第144話 新素材
今日は商人ギルドのアリアナさんが訪ねて来たので、エミリアさんと一緒に対応することとなった。
「エドワード様、ご無沙汰しております」
「アリアナと会うのは久しぶりですね。今日はどうしましたか?」
「まずはエドワード様からご依頼いただいていた、アングリーゴートとアングリーラビットの毛皮が手に入りましたのでお持ちいたしました」
そういえば、見つかったらラッキーぐらいの気持ちで頼んでいたような気がする。
「手に入ったんですね。偶にしか入ってこないと言ってたので、もう少しかかると思ってました」
「本来はそうなんですが、偶々エドワード様がご依頼なさった後にニルヴァ王国へ向かう商人がいましたので頼んでおいたのです」
そう言うと、アングリーゴートとアングリーラビットの毛皮を取り出した。
「ただ時期が悪かったらしく、1枚ずつしかなかったのですが大丈夫でしょうか?」
「ありがとうございます。とりあえず、あっただけでもラッキーみたいなので助かります」
「それならよかったです」
ここでエミリアさんが会話に入って来る。
「なるほど、アングリーゴートとアングリーラビットの毛皮ですか……アリアナ、その2つの毛皮は多少高くても買い取りますので、引き続き探してもらえますか?」
「多少と言うのはどのくらいまでの範囲でしょうか?」
「そうですね……最大相場の5割増しまでなら払いますのでお願いします」
「5割!? まだ色々検証しなくちゃならないから、そんなに急がなくてもいいんだよ?」
「エドワード様、この毛皮を見た時にピンと来ました。何を作られるのかは分かりませんが、爆発的に売れそうな予感がしますので早めに押さえておくべきです!」
「そうなんだ、それじゃあアリアナには面倒かけるけど引き続きお願いするね」
「畏まりました。私にお任せ下さい。もう1つはエミリア様からご依頼いただいておりましたスライムの件です」
「さすがアリアナもう見つけたのね!」
「はい、通常単価の倍でのご依頼でしたので9匹集まりました。箱に入れて外に置いてありますので、後でご確認ください」
「エミリア、スライムってどういうこと?」
「アルバン様から集めるように指示されていましたので、アリアナに頼んでおいたのです」
「おじい様から? それって……」
「エドワード様のためかと存じます」
旅から帰ってきたら頼もうと思っていたのだけど、おじい様はいつも凄いな。
僕への用事はこれで終わりという事だったので先に退出した。
早速アングリーゴートとアングリーラビットの登録をしてみようと思う。
【能力】糸(Lv6)
【登録】麻、綿▼、毛、絹、パスタ
【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、ナトリウム、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、カタストロフィプシケ、蔓、グラウプニル(使用不可)
【付与】毒▼、魔法▼
【素材】毛皮▼、ホーンラビットの角(47)、ダウン(43)、フェンリルの毛(51)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【登録製品】カタログ
【作成可能色】CMYK
【解析中】無
あれっ? 素材の毛皮に登録されちゃった! そうか、毟って毛だけの状態にしないとダメだったのか!
登録しちゃったけど、どうしよう……そういえば素材に登録した物って取り出せるのだろうか……。
イメージしてみると、無事取り出す事ができた。危なかった、もうちょっとで折角手に入れた素材を無駄にするところだった。
取りあえず取り出したアングリーゴートの毛を毟ろうとすると。
「エドワード様、そのような事は私たちがやりますので。アスィミはもう1つの方を頼んだ」
「分かりました」
何っ!? ジョセフィーナはともかく、アスィミが素直に従っただと! 落ちてた物でも食べたか?
