第147話 石鹸
「それではウルス先生お願いします」
「よしエドワード、私の言う通りに作るのだ!」
ようやく石鹸を作れそうな時間が出来たので、ウルスに指導してもらって作って見ることとなった。石鹸は今後モイライ商会でも作る事になるのでエミリアさんも参加している。
「それではエドワード、まず最初にオイルを温めておいてから、次にこの中にナトリウムの糸を出して」
「分かったよ」
オリーブオイルの入った器を湯煎して温め、次にナトリウムの糸を出していく。
「ストップ! そのくらいかな」
出している最中に白銀色だったナトリウムも切り離すとすぐに酸化してしまう。
「次は魔法で水を出して、この中に入れて」
「了解」
容器の中に魔法で水を入れていく。
「そんなもんかな、それじゃあ水の中にナトリウムを入れるんだけど素手で触らないようにね。水の中に入れたらカタストロフィプシケの布を直ぐに被せるんだよ」
「カタストロフィプシケの布を被せるのはどうして?」
「ナトリウムは水の上を漂ったあと、炎を上げて爆発するから破片が飛び散らないようにするためだね」
「この量でも危険なの?」
「その通りです」
容器の中にナトリウムを入れてカタストロフィプシケの布を被せると弾けたような音がする。
「これで所謂、苛性ソーダ水の出来上がりとなります」
「先生! 質問があります」
「はい、エミリア君!」
「その苛性ソーダ水はエドワード様でないと作れないのではないでしょうか?」
「現状はそうなりますね、逆に言えば苛性ソーダ水さえあれば誰でも作れるんですが」
「分かりました」
「では、苛性ソーダ水を温めたオイルの中に少しずつ注いで20分ぐらいかき混ぜます。苛性ソーダ水はナトリウムを入れることによって温度が上がるから、それぞれの器を触ってみて出来るだけ温度が近くなったら注いでね」
なるほど温度を合わせるためにオイルを湯煎したのか。かき混ぜるのはジョセフィーナとアスィミがやってくれた。
「そのくらいの固さで大丈夫だから型に流し込んで」
2人が型に流し込んで行く。
「それで保温箱にいれて24時間保温して、その後型から取り出しカットしてから1カ月乾燥させれば完成だよ」
「なるほど、確かに苛性ソーダ水さえあれば簡単に作れますね……」
「香水などを混ぜれば匂いのついた石鹸も作れますよ」
「エドワード様! それは本当ですか?」
「ウルスそうだよね?」
「そうですね。匂いや色を着けることもできるので後は色々試してみるしかないね」
「なるほど……これで本当に汚れがよく落ちるのであれば大ヒット間違いなしですよ!」
「じゃあ取りあえず1カ月後に試してみるって事でいいかな?」
「そうですね……1カ月後というのが、もどかしいですね」
「まだ、グランタオルとかもあるんだから、急がなくても大丈夫なんじゃないですか?」
「そうでした。昨日グランタオルを使ってみましたがあれは良いものですね! 絶対に売れます!」
「そう? だったら良かったけど」
「ただ、高級タオルの方はもう暫く発売しない事にします」
「やっぱりそうなるんだね」
「まあ王女様に献上する分には問題ありませんので大丈夫ですよ」
「もし聞かれたらどうすればいいですか?」
「作るのに時間がかかるって言っておけば大丈夫ですよ。誰も作り方なんて分からないのですから」
「まあ確かにそうだね」
「綿で作られていることは見れば分かりますので、カモフラージュ用に買う綿の量を増やしましょう。そうすれば、もう少しバスタオルやグランタオルの販売量を増やしても大丈夫なはずです」
「その辺りがエミリアの凄いところだよね。僕ならコストが魔力だけだから、綿を買うなんてことはしなかったよ」
「あまり市場の量を崩すと綿を作っている人たちが苦しむことになりますので、その辺りは今後も調整していきます」
「うん、お願いするよ」
会話がひと段落したところで、メイドが来客を告げる。
