第153話 クリスタ殿下とお茶会
叙爵することが決まり、3人で色々な話をしていると、あることを思い出した。
「そうだ! 宰相様だったらクリスタ殿下に会う機会もありますよね?」
「クリスタ殿下か? そうだな、同じ王城に住んでるからよく会うな」
「やっぱりですか! だったら、これを渡してもらえませんか?」
そう言って箱に入れたグランタオルを取り出す。
「これは何だ?」
「モイライ商会の新製品で、グランタオルと言います」
「ほう、グランタオルとな?」
「以前お茶会に招かれた時、クリスタ殿下からバスタオルより大きなサイズの物が作れないかと質問がありまして、それを実現したのがこれです」
「ふむ、それをクリスタ殿下に渡せばよいのだな?」
「はい、お願いします」
「……そうだな、ちょうど良いことに今、我が娘のステラとクリスタ殿下はお茶を飲んでいる筈だ、そこへ持っていったらどうだ?」
「いえ、お邪魔しては申し訳ないので、お渡し下さるだけで大丈夫です」
「誰か⁉︎」
「はい、宰相様」
メイドがやって来た。
「クリスタ殿下とステラがお茶会をしている筈だから、エドワードが行ったらまずいか聞いてきてくれ」
「畏まりました」
メイドさんは去って行ったのだが、今のメイドさんに渡せば済んだんじゃないのだろうか……。
しばらくすると、メイドさんが帰ってくる。
「エドワード様なら、ぜひお越しくださいとのことです」
「では、エドワードは行ってくるがよい。心配せんでも帰りは馬車を出してやるので、安心して参加してこい」
先に逃げ道を塞がれてしまったようだ。
「エドワード様はこちらへ」
「分かりました……」
メイドの後をジョセフィーナと2人でついて行く、前回同様庭園に出るが、前回とは違う方向へ向かうようだ。
向かった先には2人の女の子がいて、1人はクリスタ殿下で、ホワイトブロンドの髪色にピンクダイヤモンドのような桜色の瞳が特徴の女の子。
もう1人の女の子が宰相様の娘のステラ嬢だろう。ウェーブがかかったダークブロンドの長い髪にパライバトルマリンのような青緑の瞳が特徴だ。
「クリスタ殿下にステラ様、お茶会の最中にお邪魔して申し訳ございません。エドワード・ヴァルハーレンにございます」
「エドワード様、よくいらしたわ。おかけになって」
「分かりました」
用意された席に座る。
「クリスタ、私もエドワード様にご挨拶してもよろしいでしょうか?」
ステラ嬢がそう言うと、クリスタ殿下は頷く。
「グレイベアード宰相家、次女のステラ・グレイベアードです。エドワード様と同じ7歳になります。私の事は『ステラ』とお呼びください」
「ステラずるいわ。エドワード様、私も『クリスタ』で構いませんのでそうお呼びください」
「では、他の人がいない時はそうお呼びいたします」
「少し早いようですが、エドワード様も会議のために王都入りなされたのですか?」
「そうですね、今回は陛下に頼まれた品を納品するため早めに王都入りしたのですよ。先ほどステラのお父上に納品していたのです」
「そうだったのですね。ところで、クリスタが聞きたそうなので代わりにお聞きいたしますが、その背中のぬいぐるみはファッションなんでしょうか?」
「――!」
「まいどっ!」
「「喋った⁉」」
しまった! さっきウルスを片付けるの忘れてたっていうか、また背中にくっついていたとは……全然重さ感じないのね……さすがはミネルヴァ印というか、ジョセフィーナ、知っていたのに言わなかったな。
「申し訳ございません。片付けるのを忘れてました。一応、僕の従魔のウルスと言いまして、こんな姿ですがゴーレムらしいです」
「触っても大丈夫でしょうか?」
僕は頷いてクリスタ殿下に渡す。
「凄くモフモフでとても良い肌触りです!」
タオラーなクリスタ殿下は、ウルスのモフモフも好きなようだ。
「クリスタ、私にも触らせて」
「はい、ステラ」
「クリスタの言う通り初めて触る肌触りですね……」
