリーヌさんの頭を見てみる。


 そこには糸があり、どこかに繋がっているようだ。糸を辿って行くと、コラビの森の浅い所に辿り着いた時、僕はまた光に飲み込まれた……。


 ◆

 

 そして目の前にいたのは……髪の長い若い女性。歳は15、6歳ぐらいだろうか。しかし胸の大きさや特徴から考えるとカトリーヌさんで間違いないだろう。その髪の長いカトリーヌさんの視線の先にはメグ姉と赤ん坊の僕がいる。


 そのメグ姉がぐったりした赤ん坊に口付けをするとメグ姉から赤ん坊に向かって光が入って行く……そうか、カトリーヌさんが前に言ってた命を分け与えていた光景なんだな……。



 カトリーヌさんの頭に付いている糸を辿って行くが、そこからの光景はカトリーヌさんにとって辛いものばかりで、このままだと僕の心の方が先に折れそうだ。


 糸を辿り続け、遂にメグ姉が言っていた光景に辿り着いた。今、目の前にはカトリーヌさんとブラウ、そして家令風の男の3人だけだ。



「私の赤ちゃんを返して!」


「何が私の赤ちゃんだ! 俺様に意見するな! 貴族と少しだけ結婚出来ただけでも、平民には光栄なことなんだぞ。全く女一人始末するのにアヴァールが面倒くさい事を考えるから、時間がかかってしまったではないか」


「まあ、クリストフ様。この女は王都でも有名なのです。その有名な人間があのタイミングで殺されれば疑われてしまうでしょう。こうしてただ殺すだけでなく、絶望を遭わせてから殺したほうがより楽しめますでしょう?」


「まあ、そうだな。さてカトリーヌ、平民の癖に俺様へいちいち楯突きやがって。全く高貴な私の血に、汚い平民の血なんぞ混ぜた子を産みやがって……」


「お願い止めて! 私の赤ちゃんに何するの⁉」


 ブラウはアヴァールから剣を受け取ると、赤ん坊に突き刺す。


「嫌ァーッ!」


 カトリーヌさんはその場で崩れ落ち茫然とする。


「クックック、いいねぇーその表情、心配しなくても赤ん坊の下に送ってやるよ」


 ブラウはカトリーヌさんに一歩一歩近づく。



 おかしい……カトリーヌさんはとても逃げる事が出来る状態じゃない。このままでは殺されてしまうじゃないか……。


 考えている間にもブラウはカトリーヌさんに近づいて、ついにカトリーヌさんの目の前まで行った。


「いい胸をしているから、平民でなければ飼ってやったのだが、自分の血を呪え、俺様の商売を邪魔した女よ!」


 剣を振り上げた瞬間、我慢できなくなった僕は、風の魔法をブラウに放つ!


「何がっ⁉」


 風の魔法はブラウとアヴァールを吹き飛ばす。


 どうして、魔法が効いたのかは分からないが、今がチャンスとカトリーヌさんを抱えると、森の方へ向かって逃げた。


 森の近くまで来ると、木に糸を巻き付けて、とにかく遠くまで逃げる。


 どうしよう……勝手な事をしてしまったのでは? 記憶の中とはいえ、カトリーヌさんを見殺しにする事はできないと言うか、どうして干渉出来たんだ……。


 どうせなら、ブラウを殺してしまった方が良かったんじゃないのか? それより、これからどうすれいいんだ?


 カトリーヌさんは、目の前で我が子を殺されて完全に壊れてしまっている。精神に入る前のカトリーヌさんと同じ状態だ。


 残念ながらカトリーヌさんに、もう糸はついていない……。


 ここはおそらくブラウ伯爵領……王都まで連れて行くことができれば、セリーヌさんに預けられるだろうか?


 何が正解か解らないが、カトリーヌさんに触れられる以上は守るしかない。


 幸いステータスのせいか、カトリーヌさんを持ち上げることはできるので、カトリーヌさんをおんぶして糸で固定した。


 頭に乗っかっているのだが、今はとにかく移動しなければと、糸を使って移動する。


 夜になるとアーススライムの糸でテントを作り野営するのだが、最初は無反応だったカトリーヌさんも何日かすると変化があり。日中は無反応なんだが、夜になると僕を抱きしめて寝るようになった。



 そして移動すること2週間、ようやく王都に到着するのだった。しかし、カトリーヌさんの服装はあちこち破れてボロボロだ、このまま王都に入れるのは難しい。


 王都に入って購入してくるか……いや、カトリーヌさんのサイズに合った服が、普通に売っているとは思えないな。


 そうだ、カトリーヌさんの服は能力で取り込んであるから作れるんだった。能力でカトリーヌさんの服を出して着替えさせる。


 ようやく王都に入ることが出来た。カトリーヌさんは手を引けば歩けるぐらいには回復していたので、そのままセリーヌさんの店に連れて行くが店は閉まっていた。


『仕入れのため休業』と木の札が掛けてあり、どうやらセリーヌさんが今王都に居ないようだ。


 どうしよう、一旦外へ出るか? そうだ、虹彩館があった! 確か虹彩館の支配人ソントーンさんは7年前カトリーヌさんが泊まったと言っていた。セリーヌさんが王都にいるのになんで泊まったのか少し引っ掛かっていたのだが、その時もセリーヌさん不在だったのかもしれないな。



「いらっしゃいませ」


「すみません、宿泊したいのですが、空きはありますか?」


「申し訳ございません、現在ダブルの部屋1部屋だけしか空きがございません」


「それではそこへ取りあえず7泊分お願いします」


「畏まりました。7泊で金貨14枚になります。食事は朝夕付きますが、食べなくても金額は変わりませんのでご了承ください」


「分かりました。金貨14枚です」


「確かに、それではお部屋を案内しますのでこちらへ」


 後をついて3階へ行く。


「こちらがカトリーヌ様のお部屋になります。ご用命がございましたら、各階に従業員が待機しておりますので、お申し付けください」


 そう言うとソントーンさんは去っていった。


 ベッドにカトリーヌさんを寝かせると、僕も少し離れた所で横になる。疲れた……かなりの時間がかかってしまったが、王都に到着する事ができた。


 これからどうする? もしかしてもう帰ることが出来ないのだろうか……王都に到着したせいか急に不安になってきた……。


 帰れなかった場合、ここの僕は今どんな状態なんだ? 考えが纏まらない……。



 不安に駆られていると、突然カトリーヌさんに抱きしめられ、顔がうずめられていく。


 カトリーヌさんがそのまま僕の頭を撫で始めると、急に眠気が襲ってくる。旅の最中も何回かあったのだが、これはカトリーヌさんの能力なんだろうか?

 

 取りあえず今は、この抗いようのない眠気と、深い安心感に身をゆだねることにした。


 ◆


『エディ君、私を見捨てないでくれてありがとう』

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