第14話 絹布の価値
朝目覚めた僕は机の上に置かれた絹布をみる。
「結構あるな、大体110センチ幅で25メートルぐらい巻いてあるロールが8つで、200メートルぐらいかな? そうだステータスを確認しよう」
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】1
【HP】10
【MP】310
【ATK】10
【DEF】10
【INT】300
【AGL】10
【能力】糸(Lv2)▼
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
「うん、MPやっぱり増えてるな。レベルはやっぱり魔獣を倒さないとダメなのかな」
考えても分からないので、顔を洗って、孤児院の食堂に行き、黒パンを取ってきて食べることにした。
朝食といっても黒パン1つ、以前は気にならなかったが、前世の記憶混ざってから非常にキツイ。少ない上に固くて美味しくないのだ。
孤児院では1日2食、つまり夜まで何も出ない。育ち盛りにこれでは少ない。能力と同時にこれも改善したいところである。
朝食を終えて部屋に戻るとメグ姉がいた。
「メグ姉、おはよう」
「おはよう。朝食は食べてきたの?」
「食べてきたよ、メグ姉は今日大丈夫?」
「ふふっ、今日は安息日だから大丈夫よ。デート……じゃなくて絹布を売って商人ギルドに行きましょう」
この世界にも安息日と呼ばれるものがあり。地球と同じで1週間が7日。日曜日から土曜日まで同じで神様が手を抜いたわけではないと思いたい。
神が世界を創って、7日目に休まれた。だから、1週間の7日目の土曜日を安息日として休むことになっているのだ。
まぁ、庶民に休みなんてないが、教会はお休みなので、メグ姉もお休みということである。
「お休みなのにごめんね」
「そんなの全然気にしなくていいから、行きましょう」
そう言って、僕たちは絹布を持って洋服屋に向かいました。絹布は量が多かったので、メグ姉が収納リングに収納して運んでくれた。
「ここよ」
「へーここがそうなんだ」
連れてこられた洋服屋は結構立派で、高級そうなお店だった。中に入ろうとすると。
「エディ、そこから入っちゃダメよ」
「えっ、どういうこと?」
「そっちはお金持ちようの入り口だから、私たちはこっちからよ」
そう言って裏にまわると扉を叩く。
「カトリーヌ、メグよ開けて」
「はーい」
中から、眠たそうな目にブラウンのボブヘアーが似合っている、巨大な胸が特徴の綺麗な女性が出てきた。
「メグいらっしゃい。入って……そっちの子はもしかしてエディ君!?」
「そうですけ……」
返事をしようとした瞬間。
「キャー。赤ちゃんの頃より可愛くなってる!」
そういって抱きついてきた。お胸様に顔が埋もれて息が……。
「こら、カティ! 離れなさい!」
メグ姉が引き離す。ちょっとだけ残念に思ったりはしてないはずである。
「僕のことを知ってるんですか?」
「知ってるどころか小さいときは、よくメグに連れられて来てたのよ」
「ここにですか?」
「そうよ、私もよく抱っこしたり、お乳上げたりしてたんだから」
「お乳⁉ ごめんなさい、全然記憶にないです」
爆弾発言だった。
「しょうがないわよ、3歳ぐらいまでだったし。お乳が離れた途端、全然連れてこなくなったのよねー。お姉さん寂しかったわ」
「お、お留守番できるようになったからよ」
メグ姉が答えるが、決してお胸様に嫉妬したんじゃないと思いたい。
「まぁ、いいわ。入って」
そう言って中に入る。そこは洋服を作っていたのか布が散乱していた。
僕が珍しそうに見回していると、お茶を持って来てくれる。
「はいお茶どうぞ」
「ありがとうございます」
お茶を飲み始めると、カトリーヌさんが質問してくる。
「それで、メグ今日は何の用? 服を買いに来たってわけじゃなさそうね」
「さすがカティ話が早いわ。ちょっとこれを見てもらえる?」
そう言ってメグ姉が絹布を渡す。
「……ちょっとこれどうしたの! シルク、それも最上級品じゃない!」
カトリーヌさんが興奮して叫ぶ。カトリーヌさんが動くとブルンブルンと大きく揺れる。そこに目が行ってしまうのはしょうがないと思いたい。