「エミリア様、ビアンカ様という方がお見えになっておりますが?」
「ビアンカが? 応接室に通してあげてもらえるかしら?」
「畏まりました」
「ビアンカさん、来てくれたんだ。よい返事だといいのだけど」
「エドワード様も最初一緒に挨拶なされますか?」
「そうだね、行こうかな」
◆
エミリアさんと応接室に向かうとビアンカさんがいた。
「エドワード様にエミリア先輩」
「ビアンカさん、来てくれたってことはモイライ商会に興味を持ってくれたってことなのかな?」
「ビアンカが帰ってきているとは思いませんでした。あとエドワード様また『さん』がついていますので気をつけてください」
「ごめんね、つい前からそう呼んでいたから」
「……」
ビアンカさんが無言で何か床の方を見ていると思ったらヴァイスに乗ったウルスがいた……。
「あの……それは?」
「よろしく!」
「喋った!」
「ウルスも着いてきちゃったんだね。その2匹は僕の従魔で狼の方がヴァイスで、その上に乗っているのがゴーレムのウルスだよ」
「このぬいぐるみ! ゴーレムなんですか⁉︎」
「そうなんですよ、遺跡で発見しまして見た目はぬいぐるみなんですが、ゴーレムらしいです」
ついでに言うと見た目はぬいぐるみだけど、中身はおっさんでもある。
「そうなんですね、ビックリいたしました」
「エドワード様と一緒にいて、このくらいで驚いてたらキリがないけど、確かにウルスちゃんはビックリに値するわね」
驚くのか、驚かないのかどっちなんだ!?
「それでご両親と相談してみるってエドワード様に言ってたみたいだけど、どうだったのかしら?」
「両親とも相談したんですが、商人ギルドよりも、モイライ商会の方が絶対にいいと言われまして」
「へー、そうなんだ」
「モイライ商会の名は今やヴァルハーレン領だけに留まらず、ヴァーヘイレム王国で一番話題の商会だからよ」
「ヴァルハーレン領だけじゃないの?」
「エドワード様甘い! スフレパンケーキを砂糖と蜂蜜に漬け込んだぐらい激甘です! 毎日のように各地の貴族の使いが、朝早くから並んでいるのですよ? ウェチゴーヤ商会も無くなった今、エドワード様の覇道を邪魔する者はいません!」
スフレパンケーキを砂糖と蜂蜜に漬け込むって、想像しただけで激甘だな。あと覇道ってなんだ? 天下の支配なんて考えてないからね?
「えっ、ウェチゴーヤ商会無くなったんですか?」
「あら、ビアンカ知らなかったの?」
「スタンピードで、それどころではなかったので」
「そう言われればそうね……まあ潰したのもエドワード様なんだけどね。ビアンカ、モイライ商会に入りなさい。あなたなら出来るわ」
「出来るって何が?」
「ええ、王都に出す店舗の支配人!」
「へっ?」
なるほど、王都に出す店舗を任せるのか、いいアイデアだな。モイライ商会は現在人手不足だ。
募集を出せば人は集まるのだが、最近はスパイが多いみたいなことを言ってたからな。
その点、ビアンカさんなら素性もはっきりしているし、商人ギルドでの実績もあるから安心かもしれない。
「ビアンカどうかしら?」
「いきなり王都に出す店舗の支配人と言われましても……」
「相変わらず自信が足りないのね……そうだわ! エドワード様、タオルとバスタオルを見せてあげてもらえますか?」
「いいですよ。はい、どうぞ」
ビアンカさんにタオルとバスタオルを手渡した。
「これは?」
「今、各地の貴族が挙って買いに来ている商品よ! まあ他にも貴族が狙っている品はたくさんあるんだけど」
「これをですか? 確かに見たこともない織り方で、柔らかい肌触りですが、そこまでの物なんでしょうか?」
ビアンカさんがそう言った瞬間、みんなの目が光った! ……ように見えたのだが気のせいだったようだ。
「それもそうね、あなたはまだ使ったことがないからそういう感覚なのね……お風呂に入りましょう!」
そう言うと、エミリアさんはビアンカさんをお風呂に連れて行くのでした。




