第148話 ビアンカ
エミリアさんがビアンカさんにバスタオルの良さを説明するためにお風呂へ行くことになったのだが……。
なぜか現在お風呂に入っている……僕まで必要だったか?
「エドワード様まで一緒に入られるのですね……それにしても、このような凄いお風呂は初めて見ました。貴族の間では普通なのでしょうか?」
頬を赤くするビアンカさん、かなり色っぽい。しかし、見た目通り薄めで着瘦せするタイプではないようだ……何がとは言わないが、エミリアさんよりは少しだけ大きいぐらいだろう。
商人ギルドの職員になるには大きくてはダメなんだろうか?
……いや、ローダウェイクの商人ギルドでヴァルハーレン家専属のギルド職員として働いているアリアナさんは大きいからさすがに関係ないか。
「このお風呂はニルヴァ王国様式らしいです。それを気に入ったエドワード様のおばあ様であるクロエ様が真似た物らしく、ここはクロエ様が特別に造らせたエドワード様専用のお風呂です」
「えっ! ここって僕専用だったんですか!?」
「エドワード様、ご存知なかったんですか?」
「いつもみんな入って来るから知らなかったよっていうか今初めて聞いたんだけど」
まさかこの大浴場が僕専用だったとは……多分、父様やおじい様専用とかもあるってことだよね。
「エドワード様は……あなたを洗ってもらうのに必要だったので一緒に入って頂きました。ちなみに私も一緒に入る時は洗っていただいております」
それ、今聞いたんですけど。
「皆さん、エドワード様に洗ってもらうのですか?」
一緒に入って来たメグ姉、ジョセフィーナ、アスィミが頷く。
「そうよ! まあ、お手本を見せてあげるわ! エドワード様どうぞ!」
エミリアさんはそう言うと仁王立ちになる。薄くても自信に満ち溢れたその姿、見事です!
「それでは、ミラブール」
魔法を使うとエミリアさんは水球で包まれ洗われていく。
「えっ、今のは!」
「僕だけが使える身体を洗う魔法ですね」
「そのような魔術があるのですか!?」
「魔術ではなくて魔法ですね、その辺の事はうちで働くようになった時、エミリアさんから聞いてね」
話をしている間にエミリアさんの洗浄が終了する。
「ビアンカ、私の肌を見てみなさい?」
エミリアさんは仁王立ちを続けたままだが、ビアンカさんが肌を触る。
「――!」
「どう? 凄いでしょう」
「凄いですっ! どうしてこんなに! エミリア先輩私より5つも歳上なのに、お肌がきめ細やかでしっとりしています」
仁王立ちだったエミリアさんはガックリしゃがみ込んでいじけてしまう。
「どうせ私は25歳の行き遅れですよ……」
「申し訳ありません! そう言うつもりで言ったわけでは! 私よりも肌艶が良かったのでつい……」
「まあ、良いのです。私は色恋よりも仕事に生きる女なんです!」
どうやら立ち直ったみたいだ。
「と言うわけで、ビアンカもエドワード様に洗ってもらいなさい!」
「分かりました! エドワード様、お願いします!」
仁王立ちになるビアンカさん……それは洗う時のポーズじゃないんですけど……裸で仁王立ちする姿は美人と言えどもシュールだ。
「ミラブール」
水球がビアンカさんを包み洗浄していく。ビアンカさんは初めて洗うので2回洗ってあげたのだが、1度目の水球はかなり汚れが浮いていたので恥ずかしそうにしていた。
ちなみに、エミリアさんを初めて洗った時は『普段から洗っているのにまだこんなに汚れが落ちるなんて興味深いです!』なんて言った後、僕に体を洗わせる商売をやらせようとしていたので止めておいた。
「体が嘘のようにスッキリして肌も全然違いますね」
「そうでしょう! 私たちがやっている普段の洗い方では全然汚れが落ちてないということね」
「そうだったんですね。興味深い話ですが、商会とは関係のない話ですよね」
「そうね、エドワード様に洗ってもらったのは単なるサービスよ」
どっちへのサービスなんだろうか……。
「本命は身体を洗った後よ! さあ行くわよ!」
そう言ってエミリアさんはお風呂から上がる。
「さあ、ビアンカ。ここでバスタオルの登場です! これで濡れた体を拭いてみなさい」
ビアンカさんが、エミリアさんに言われるままバスタオルで体を拭くと。