「アスィミは体調が良くないのかな?」
「えっ、私ですか? いたって健康ですけど、どうかしましたか?」
「いや、調子が悪くないならいいんだ」
「そうですか」
うーむ、いつも賑やかなアスィミがちょっと静かなだけで変な感じだな。
しばらく待っていると毛だけになったアングリーゴートの毛を登録してみる。
『毛糸素材、アングリーゴートの毛を確認。解析しますか?』
【素材】毛、アングリーゴート、毛糸の原料
解析しますか? ・はい ・いいえ
解析は久しぶりだなと思いながら〈はい〉を選択する。
【素材】毛糸素材、アングリーゴートの毛(解析中)
【登録数】1/10
【解析予測時間】24時間(登録数によって変わります)
続けてアングリーラビットの毛を登録する。
『毛糸素材、アングリーラビットの毛を確認。解析しますか?』
【素材】毛、アングリーラビット、毛糸の原料
解析しますか? ・はい ・いいえ
そのまま〈はい〉を選択する。
【素材】毛糸素材、アングリーラビットの毛(解析中)
【登録数】1/10
【解析予測時間】24時間(登録数によって変わります)
なるほど毛糸を登録するには毛皮10枚必要ということなんだな。
「エドワード様、上手くいったのでしょうか?」
「そうだね、解析中になったから、1日待てば使えるようになるはずだよ」
「解析中でございますか?」
「そういえば、メグ姉以外は解析中の存在を知らなかったんだっけ。糸になる前の素材は一定量がないと登録されずに、解析中になっちゃうんだ。一定量がなくても時間が経過すれば使えるようになるから心配はいらないんだけど。毛皮10枚分の毛があれば解析しなくても登録できるみたいね」
「少量しかない希少品でも、時間を待てば使えるようになるということですか?」
「その通りだよ。但し少量しか登録されてないと、魔力の消費量が増えてしまうけどね」
ちょうど2つの素材を解析し始めたところで、エミリアさんがやってくる。
「エドワード様、お待たせしました。早速スライムを見に行きましょう」
エミリアさんの後について行くと訓練所に着いた。訓練所には木の箱が置いてあり、なぜか父様やおじい様たちまでいる。
「皆様、エドワード様をお連れしました。それでは木の箱を開けてもらえますか?」
これまた、なぜかここにいる家令のルーカスさんが開けてくれる。
中を覗くと確かにスライムがいた。おじい様が箱を持ち上げてひっくり返すとスライムが出てくる。
「みんなはどうしてここにいるのですか?」
「エディがスライムの核を抜き取るところを見てみたいんじゃないのかしら?」
メグ姉が答えるとみんな頷く。
なるほど、そういえば、核を破壊する方法しか見たことないんだったな。
「分かりました。それでは抜き取りますね」
前回やったときみたいに、鋼糸をスライムに突き刺してスライムの核に絡ませて一気に抜く。
成功したみたいだ。核、つまり魔石を抜くことができて、スライムは溶けることなくそのままだ。
「本当に生きたまま抜くと、本体は消えることなく残るんだね」
父様が残ったスライムの本体をツンツンして触っている。
「エドワード、これは何かに使えるのかしら?」
母様が聞いてくる。
「うーん、特に何も考えたことはないですね。でも能力で出したスライムの糸と同じ特性なら、魔術を当てなければ壊れないはずですけど」
「そうなのね」
母様がそう言って回復魔術をスライムの本体に使ってみると、スライムの体は溶けてなくなる。
「やっぱり同じようですね。生きてるスライムに回復魔術をかけると、どうなるのでしょうか?」
「おもしろそうね、やってみるわ」
母様がまだ生きているスライムに回復魔術をかけると、何も変化は起きなかった。
「生きたままってことは、生きているスライムは魔術に弱いわけではないみたいですね」
「今まで考えたこともなかったけど、最弱の魔物であるスライムのことを何も分かってなかったんだね」
「確かにおもしろいものを見ることが出来た。エドワード、残りの魔石を抜いてしまうがよい」
「おじい様、分かりました。そういえば、おじい様がエミリアに指示を出してくれたそうですね。ありがとうございました」
「エドワードのためになるのなら、容易いことだ」
残り8匹のスライムの核を抜いて、能力で取り込んだのだった。