「今回、クリスタの所へ会いに来たのは、頼まれた物が完成したので持って来たのです」
「もしかして、大きなバスタオルですか⁉︎」
「その通りです。グランタオルと名付けました」
そう言って木の箱に入ったグランタオルを渡す。
クリスタ殿下が箱を開けようとすると、専属侍女らしき人が箱を開けるのを手伝う。凄く仕事が出来そうな感じの女性だ。
「まぁ! これは凄いですわ!」
クリスタ殿下はグランタオルを箱から出して、その肌触りを堪能する。
「以前のバスタオルやタオルと比べると肌触りが各段に違います! これは素晴らしい物です!」
「今回、寝具にするにあたって肌触りを追求いたしました」
「凄いですわ!」
「クリスタ、私も触ってみてもいいかしら?」
「もちろんよ! ステラ、今日は私の部屋で一緒に寝ましょう」
ステラもグランタオルを触ってビックリする。
「これは凄いです! タオルやバスタオルも凄いですが、これはその数倍上というか全くの別物ですね!」
「エドワード様、これを本当にいただいてもよろしいのでしょうか?」
「もちろんですよ。その肌触りのものは作るのに時間がかかるため、まだ発売しませんが、その大きさのものは順次発売しますので、今回はアイディアをくれたクリスタにプレゼントいたします」
「ありがとうございます!」
今日一の笑顔が眩しいですが、ステラが若干羨ましそうに見ているな……だから宰相様から渡してくれるのが一番だったのに、それともこれも宰相様の作戦なのか?
「そうだ! グランタオルは試作品のそれしか用意してないので、ステラの分はないのですがこれで良ければ……」
そう言うと僕は量産型ウルスを2個取り出す。
「これは、そこにいるクマさんと同じゴーレム?」
「これはウルスのモフモフ感を再現したぬいぐるみです。発売するかどうかは未定ですが、もしお好きなようでしたらどうぞ?」
「よろしいのですか⁉︎」
どうやらお好きなようだ。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます!」
「あのっ! エドワード様……」
「どうしました?」
「厚かましいのは分かっているのですが……その……もう1つのクマさんは……?」
「もちろんクリスタの分ですよ」
「ありがとうございます!」
「1つだけ2人に聞きたいのですが、そのクマのぬいぐるみって販売したら売れそうですかね?」
「「絶対に売れます!」」
即答だった。
「まず、そこのエレンが買いますわ」
「クリスタ殿下!」
クリスタ殿下の侍女はエレオノーラと言うらしい。デーキンソン侯爵家の長女で16歳だそうだ。ステラとよく似た雰囲気を持っている。そして無類のぬいぐるみ好きらしい。
「まぁ、買いますけど。エドワード様、1つだけ言わせていただきますが、そのぬいぐるみは販売すれば売れるなんてもんでは済まないでしょう! そのような肌触りのぬいぐるみこそ私たちが待ち望んでいた物なのです!」
熱量が半端ないな……。
「そこまで、ぬいぐるみが好きなのですね……」
エレオノーラさんはヒートアップしてしまったことに気がついて恥ずかしそうだ……若干涙目でもある。
「それでしたら、これをどうぞ」
昨日作ったのは3個だったので、最後の1個をエレオノーラさんにプレゼントする。
「よろしいのでしょうか⁉︎」
「ええ、試作品3個のうちの最後の1個ですが、良かったらどうぞ」
「ありがとうございます! 大切にしますねっ!」
そう言ってエレオノーラさんはぬいぐるみを抱きしめる。
「このような姿のエレンを見るのは初めてですね。エドワード様、凄いです!」
何が凄いのかは分からないが、最初に見た出来る女のイメージは、もう二度と帰ってくることはないだろうと思う。
この後、タオルやぬいぐるみの話で盛り上がっている中、ボア生地じゃないもう1つの生地を投入するのは先送りしようと、心に決めたのだった。




