第145話 冷蔵庫の改良
「なんじゃこの堅い木は? 儂も初めて見るぞ」
「そうなんですか? カラーヤ侯爵領の開拓を阻んでいる木なんですけど、レギンさんなら何か知っていると思ったんですが」
カラーヤ侯爵領で伐採してきた木をレギンさんたちに見せていたのだが、レギンさんの斧でも手こずるようだ。
「こんな堅い木が生えていては開拓が進まんのも納得だな。おそらく魔の森にある木の1つだろう」
「魔の森に生えている木から種が飛んできたのかな?」
「おそらくそうだろう。通常は魔の森の木々や植物は魔の森以外では育たないが、偶々育つ品種があったのかもしれんな」
「そうなのかもしれませんね。リュングの能力なら加工できるんじゃないかと思って、たくさん貰ってきたんだけどどうかな?」
「ん、やってみる」
リュングが木に手を当てると、木は柔らかくなったかのように曲がっていく。
「お姉ちゃん、凄い!」
「やっぱりリュングだと加工できるみたいだね」
「私スゴイ」
「リュングだと加工できるのか……小僧の糸でも切ることが出来るのじゃな?」
「そうですね、僕の糸ならいけたので、かなりの数を伐採してきました」
「小僧はこれで何を作るつもりなんじゃ?」
「特に決めてないんですよね。何かに使えないかなと思ってもらってきただけです。あと色々検証してきたので3人の意見を聞きたいなと思いまして」
旅で発見したスライムの特性やカタストロフィプシケの糸の話などをする。
「ほう! つまりマグマスライムが使えるようになったという事じゃな?」
「そうですね、普通のスライムを下に敷けば、周りが燃えることなく使えます。使わないときもスライムをかけておけば安全ですし、室内の温度上昇もないと思います」
「それはいい、試しにここへ置いてみてくれ」
「マグマスライムの温度は、どのくらいがいいですか?」
「そうじゃな、800度で頼む」
普通のスライムの糸を直径1メートル、長さ5センチで出した上に、マグマスライムの糸を直径90センチ、長さ4センチで作り乗せる。
レギンさんはその上に作っている途中の剣を乗せる。しばらくすると、剣は熱せられ赤くなった。
「ほう! これは凄いな、温度が安定していて使いやすそうだ」
「使えそうでよかったです」
「ん、エドワード様も天才」
「エドワード様、私もそれ欲しいです!」
「ん、欲しい」
「もちろん、ロヴンもいいよ。欲しい大きさと温度を決めてねってリュングは何に使うの?」
「カイロと言うのが欲しい。私寒いの苦手」
「カイロの方だねわかったよ。それでレギンさんはどうしますか?」
「そうじゃな、儂は今から工房のレイアウトを変更するから、双子の工房の方を先に作ってやってくれ」
「分かりました」
◆
リュングとロヴンの工房に移動して、ロヴンの指定サイズのマグマスライムを設置して、リュングにカイロを渡す。もちろん期限の制限はつけていない。
「それでエドワード様、次は何を作ればいいの?」
「さすがにパスタマシンはもう飽きました」
「ごめん、かなり頑張ってくれたんだね。エミリアさんがもうパスタを売り出したって聞いてビックリしたよ。次は冷蔵庫と冷凍庫を売り出すから。その完成形を作ろうと思うんだ」
「ん、普通のスライムを使えばチタンいらない」
「リュングの言う通り、普通のスライムなら温度を全く伝わらないように出来るから、全体的な壁の厚みも薄く出来るんだよね」
「そうなってくると、私の出番はあまりなさそうですね」
「そんなことないよ。最初は貴族向けに販売するから装飾も豪華な感じにして欲しいんだよね。だからロヴンにも頑張ってもらうよ」
「お任せください!」
「ん、2人で頑張る」
「それで相談なんだけどさ、父様が言うには、販売を始めると分解しようとする人も出てくるって言うんだよね」
「それは確かに絶対出てきそうです」
「素晴らしい物だから当然」
「やっぱりそう思うんだ。それでさ、スライムの欠点をさっき話したでしょ?」
「魔術ですね!」
「ロヴン、それは違う。物理攻撃以外が弱点」
「お姉ちゃん、それって魔術と何が違うの?」
「多分、毒にも弱い」
「リュング凄いね! 大正解。毒でも溶けるんだよ」
直径10センチ、長さ1センチのスライムの糸を出す。
「いいかい? 見ていてね」
スライムの糸に毒糸から麻痺毒を垂らすと、スライムの糸は溶けて無くなる。
「「――!」」
「今のはローグヴァイパーの麻痺毒なんだけど、溶けて無くなったでしょ?」
「ローグヴァイパー!?」
「エドワード様そんな危ない毒をお持ちなんですか?」
「ローグヴァイパーはまだ大したことない方の毒だよ?」
「どこがですか!」
「ローグヴァイパー危険」
「えっ、そうなの?」
「エドワード様……ローグヴァイパーに嚙まれると、ほとんどの人は死んじゃいますよ」
「ん、ほぼ即死」
「えっ、だってただの麻痺毒なんじゃないの?」
「ただの、麻痺毒ってあんな大きな蛇に噛まれたら致死量以上なんて簡単にいきますよ! 傍にヒーラーがいるか毒消しを持ってないとほぼ助かりません」
「そうだったんだね。キラータイパンとかワンダリングデススパイダーの毒に比べれば可愛いもんだなって思ってたよ」
「キラータイパンにワンダリングデススパイダーって……エドワード様そんなのに遭遇してよく生きてましたね」
「さすがエドワード様。さすエド」
「まあいいや。それで分解しようとすると、その毒が流れてアイススライムを溶かしてしまうように出来ないかなって?」
「なるほど……アイススライムさえ溶かしてしまえば機密は守られますもんね……」
「後は、分解した人がアイススライムで怪我しないようにってのも含まれているって父様が言ってたよ」
「分解した人の安全なんて必要ないと思いますが?」
「爆発すればいい」
この2人は意外と過激だな。
「分解した人の安全はともかく、秘密保持は必要なんだけど。出来そうかな?」
「ん、任せて」
「お姉ちゃん、もう思いついたの!?」
「ロヴンが考えるから大丈夫」
「私なの!?」
「大丈夫、ロヴンも天才」
「しょうがないですね……それではエドワード様、少し全体的な構造も含めて考えてみますね」
「本当に? ありがとう! それじゃあ、頭を使うと甘いものが欲しくなるって言うから新作のデザート、スフレパンケーキを置いていくから後で食べてね!」
「「新作! エドワード様ありがとうございます!」」
その後、レギンさんの工房にも無事マグマスライムの設置も完了したのだった。