「――! 凄い、水気が直ぐに拭き取れます! しかも肌に優しい拭き心地」
「そうでしょう。このローダウェイクでエドワード様のお披露目会も兼ねたパーティーが行われました。その時、他の貴族たちの宿泊先にこのバスタオルやタオルなどが置かれ、貴族たちは使用したのです」
「なるほど……確かにこれを知ってしまったら、普通の布で拭きたくなくなりますね」
「その通りよ!」
ビシッと聞こえそうなポーズで返事をするが、エミリアさん服を着てからの方がいいと思います。
着替えて部屋に戻った僕たちは話を再開する。
「タオルとバスタオルの良さは分かったと思いますが、これはほんの一部の商品にすぎません。基本的にモイライ商会の商品は、どの商品も飛ぶように売れるので常に在庫不足が続いています」
「そうだったの!? もっと在庫増やそうか?」
「いえ、バスタオルなどを購入できなかった人たちが、手ぶらでは帰れないと店内の商品を見た結果、他の商品も質が良いと分かり購入するといった、とても良いサイクルが出来上がっているので、しばらくはこのまま続けます。タイミングを見計らって販売量は増やしていき、ある程度上級貴族に行き渡ったタイミングで、更に高級なタオルなどを投入して行きますね」
「更に高級なタオルがあるんですか?」
「エドワード様、ビアンカに見せてあげてもらえますか?」
高級バスタオルを1枚取り出し、ビアンカさんに渡す。
「これはっ!」
「ふふっ、凄いでしょ? その圧倒的な肌触り、普通のタオルに慣れたタイミングで投入すれば上級貴族はまた買いに来るし、今まで買う事が出来なかった下級貴族は普通のタオルを買う事が出来るようになるというわけよ!」
エミリアさんめっちゃ考えてるんだな。
扉がノックされてメイドが入ってくる。
「エミリア様、カトリーヌ様たちをお連れしました」
「入ってもらって!」
中にカトリーヌさん、レギンさん、マーウォさんの3人が入ってくる。
「――! 3人がなぜここに!」
ビアンカさんは3人の登場でさらに衝撃を受けたようだ。
「メグから聞いてたけど、本当にビアンカが来たのね。私たち3人今はモイライ商会で働いているのよ」
「という事は最初っからエドワード様を追いかけて行ったということなんですか?」
「そうよ、私たちエディちゃん無しでは生きられないのよ!」
マーウォさん、変な誤解を生みそうなんで、その言い方は辞めてもらいたいです。
「まあ、その辺りはビアンカが小僧の商会に入れば分かるわい」
「……その、3人……いえマルグリットさんも入れた4人は、コラビの町でスタンピードが起きるのは分かっていたのでしょうか?」
「そんなの分かるわけないじゃない」
メグ姉が冷たく言う。
「そうね、ビアンカから見ればタイミングが良すぎるように見えるのね。でもジャイアントスパイダーなどが見つかった時点で動かなかった領主や冒険者ギルドが悪いんじゃないかしら?」
「……そうですね。失礼なことを言って申し訳ございませんでした」
「まあ、いいけど。ビアンカに1つ聞きたかった事があるの」
「マルグリットさん、なんでしょうか?」
「殆どの住民が無事だったとは聞いてるのだけど、孤児院の子たちも無事だったのか知らないかしら?」
「無事だったんじゃないの?」
「エディ、残念ながらこういった話の場合、孤児院の子は住民の数に含まれていないのよ……」
「そんな!」
「マルグリットさんの言う通りなんですが、今回の場合は無事だったというか、新しく赴任なされた神父様が孤児の面倒を見る余裕がないという事で、他の町の孤児院に移動させてしまったようです」
「あの神父!」
「しかし、マルグリットさん。今回はそのお陰で助かったと言えましょう。神父様は自身の財産を全て持ち出そうとしていたらしく、数少ない魔物による犠牲者の1人なので。孤児院の子たちがいたなら手伝わされて巻き込まれていた可能性が高いです」
「――! 確かにそうね……これも運が良かったのかしら……」
メグ姉が僕を見つめる。
「まあ、積もる話は後にしてビアンカはどうするの? モイライ商会で働くか決めたかしら?」
「はい……よろしくお願いいたします」
ビアンカさんのモイライ商会入りが決まったのだった。