「最上級品なのね。カティもエディの育ての親みたいなものだから言っちゃうけど、それエディの能力で作ったのよ」
「能力で⁉」
メグ姉、いきなり全部言っちゃった。僕が心配そうにしていると。
「エディ、カティは大丈夫だから安心しなさい。この世界で私の次にエディのことを愛してる人だから」
「う、うん」
ちょっと不安だが、メグ姉を信じるしかない。
「シルクを作れる能力なんて初めて聞くわね。作れるのはシルクだけ?」
「いえ、登録した糸なら何でも作れるみたいです。今は麻、綿、ウール、絹なら作れます」
「凄いわ! エディちゃん、やっぱりうちの子になりなさい! なんならお婿でもいいわよ!」
「なにバカなこと言ってるんですか! エディはあげません。絶対ダメです!」
「そう? 残念ね、気が変わったらいつでも言いなさい。それでこのシルクどうするの? 売ってもらえると助かるんだけど」
「ほんとですか! 商人ギルドに登録したいので、買い取ってもらえると僕も助かります」
「それは良かったわ。じゃあ長さを測って、金額を出してくるから待っててね」
カトリーヌさんが奥へ測りに行く。
「エディ、良かったわね。買い取ってもらえて」
「うん、ありがとう。メグ姉のお陰だよ」
しばらくすると、カトリーヌさんが戻ってくる。
「計算してきたわよ。1メートル大銀貨12枚だから200メートルで金貨120枚ね」
「「金貨120枚!」」
びっくりである。この世界だが、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の種類があり。それぞれ25円、250円、2千500円、5万円、50万円ぐらいの価値があり。
600万円ぐらいあることになる。シルク恐るべし、今後売るときは注意しないと。しかし金貨120枚をポンと出せるカトリーヌさん、もしかして金持ちなのか。
「カティ、金貨だけじゃなくて大銀貨と銀貨、銅貨も混ぜてもらえる? 金貨だけじゃエディが使いにくいわ」
「確かにそうね、分かったわ」
さすがはメグ姉、金貨120枚に驚きながらも冷静である。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。創作意欲が沸くわ、ところで欲しい糸や布があるのだけど、また作ってもらえるかしら?」
「いいですよ。作るのに魔力を消費するので、一度で作れるかは分かりませんが、指定してもらったほうがありがたいです」
「そうなのね、ところで織り方は指定出来たりするのかしら?」
「織り方ですか? 登録したときのものになるので、それしか出来ませんが。ちょっと待ってください」
そう言うと僕は麻布を出してみる。
「麻布、赤色、1メートル」
目の前に赤色の麻布が現れる。
「麻布だとこんな感じですね。色も何種類か登録しているので指定できますよ」
「……凄いわね。こんな鮮やかな赤色見たことないわ。これは平織りね、シルクは繻子織りだったから指定できるんじゃないかしら? ちょっと待ってね」
そう言うと、カトリーヌさんは1枚の布を持ってきた。
「今出した麻布は平織りと言って、一般的な織り方ね。経糸と緯糸が交差して織られているのは分かるかしら?」
「確かに見えますね」
「それに対して、最初に持ってきたシルクがこれなんだけど、これは繻子織りといって、経糸か緯糸のどちらかしか表に出てこないように織ってあるのよ。光沢がでてとても綺麗でしょ? サテンなんて言い方もするわね」
「へー、この織り方がサテンなのね」
メグ姉がシルクを見ながら答える。
「そうよ、そしてこれが綾織りよ。糸の交差が斜めになっているでしょ。それが特徴よ。これを登録できるかしら?」
「登録するとなくなっちゃうけど大丈夫?」
カトリーヌさんが頷くので登録してみる。
【能力】糸(Lv2)
【登録】麻、綿、毛、絹
【形状】糸、縄、ロープ、布(平織り、綾織り、繻子織り)
【作成可能色】黒、紫、藍、青、赤、桃、橙、茶、黄、緑
【解析中】無
「あっ、織り方が指定できるようになりました」
「完璧よ! ふふふ、アイデアが湧き出てくるわ!」
そう言うと、カトリーヌさんはデザインを考えるのに没頭しだす。
「こうなると、話しかけても聞こえないから行きましょう」
僕たちはカトリーヌさんの店を後にしたのだった。




